17話 パーティにて
セルファート魔法学院には王族を招いてパーティをすることができる規模の大広間が存在する。
セルファート、エストリアの交流会は年に数度存在するがお情けの1回を除けば基本セルファートの方で開催されるのだ。
テニヌの試合の間に準備は進められて、試合の疲れを癒やせぬまま生徒会メンバーはパーティに参加することになる。
ファンヌもエストリア魔法学園の生徒会長としてこの地に立つ。
(このドレス、大丈夫かしら……。大丈夫よね、コレを仕立ててもらうために毎日弁当生活を頑張ったんだから……)
タルアート家は裕福な貴族家庭ではない。
収入の大半を研究に使う母と奔放な父のせいで財政が不安定であった。
ファンヌは金銭の使用のスケジュールを立てて、この日のためにパーティドレスを仕立てたのだ。
もし、このドレスを汚されでもしたら血の果てまで追っかけて倍で支払わせることだろう。
このパーティは王族が招かれることもあって低級貴族はお呼びでないという風潮になっている。
呼ばれるとすれば何かしらの成果を上げた生徒とその両親のみであった。
ファンヌも生徒会長という成果があるため参加するが多忙な父母はここにはいない。
1人でポツンといるのは嘲笑の的となるので取り急ぎ誰かと話すため足早と移動した。
「今日は良き日ですね」
見知った顔を見かけたため声をかける。
「げっ……」
その女性はとても美しい容姿をしていて、常ににこにこ顔であったがファンヌの顔を見た瞬間、仮面が崩れる。
「リアンヌ様と試合できることを楽しみにしていたので残念です」
「しらじらしいことを」
セルファート魔法学園、生徒会副会長リアンヌは昨日私兵を使ってファンヌを襲撃し、反撃を受けてしまっていた。
午前の試合は体調不良で休むしかなかったが、このパーティを休むわけにはいかず……こうやって気分が乗らぬまま出席することとなる。
「わたくし、リアンヌ様と是非仲良くなりたいなと思うのです。ところでヴェイロン様の側に行かなくて良いのですか」
「はぁ……これは他言無用よ」
「当然です」
(無用かどうか決めるのは私ですが)
セルファート側の情報が貴重である。
第一王子ヴェイロンを出し抜くには少しでも情報が欲しい。
個人勝負であれは誰にも負けない自負がファンヌはあったが、ルロワーゼにはかすかに届かなかった。
事前情報があれば同じ結果にならなかった可能性がある。
公爵令嬢派と印象付けておけば情報も得やすい。
この公爵令嬢でれば手玉に取れそうだとファンヌはほくそ笑んだ。
「ヴェイロン様は最近、独自に動かれるのが多いの。中等部まではわたくしやコールを側につけていたのに……最近はあの女」
リアンヌは憎たらしい目でそちらに視線を向ける。
そちらには……一人乏しい表情で飲食をするルロワーゼの姿があった。
「あの女ばっかり重宝する……この前も」
(聞き流しモード)
このモードに入ったファンヌは余計な話を聞き流し、重要そうなワードだけを耳に入れる省エネモードとなっている。
主にティートリアとの会話で使われる。
「リアンヌ様、宜しいか」
「はい、フェランド侯爵様! いいかしら、ファンヌ・タルアート。あの平民を出し抜くなら手を貸してやってもいいわ。弱みを握ったら私に連絡なさい。いいわね」
「は~~い」
あれでも公爵令嬢、お忙しいのねとファンヌは鼻で笑った。
次の目的はあそこで佇むルロワーゼであったが……いつの間にやら燕尾服を着た男子生徒達に囲まれていた。
和やかな雰囲気ではなさそうだ。
「この場に卑しい平民がいるぞぉ」
「……」
「ああ、平民というのはどうしてこうにおうのだろうな。育ちが悪いのか」
「……」
侯爵家の子息、コール・ロンドランは取り巻きを連れてルロワーゼにしつこく絡んでいた。
先ほどのリアンヌの言動を思うにヴェイロンをルロワーゼに取られてしまったことから嫌がらせをしているのだろう。
相手が平民であるから反抗できないと分かっているからの所業である。
ルロワーゼは気にすることなくもくもくと食事をしていた。
ファンヌは他校のもめ事には積極的に関わらないと考えていたが、些か長い。
パーティの時間は有限である。
コールの罵倒で時間消費するのはファンヌにとって納得できないものであった。
「ヴェイロン様の目の前で敗北したそうだな」
「っ」
ルロワーゼにわずかに反応が見られた。
「生徒会役員として恥ずかしいと思わないのか。ほんと平民ってやつは!」
「おかぁしゃまって叫びながら昏睡する生徒会役員の方が恥ずかしいのではないでしょうか」
コールはばっと振り向き、口を滑らせたのがファンヌであることを知り顔をカッと熱くさせた。
「き、き、貴様は……」
「コール様、試合ぶりでございますね。おケガはありませんか? ま、あるわけありませんね。魔力弾ぶつけたですから」
「よくも僕に……恥をかかせたな! 低級貴族のくせに……!」
「これは大変申し訳ありませんでした」
飄々とファンヌは受け答えする。
頭に血が上った無能を制御するのは容易く、そして楽しい。
「この落とし前……どうつけてくる気だ」
「そうですね。ではエストリア魔法学園の生徒会長として同じ立場のセルファート魔法学園の生徒会長に直接謝罪しましょう」
「は?」
「低級貴族のわたくしが侯爵家のコール様を試合という場で公式で許可されているにも関わらずノックアウトしたことをヴェイロン様に謝罪しましょう!」
「ぬぐっ!」
コールは歯を食いしばりファンヌをにらみつける。
さすがに取り巻きの生徒達も動揺していた。
「さっ! さっ! ヴェイロン様のところへ参りましょう」
ファンヌはコールの腕を引っ張るが強く払われてしまった。
「触るな! 不愉快だ」
もしこのままヴェイロンの所へ行ったとてもまともに相手にされないだろう。
ヴェイロンという王子の性格はファンヌよりもコールの方が知っている、
恥の上塗りになるだけであることを分かっていたのだ。
「覚えていろ! 絶対後悔させてやる」
(公爵令嬢と同じように躾けておくようエリエスに言っておきますか。ま、小物はどうでもいいわ)
コールは取り巻きを連れて足早に立ち去っていた。
邪魔ものは消えたので改めてルロワーゼに声をかけた。
(さてと……どんな話が聞けるのかしら)




