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6話 策略タイム

「ではエクセル様、明日からテニヌの練習を宜しくお願いします」


「ああ、美しいファンヌと共にスポーツなんて明日は楽しみだ。テニスウェアの君も大層映えることだろう」


「ぐぅぅ!」


「エクセルくん、ティーも褒めてくださいよぅ!」


「エ、エクセル様はティー様を褒めた所を見たことないのですが……褒めないのですか?」


「あはは、ファンヌ。ティーに褒めるところなどまったくないだろう。何を言ってるんだ」


 柔らかな笑顔でエクセルはそんなことを言う。

 天然王子ゆえに一切の遠慮もない。

 この双子の姉弟、実はそこまで仲がよくなかった。


 生徒会の業務を終えたファンヌは帰路へとついていた。


 エストリア魔法学院は寮があり、貴族の生徒達は領地から通えるはずもなく寮生活を送っている。

 しかし、ファンヌは魔法学院のある街に居住しており、寮に住む必要がない。

 ファンヌにも専用の個室は分け与えられいるが、親しい友人もいないファンヌは寮で住む意味は無かった。


 ちょうど日がくれた頃にファンヌは自宅へ到着した。


「ただいま帰ったわ」


 ファンヌの言葉にがちゃりと居間から女性が出てくる。


「おかえりなさいませ、ファンヌお嬢様」

「ええ、ただいま。エリエス」


 メイド服に身を包んだエリエスはざっと一礼を行った。

 エリエスはタルアート家に仕えるメイドであり、ファンヌの身のお世話の仕事をしていた。


「お父様とお母様は?」

「アルベルト様は大轟龍討伐のための支援に。ミュンエル様は邪心大神殿へフィールドワークへ行かれています」

「そう。なら2週間くらい戻ってこないわね」


 大変つっこみたくなるような両親の移動先にもファンヌはぴくりとも驚きも見せない。

 両親の行動に対して何か思うのは今更ということだ。

 ファンヌの両親が世界にもたらした功績を思えば……当然と言えよう。


「というわけでお嬢様に指示頂いた通り……食材を買って参りました」

「ありがとう。それでいいわ」

「ですが暇だったのでお嬢様のために料理を……」

「ん?」

「そして家事を……」

「……」


 ファンヌは慌てて、居間や台所に目を寄せる。

 そこはあまりにもひどい有様であった。

 台所は壁が燃えて、食材をまき散らし、居間はボロボロの洗濯物を床に乱雑に汚れて置かれていた。


 ファンヌは頭を抱えてこの参上に息を吐く。


「エリエス」

「できないことはやるもんじゃないですね。お嬢様、ごめんなさい」

「ぐーで殴るか。パーではたくかどっちがいい?」

「どっちでもいいですけど多分手が痛くなるのはお嬢様ですよ」


 それもそうだとファンヌは肩を下ろしてしまう。

 タルアート家所属のメイド、エリエスは料理も家事もまったく出来ないお馬鹿メイドである。

 エリエスの役割はまた別にあるのだが……ファンヌは増えた仕事に疲れがどっと増えることになった。


 台所と居間の掃除を終えて、ファンヌは夕食を作った。

 この家にはまともに料理できる人間がいないため幼少時からファンヌが料理当番となっていたのだ。


「まったく……私が貴族に嫁いだらあなたも父様も母様もどうするつもりなのかしら」

「うーん、昔みたいに森で狩りですかね~。丸焼きなら私も得意ですよ」

「野蛮……」

「まぁ、雷(ネズミ)ですからね私は」


 主の作った料理をいの一番に食べるメイド。

 もはや主君の常識から大きく外れてしまっている。

 言っても仕方ないのでファンヌはなにも言わない。


「お嬢様の指示通り、第二王子のことは調べさせて頂きました」

「そう、それで首尾は」

「少なくとも悪い噂は全くありませんね」

「私の目に間違いはなかったようね。だけど前にも言った通り、私は第二王子の婚約者となり、第一王子を蹴落とす。そのためにはエクセル様の弱みを握らないといけないの。分かるわよね?」


「お嬢様の受けた屈辱は私も知る限りですからね」

「そう、つまりこれは情無き頭脳戦なのよ。絶対に絆されてはならない」

「じゃあお嬢様は全く、一ミリも第二王子に想いを寄せていないんですね」


「んぐっ」


 エリエスの言葉に手に持っていたティーカップが大きく反応してしまう。


「え、ええ。その通りよ」

「んじゃ、3年の公爵令嬢が第二王子に告白した件は放っておいても良さそうですね」


「待ちなさい、そんな情報知らない」

「付き合う感じじゃなさそうでしたよ」


「どこのメスがエクセル様を……? やっぱりエクセル様ってモテるのよね?」

「そりゃ第二王子だし、美男子ですからね。オラオラの第一王子と違って少し影があって、優しさがあるのが人気だとか」


「そうそう! あのね、あのね! そんな影があるところが素敵なんだけどこの前、ボーン寮の平民達と仲良く学院内の清掃されていたのよ。上級貴族なら誰もがやらないようなことをエクセル様は積極的に動かれるの。体操着にシャベルを持つ姿といつもの凛々しい制服での姿のギャップがたまらなく可愛いの!」


「はいはい」

「エクセル様はお花が好きで生徒会が所有するサロンもエクセル様がお世話されているの。前に私に気づかずお花の香りを嗅いでる所を呼び掛けたらものすごく驚かれて……、いつも私をびっくりさせるからこちらかららびっくりさせられたから! ふふっ」


「もう一回聞きますけどお嬢様は全く、一ミリも第二王子が好きじゃないんですよね」


「……」


 ファンヌはエリエスから顔を背けた。


「全く好きじゃないわ」

「そうですか。まー、食事冷めちゃいますし、食べましょう」


 タルアート家、メイドのエリエス。

 ファンヌがかつての地を出すことのできる唯一の人物とも言える。


(そう、これは恋ではない。恋をしてはいけない。エクセル様が私なしでは生きられないようにするためには彼から恋をさせなければならない)


 ファンヌは窓から夜空を見上げる。


(明日のテニヌの練習で……好感度を上げて告白させてみせる!」


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