7話 テニスの練習
「では早速……テニヌの訓練と参りましょう」
翌日、エストリア魔法学院所有のテニスコートでファンヌとエクセルは向かい合う。
セルファート魔法学院との交流試合まであと1週間と迫っていた。
「今日から3連休。3日挟んだ次の日が交流戦となります。がんばっていきましょう」
「テニヌは確か5人で戦う競技であったな」
「ええ、正確には5人まで参加できるってところですね。実力のある強者は1人でも戦うことができるそうです」
「ティーは来賓をもてなす係として参加できない。他の生徒会役員は遠征授業で参加できないが、他の3人に当てはあるのか?」
「テニス部に掛け合ってみたらテニヌができる方がおられたので力を借りようと思います」
「そうか。そうなるとやはり俺とファンヌが鍵となりそうだな。ファンヌはテニス歴があるのか?」
「貴族の嗜みですから。と言っても嗜み程度ですが……。ふふっ、エクセル様はどうですか?」
「全くない。ラケットを今日初めて触った」
「へ?」
思わぬ変な声が出てしまったファンヌだったが切り替えることにした。
王家の人間は魔力が高く運動能力も高い。
第一王子ヴェイロンは完全無欠だし、王女のティートリアも座学は絶望的だが、実技は優秀だ。
なのでファンヌは何も心配しなかった。
(ある程度連携が取れればダブルスでエクセル様と組むことにしましょう)
そして思い浮かぶ光景。
2人協力し合ってテニスを楽しむシーンがファンヌの脳内に広がっていく。
点を取りあって、お互い手を合わせ勝利を喜ぶ。
その後少しよろめいたふりをして密着し合うのだ。
「きゃっ」
「大丈夫か、ファンヌ」
「少し疲れて足を痛めてしまったようです」
「そうか……なら俺がお姫様だっこをして保健室へ連れて行こう」
エクセルに抱かれて、ファンヌは魔法学院の校舎を進む。
休日に学院に出てきた生徒に囃し立てられてその頬は赤く染まった。
「エクセル様、お姫様抱っこは恥ずかしいです……」
「なぜだ? 足を痛めているのだから仕方ないだろう」
「わたくし……重くないですか?」
「重いはずがなかろう。華奢で優美で世の中の女性が全てファンヌのようならと思うよ」
なだらかな金髪がゆれ、整った顔立ちで微笑まれると胸が熱くなる。
長い睫毛と碧色の瞳に射抜かれてファンヌは酔ってしまいそうな感覚に陥った。
そこでエクセルの顔もやや赤いことに気づく。
「エクセル様、どうされたのですか?」
「あ、いや……君の顔をこうやってまじまじと見つめるとわかったことがある」
「は、はい」
「ファンヌ、君は本当に美しいな。黒髪に華奢な体はよく似合う。兄上が君を退けた理由がわからないよ」
「エクセル様、それって」
「どうやら俺は君を好きになってしまったようだ。俺の婚約者になってくれ! 俺にはファンヌが必要だ!」
(これだ!!)
ファンヌの中で筋書きが完璧に出来上がった。
この筋書きをなぞるためにファンヌはいち早く行動を開始した。
テニスコートで両サイドに分かれる。
テニヌの練習をする前にまずテニスの動きを体に染み込ませる必要があった。
「行きますわ、エクセル様!」
「ああ!」
テニスボールを上に投げて、落ちてきたボールをラケットで打ち抜く。
かなり弱めに打ったようだ
初めてだったことと、弱者アピールも1つである。ファンヌは華奢な女の子、そのイメージをエクセルに刻み付けなければならない。
そのボールを予想通りエクセルはおぼつかない動きで打ち返す。
(ゆっくりと返……す!?)
ただ打ち返されたボールをファンヌは未動にも動けず立ちすくむ。
ボールが早すぎたわけでもない。ファンヌが反応できなかったわけでもない。
理由は一つ。
ラケットも一緒に飛んできたからである。
ガシャンと音と一緒にボールはてんてんてんとコートの外へ行く。
「あのエクセル様?」
「手が滑ってしまったようだ」
「そ、そうですよね……」
ガシャン
ガシャン
ガシャン
ふざけた音が3回続く。
「ラケットをぶつけてノックアウトさせるのはテニヌのルール上ありですが、避けられたら……終わりですよ」
テニヌのルールはあくまでラケットで打つことである。
ラケット自体にも攻撃判定はあるが、手で打つことは禁じられている。
「ファンヌ」
「はい?」
「ラケットが必ず飛んでいくのだがどうしたらいい?」
「エェ……?」
学内では凛々しくあるよう振舞うファンヌから実に低い声が漏れた。
端的にいうとエクセルは絶望的に不器用であった。
王家の血筋ゆえに身体能力や魔法操作は問題ないものの、絶望的に球技と相性が悪かった。
(ダブルスでエクセル様を落とすはずが……」
未だ向かい合ってボールを打ち続けている。
飛んでくるラケットを避けて、ボールもついでに打ち返す。
テニスの練習をしているのにさっそくテニヌの練習になってきている。
だがそれはちょっと違う。
(これは前途多難だわ)
ファンヌは予想以上のエクセルの不器用っぷりに危機感を募らせた。




