9話 続・テニヌの練習
それから休日はテニス及びテニヌの訓練に没頭。
ランチはファンヌの作った弁当を手に和やかに談笑するのであった。
そして休日最終日、お昼が終わった後のことである。
「どっびゅーん!」
ファンヌが白けた顔で見る先にはステッキとチアガールのような衣装に身を包んだ王女ティートリアの姿であった。
美麗で注目度抜群のため休日でありながらティートリア目当てで男子生徒が多数を押し掛けていた。
「ティー様、何しに来たんですか」
「え、決まってるじゃないですかぁ! ティーも生徒会役員の一人。ファンヌさんとエクセルくんの応援に決まってますぅ!」
動くたびに揺れる胸元にファンヌはチッと舌を打つことにした。
湧き上がる男性生徒達。
エクセルも双子の姉の行動に頭を抱える。
「関係者以外は立ち入り禁止です!」
ファンヌは生徒会長権限で外野をシャットアウトすることにした。
「それでティー様は来賓役なのでしょう。そちらは大丈夫なのでか?」
「はい! いっぱいカンペを用意してもらったので安心ですぅ」
いつものことなのでファンヌは何も言わないことにした。
ティートリアに必要なことは王家みんなわかっている。そしてそれでティートリアが持ち上げられ、褒め称えられることが嬉しいことも本人が一番よく分かっていた。
ティートリアは友達がいない分承認要求が実に強い女の子であるのだ。
「ファンヌさん! ヴェイロンくんは強いですからね、気をつけてくださいねぇ!」
「あくまで交流会ですからね。大丈夫だと思いますよ」
「でも、ヴェイロンくんは昔から人を完膚なきまでに叩きこむ人ですからぁ」
「……心配してくれているんですか?」
「当然じゃないですかぁ、ファンヌさんはティーの友達なのですからぁ」
「っ」
思わぬ言葉にファンヌは目をぱちくりさせてしまう。
ファンヌも孤高ゆえに友人がいない。
元来復讐のため1人で生きていくことを覚悟したこともあり、全体的な能力が高く、失敗が劇的に少ない。
ゆえにこうやって心配されることに対して慣れていないということがある。
(……断首台に送ってやろうと思っているのにそんなこと言われたら鈍ってしまうじゃないですか)
優しい言葉に慣れていないファンヌはそうような言葉に弱い。
ティートリアの言葉に嬉しさを思わず感じてしまい、目を背けてしまう。
(断首台に送るまでは仲良くするとしましょう。友達ですからね)
気持ち改め、テニヌの練習を開始する。
「がんばれ〜〜、ファンヌさん! エクセルくん!」
ティートリアは得意な炎魔法を使って、炎芸を見せ始める。
彼女のは座学は絶望的だが魔法を操る能力は高い。
炎は士気高揚の力もあり、ファンヌやエクセルのやる気を向上させる。
後で魅惑的な王女の応援を経て、ファンヌとエクセルはテニヌの練習を続けるのであった。
すでに実戦的な練習となっている。
魔力を込めた魔法弾を精製し、それをボールと見立てて打ち出す。
相手をノックアウトさせることも戦術だが力が均衡している場合は通常のルールのようにコート内で弾ませ返させなければ良い。
テニスとしての技量、魔法を扱う力どちらもなければテニヌの試合に勝つことはできない。
セルファート魔法学院は魔力に適した生徒が数多く存在する。
彼らに勝つには並大抵の努力では勝てない。
「今日はこのくらいにしましょうか」
「はぁ……はぁ……」
エクセルも体力の限界のようで肩で息をしていた。
「しかしこれだけ動いて息を切らさないとは……君はすごいな」
「そうでもないですよ。抜く時には力を抜いていますから。わたくしとて普通の女。全力で動けば先に動けなくなるのは当然です」
「美しいだけではないということだな!」
「そ、それは関係ないでしょう!」
体力の件はまったく嘘であった。
ファンヌは全くと言っていいほど疲れていない。
しかしそれを言えば偏見の目で見られるのは間違い無いので誤魔化すのである。
「それよりエクセル様の上達の方がすごいです。始めはラケットを投げるレベルだったのに3日ほどで1人前以上に成長なさるのです」
「ファンヌには全然敵わないがな……」
「わたくしは生徒会長ですから」
「そうが。……兄上であればファンヌと対等にいられるのだろうな」
エクセルは後ろ向きな所がある。
それはオラオラの第一王子ヴェイロンの影響であることが明らかだ。
ゆえにヴェイロンと比較され続けた結果……前へ出ることを恐れているような感じにも見える。
ファンヌはそんな事情も踏まえ、エクセルの側へ寄った。
「エクセル様はエクセル様です」
「ファンヌ?」
「わたくしの目の前にいるのはエクセル様です。ヴェイロン様ではありません。わたくしが必要としているのはエクセル様であって、テニヌのパートナーも副会長もエクセル様でなければダメなんです」
「君はこんな俺を必要としてくれるのか……王族でも兄上や広告塔として重宝されているティーと違って俺は何もないんだぞ」
「わたくしとて婚約破棄された身分の低い女ですよ。そんなわたくしとエクセル様が組んでみんなに打ち勝てば楽しい。……そう思いませんか?」
「そうか……そうだな。それぐらいの気合いがなければだな」
日も落ち始めて、夕陽へと姿を変える。
魔法学院の下校時刻まであとわずかとなっていた。
「ファンヌ」
エクセルはファンヌの名を呼ぶ。
「はい?」
「君がパートナーで良かった。これからも一緒にいてくれ」
「は、はい!」
(一瞬告白かと思っちゃった)
ファンヌは火照る顔を夕日で隠そうとする。
元々ヴェイロンへの復讐目的でエクセルに近づいているが、ファンヌなりにエクセルの取り巻く状況、彼と関わる上で知るようになっていた。
(エクセル様を王にするためにはもっと自信をつけてもらわないと……)
そのためにはもっとエクセルを成長させないとならない。
もっと奥深くまで関わり、親密な関係になる必要がある。
ファンヌに全てを見せ、虜に自分に都合の良いように動かせるのだ。
(そこに恋愛感情なんてあるはずない。彼を支えたいと思ってしまうこの気持ちはきっとまやかし……だよね)
相反した気持ちが芽生えるのを何とか否定し、ファンヌは向き直る。
「早く帰らないといけませんね。それにもうすぐ夜なのに何だか熱くて……」
顔も胸も何だか熱い。
これはもしかすると……恋心。
ファンヌはグッと手で胸に触れ、その熱さを押さえ込もうとした。
そして後ろを振り向く。
……メラメラと校庭が燃えていた。
「あー熱さってこっちでしたかぁ」
「火事だ! ファンヌ、消火活動をするぞ!」
そこで全てを理解する。
いつの間にか王女ティートリアの姿が消えていたことを……。
彼女が炎魔法を使った応援をしていたことを思い出す。
ファンヌの胸に宿った熱い想いは本当にまやかしだったのかもしれない。
「やっぱあの女、すぐに断首台に送った方がいいわね」
この日を境に断首ゲージは大幅に上昇してすることになった。




