没話 エクセル・ヒュッセ・セルファート
俺、エクセル・ヒュッセ・セルファートの人生は兄上の敷いたレールの上を進んでいた。
王族として王子として宮廷剣術、魔法、学問全てを納めてきたが……やることなすこと全て、あなたもスゴイがヴェイロン様はもっとすごいということだった。
同年代の上級貴族の子息に負けないように必死になっても兄上という絶対的な強者には敵わずにいた。
始めはそんな兄を尊敬することもあったが、根本的に性格が合わないということもあり、正直苦手意識を持っている。
そしていつしか俺は兄の後追いをやめてしまった。
俺が20の時に王位継承の式典があり、兄か俺かが選ばれることになるのだが……兄を超えることなどできるはずもないし、半端に頑張って王位継承のため兄弟で争い血を流す可能性となるぐらいなら初めから頑張らない方がマシだと思ったこともある。
双子の姉であるティートリアは性格は最悪だがその美貌だけは誰もが認める所にあり、兄すらもその存在価値を認めている。
俺だけが……王族にとって不要な存在であると感じていた。
兄の効率的な生き方と違うこと……俺は芸術に興味を見いだした。
俺は美しいものを見ると気持ちが高揚することがわかり、特に草花を見ると気持ちが安らぐことも分かった。
庭師に話をして王城の庭園に手を入れさせてもらうようになる。
そんなある日のことだった。
「えぐっ……ひっく……」
庭園で一人の貴族の女の子が泣いている所を見かけた。
この庭園は入り組んでおり、大人でも迷うことがある。
恐らくそれだと思い、その女の子に声をかけることにした。
「どうしたんだい?」
「ふぇ……?」
その女の子はとても美しかった。
単純めいた美しさであれば血の繋がった姉の方が美しさなのだろうが……、俺の頭を虜にするほどの魅力的に思えた。
おかっぱ頭の黒髪で平民と間違えそうなほど……素朴な女の子だ。
なのに……その女の子の中に英雄的な何かが見えた気がした。後にそれも分かることになる。
単純に……好みの顔をした女の子だっただけなのかもしれない。
「お名前を教えてください!」
「ヴェイロン・ヒュッセ・セルファード……」
当時、俺は顔の似ている兄と間違えられることが多かった。
兄を期待した令嬢達が自分の名を言って表情を曇らせることが本当に嫌だったのだ。
この子も曇らせたくない、その一身で兄の名を口走ってしまった。
後に彼女が兄の婚約者となり、その後婚約破棄されたことを聞き……俺は後悔した。
そして幾多の時が過ぎる。
15歳でエストリア魔法学園に入学することになった。
兄がティーと同じ学園は絶対嫌だと言ったためティーはエストリアへ通うこととなり、当然お目付役に俺が抜擢されることになる。
俺でもティーを制御することはできないが、殴って引っぺがすことぐらいはできるので……役割としてはそれだけだ。
俺は誰にも期待されていなかった。
本気を出せば少なくともエストリアでもトップになることはできるだろう。兄には及ばないものの、自分の才覚を自覚していた。
だが、無駄に活躍して兄を刺激する必要もない。基本学習だけに納めてなるべく目立たぬようにしよう。
王族になりたい貴族達から婚約の話もあったが、兄が王になった先には皇族の身分を脱すことも考えていたので全て断っていた。
さすがに巻き込むわけにはいかない……。
目立つことなく、ただ草花を愛でる日を送ろうと思っていたあの入学式の日に
彼女と出会った。
「平民だからと言って乱暴しようするなんて……貴族の風上にも置けませんねぇ」
「んだと……ぉ」
一人の女子生徒がボーン寮の生徒、つまり平民達の前に立ち貴族生徒と対峙していた。
「おい、この女……あれだぜ、王子に婚約破棄されたあの……」
兄の婚約はあの事件以来決まっていない。
兄自身が断っているのもあるが、あんな風に婚約破棄をされてはたまらないと貴族達も逃げ腰となっているのだ。
ということはあれが兄に婚約破棄されたという……少女、ファンヌ・タルアート。
艶のある黒髪を背中まで伸ばし、華奢な外見はそのまま、表情だけが固く畏怖をまき散らしている。
「だが美しい……」
俺の好み、そのままの外見であったのだ。
「ああ、こけし女か」
「こけし女って低級貴族だろ? だったら構うことはねーよ」
「誰がこけしですって」
ファンヌから発せられた言葉も貴族生徒達にも響かない。
ただ。
足を上げたファンヌが振り下ろし、石段の地面をぶち破ったのを見て、全員が細く甲高い悲鳴を上げた。
「私にこけしと言ったものには等しく罰を……」
何だか知らないがものすごくキレてるように見えた。
俺はすぐさまは間に入る。
「道の往来で喧噪はよくないな」
「なに……あ、王子!」
「エクセル様、も、申し訳ありません!」
彼らは恐らく下級貴族。自分には何もないというのに王子というだけで恐れられる。
「見苦しいマネはやめた方がいい。見なかったことにするから立ち去るんだ」
貴族の男子達は俺の言葉通り慌てて逃げ出してしてしまった。
これで良い……あとは。
「君も静まるんだ」
「ギッ!」
強烈に睨み付けられる。
あまりの気迫に怖じ気づきそうになるが、王族として矜恃もあり……耐え抜く。
「ファンヌだったな……俺はエクセル・ヒュッセ・セルファート。その牙を解いてはくれないだろうか」
「え、あ……第二王子」
ファンヌの牙は抜かれて、気が落ち着いた。
「も、申し訳ありません……」
それだけ言ってファンヌは俺の横をすり抜け、去ってしまう。
それから……もファンヌの噂は絶えず聞こえ続けていた。
低級貴族でありながら学年トップクラスの成績を誇り、魔力量は上級貴族を超えて圧倒的にトップ、教師や上級貴族に媚びない崇高な志を持っていた。
嫌われ者ではあったが……決して弱者を蔑ろにしないことも好印象だ。
会話すると嫌われるティートリアと対等に話ができるのは双子の俺からすれば異常ともいえることであった。
聞けばファンヌには情報源があり、それが彼女の立場を支えているという話もある。
彼女の父と母が英雄であるからその筋なのかもしれない
◇◇◇
「オレ達とこうやって話してくれるのって王子様くらいなものですよ」
エストリア魔法学園には生まれつき魔力を持つ平民達がわずかに通っている。
ボーン寮というボロ家の寮に押し込められ、貴族達に逆らえない彼らは選ばれし者なのに非常に待遇が悪い。
俺にとっては学園の庭園の掃除なども含めて気さくに話せる仲で探り合いの多い貴族の会話よりもよっぽど心地よいものであった。
「あ、でも」
特に仲が良い生徒と土いじりをしながら会話を楽しむ。
「タルアート様も平等に扱ってくれますね」
「彼女もなのか?」
「ええ、たまに仕事を振ってくるんです。……怖くて偉そうで苦手なんですけど他の貴族と違ってちゃんと報酬を渡してくれてるんです。誰に対しても高圧的だから……ほんと平等なんですよね」
教師から受けた頼まれ事を平民に押しつける貴族は多い。
なのに報酬は渡さないためそういう貴族生徒は平民に嫌われている。
しかし、ファンヌはそのようなことせず……平等に人とに接しているようだ。
俺はファンヌに興味が出ていた。
好みの容姿をした女の子というのもあるが……その生き様が気になってしまったのだ。
だが婚約破棄をしてしまった男の弟でもある。警戒はされてしまうだろう……。
そこで考えたのが生徒会であった。
俺は第二王子ということでほぼ生徒会入りは確定している。
双子の姉のティートリアも同様だ。
この学園の生徒会長は代々上級貴族から選ばれるのだが……上級貴族から推薦があれば下級貴族でもなることができる。
だから俺はファンヌを推薦して押し上げることにした。
彼女が上昇志向にある人間であれば……きっと上がってくると思ったからだ。
そして俺は教師の説得に応じず、生徒会長ではなく副会長になることに決め、選挙で勝ち抜いたファンヌが生徒会長になった。
……ファンヌと争った有力候補者達が皆立候補をやめてしまったのはどういう理由だろうな。
名実ともにファンヌ・タルアートは生徒会長へとなったのであった。
生徒会長と副会長の初顔合わせが行われた。
「お会いするのは二回目ですね。エクセル様」
「ああ、そうだな」
「生徒会長としてこの学園を良きものにしていきたいと思います。ですので……エクセル様も王になるくらいの気概を持って頂きたいですね」
「ファンヌ、少しだけ言わせてもらってもいいだろうか?」
「はい?」
笑顔を崩さないファンヌは俺を見ているようで見ていなかった。
婚約破棄をした兄、ヴェイロンを強く意識しているのは確実だった。
だから……俺は君を振り向かせたい。
「君は世界の誰よりも美しい。俺と共にこの学園を盛り上げていこう」
「ほわっ!?」
顔を真っ赤にさせる君がとても愛しいので1日1回以上、君に美しいと言い続けようと思った。
兄のことを忘れて、俺だけに振り向いてもらえるように……。
君に好きだと言ってもらえるように……君から告白されるような男になってみせよう。
これがエクセル視点のお話となります。
本編に入る所がなかったのとオチが弱くてうーんだったけど没話だしいいかって感じで投げさせて頂きました。
それでは今度こそ本当に終わりとなります。ありがとうございました!




