012 インフラの仕組み
家に戻ったが、じぃやはまだ帰っていなかった。いや、違う。厳密には一度帰ってきて、再び外に出たようだ。家の至る所に積もっていた埃が消えていた。
「よし、私が代わりに料理を作ってあげよう!」
キッチンに移動して、調理を開始する。
作るのはクリームシチューだ。
(今世で包丁を握るのって、何気にこれが初めてだなぁ)
私には前世の記憶がある。こことは違う世界で過ごした記憶だ。
思い出したのは物心がついた後、10歳かそこらの頃。ホラ話をしてもおかしくない年頃だったこともあり、じぃやは作り話と思い込んでいる。
「えーっと、ここから先はどうやるんだっけ」
とりあえず、じゃがいもやにんじん、ブロッコリーなどを適当なサイズにカットして鍋の中に放り込んだ。塩で下味を付けた鶏肉をフライパンで熱して焼き色もつけた。
「そうだ、バターだ! バター!」
「ミレイユ様! 危険ですのでおやめ下さい!」
知らぬ間にじぃやが戻ってきていた。いきなり私が料理を始めたものだから驚いている。足下には買い物袋が転がっていた。
「料理をするならじぃやが傍に居る時にしてください!」
じぃやは私をひょいと持ち上げ、コンロから離した。
「大丈夫だもん!」
「そうかもしれませんが、ミレイユ様に何かあったらじぃやはいたたまれません」
「じぃやは心配性だなぁ」
「それがじぃやなのです」
私は「むぅ」と唸るが、食い下がらなかった。ここで「前世でたくさん料理したから大丈夫」と訴えても、じぃやは「今はそういう冗談を言う時ではありません」とかなんとか言って取り合ってくれないだろう。
「じゃあ、今度、私にも料理を教えてよ。もう聖女じゃないんだから、私だって料理を作りたい。じぃやに美味しい料理を食べさせてあげたいの」
じぃやが優しい笑みを浮かべる。
「かしこまりました。では、この後の作業は一緒にしましょう」
「うん!」
「これはシチューを作ろうとしていたのですよね? まだ始めたばかりのようですが、なかなか上手で感心しました。ミレイユ様は料理の才能がありますよ」
「でしょー? ふっふーん」
じぃやの指示のもと、手分けしてシチューを作る。
「そういえばじぃや、何を買いに出ていたの?」
「魔石でございます」
「魔石……ああ、バッテリーのことね」
「バッテリー?」
「気にしないで」
前世と今世でインフラの内容は似ているが、供給方法が異なっている。
例えば前世だと、電気は発電所から電線によって各家庭に供給されていた。
今世――つまりこの世界では、魔石によってエネルギーを確保している。前世の家庭でブレーカーが取り付けられていたような所に魔石の設置ボックスがあり、そこに専用の魔石をセットすることでインフラ各種が使用可能になる。
魔石に蓄えられる魔力の量はそれほど多くないので、年に何度かは魔石の魔力を充填する必要があった。この時にチャージされるのは聖女の魔力である。
「帝国領になってから魔力のチャージ料金が大幅に上がったとは聞いていましたが、まさかこれほどとは思いませんでしたよ」
「そんなに酷いの?」
「ホールデン公国の約二倍です」
「ひえぇー。帝国ってぼったくりなんだね」
「どちらかといえば公国が安すぎました。ミレイユ様の魔力量が凄まじかったので、奮発して使えたわけですな」
「魔力だけは凄かったからねー、私!」
「そんなわけですので、ガス、電気、水の魔石の予備を購入したら、金銭面でやや心許なくなってまいりました。余裕がある今の内に、お金を稼ぐ方法について見当を付けておく必要がありそうです」
「お金といえば、牛乳を売るのはどうだろ? 大好評だったの、我が家の牛乳」
「じぃやの方も大好評でした。特にバーミリオンさんは……」
「バーミリオンさんは?」
ニヤニヤしながらじぃやを見る。
「…………」
じぃやは咳払いをして、「とにかく」と話を流した。
「牛乳を売るのは一つの案としてありだと思います。ただ、物を売るのはそう容易くありません。いい物を安く販売すれば売れる、というものでもないのです」
「経営の難しさってやつだ!」
「さようでございます。ですから、商売を始めるなら、まずは他の同業者のもとで働いたり、アドバイスをいただいたりする必要があるでしょう。今の我々は商売のイロハが何も分かっていないので」
「ふむふむ、なるほどなるほど」
私は顎を摘まみながら考える。すぐにピンッときた。
「そういうことなら、いいアイデアがあるよ!」




