14話 こけし令嬢は許さない
「エストリア校サーブ!」
5ゲーム取られて絶望の状況。
ここを何とかしなければ完全敗北となってしまう。
何とか1ゲームだけでも……と思うのが普通の人物なのかもしれない。
しかし……ファンヌ・タルアートは違った。
第一王子に婚約破棄された時に彼女は変わってしまったのだ。
親から受け継いだ傲慢でひん曲がった性格はこんな時どうするか。
魔王軍を殲滅した勇者の称号を持つメイドはファンヌに伝え続けていた。
「100倍返ししてやる」
徹底的に仕返せと……。
「なっ……」
侯爵子息のコールは信じられないものを見た。
通常魔力弾はどんなに大きくてもバレーボールほどのサイズにしかならない。
それが優れた魔力保持者であってもそれが限界なのだ。
ただ1度……コールが幼少の時に見たことがある。
大玉サイズの魔力弾を……。それを出すことが出来たのは大賢者ミルヴァスのみ。
ファンヌはその大賢者の娘であった。
「くらええぇぇえぇぇぇぇぇ!」
大玉サイズの魔力弾をラケットで打ち出し、セルファート側に飛んでいく。
そのの大玉はまっすぐとコールめがけて飛んでいくことになった。
コールは恐怖で動けなかった。
彼の人生でこんな極大の魔力弾が飛んできた記憶がないので当然とも言える。
「お、おかあぁしゃまぁァァァ!」
その魔力弾はコールを巻き込み、弾けて爆発を起こしてしまった。
コールは地に伏せ、気を失っている。
「次、行きます!」
ファンヌは魔力弾のサイズを先ほどとは違い小さくする。ただその魔力弾は炎の力でメラメラと燃えていた。
ファンヌは全力でその魔力弾を打ち返す。
その魔力弾は今までの勝負がお遊戯ともいえるほどの速度となっていた。
当然避けることも反応することもできず、1人の上級貴族の生徒を巻き込んで顔面にぶつける。
「3人目」
ファンヌは完全に人を狙っている。
それに気づいたセルファートの選手陣は逃げだそうとする。
ファンヌの打った魔力弾は地面を跳ねてまるで誘導弾のように1人の選手を狙った。
そのまま顔面に弾が突き刺さり、意識が飛ぶことになる。
「4人目」
どこも逃げ場のないことに気付いたセルファートの選手は震えて動けず、素直にファンヌの打ち出した強力な魔力弾にて気を失った。
セルファート側は1人しか残っていないことになる。
最後の生徒は震え、涙を流していた。
「ゆ、許してくれぇぇえぇぇ!」
ファンヌは魔力弾を生み出し、打ち出した。
その魔力弾はセルファート側のコートを跳ねて……。
そのまますってんてんと地面を転がり弾けた。
「へっ……」
最後1人の生徒は唖然とした顔を見せる。
「審判、コールをお願いします」
「エ、エストリア校 1ゲーム!」
ファンヌに取って絶対許せないのは彼女をこけしと言った人物のみである。
最後の生徒だけはファンヌをこけしと言わなかったので魔法攻撃で昏睡させるようなことはしなかった。
「ファ……ファンヌ」
恐る恐るエクセルはファンヌに声をかけた。
「申し訳ありませんエクセル様」
「な、なんだ」
「わたくし……自分をか弱い女だと偽っていたのです。ですがエクセル様への失礼、自分へ侮辱で我を忘れてしまいました」
「そうか……」
「エクセル様はさぞかしわたくしのことを華奢で線の細い女と思っておいでだと思いますが……このように図太い女なのです」
「だが……そんな君も美しい」
「え」
ファンヌの口から変な声が出る。
「君は君らしくあればいい。それが一番……美しいのだ。俺達の長、エストリア魔法学院生徒会長なんだから。……あと一つだけ言わせてもらっていいか」
「は、はい」
「正直スっとした」
「あっ……」
「彼らならきっと大丈夫だろう。魔力弾は非殺傷で傷は残らん。君がノックアウトしたおかげで残りは1人だ。これもルール上問題ない」
「ええ、そうですね。残り5ゲーム取りましょう!」
ファンヌの快進撃に一瞬、場は沈んだが元々テニヌというのは魔法による攻防が重視されている。
観客達も割切り、歓声が再び出始めた。
残る1人のセルファート校の生徒もまともな精神環境ではなく成す術はなかった。
ファンヌを怒らせなかったのは良いものの、この始末だともはや昏睡させられた方が良かったのではと思う形となっていた。
あっと言う間にエストリア校は5ゲームを取り、5対6とあと1ゲームを取れば勝利という所まで来た。
本大会は特別ルールのためタイブレークなどはない。7ゲーム目を取った学園が勝利となる。
今、セルファート校に勝ち目は全くない状態であった。
しかし……逆風は突如やってくる。
「ほぅ……我が校が敗北濃厚とはな」
聞き覚えのある声にファンヌもエクセルも顔を大きくそちらに向けた。
エクセルと似た風貌ながら鋭い目つきに翡翠の瞳、2人にとって因縁とも言える相手。
ヴェイロン・セルファートは不敵な笑みを浮かべて、コートの側に立っていた。




