13話 許せない言葉
「エクセル殿下、お久しぶりですね」
オデコを近づけてきたエクセルの攻撃を防いでいると……試合相手のセルファートの選手達がエストリア側のベンチにやってきた。
対するセルファートは赤を基調とするテニスウェアである。
女子生徒はおらず、皆男子生徒で構成されいた
「コール。君はセルファートの生徒会に入ったのか」
エクセルに気安く声をかける赤髪の男。ロンドラン侯爵家の次男である。
コールを筆頭に後ろには伯爵家の子息がぞろりと集まっている。
セルファート学院の生徒会は上級貴族で集められているようだ。
生徒会長が王族、副会長が公爵令嬢。よりどりみどりと言えよう。
「ええ、ヴェイロン様の側近ですから。しかしエストリアは2名とはいやはや、ティートリア様は仕方ないとはいえ寂しいものですね」
「急病人が出てしまったんだ。仕方ないさ」
「こちらもリアンヌ嬢が休まれてしまったんですよ。でもウチはそちらと違って層が厚いですからね。代わりなどいくらでもいるのですよ、ふふふ」
公爵男児とはいえ、王子に対してかなり高圧的に言葉を投げかける。
エクセルは気にしていないようだがファンヌは内心、腹を立てていた。
「兄上は来ていないのか?」
第一王子、ヴェイロンの姿がない。
「少し遅れるそうです。ヴェイロン様は忙しいお方で今日も朝から教授達と学術論議をしていましたからね」
あなたと違ってという言葉が聞こえた気がした。
「これもヴェイロン様の人望というものですかね。エクセル殿下は……あぁこれは……ふふっ」
「失礼ながら……エクセル様に対して失礼では?」
「あ? 低級貴族が僕に指図をするな。ふん、ではエクセル殿下。試合を楽しみにしています」
コール・ロンドランを含む一同、セルファート側のベンチへ戻ってしまった。
エクセルは一息をつく。
「ファンヌ。不愉快な想いで君の美しいを顔を曇らせてしまったな」
「わざわざわたくしを上げなくていいです! ……にしても随分と失礼な方々ですね。コール様……でしたっけ。後ろの方々もニヤニヤと嫌らしい」
「貴族社会では次期国王の兄上に取り入ろうと躍起になっているからな。コールは昔から兄上の後ろについてまわっていた」
「ヴェイロン様の腰巾着といったところですね。わたくしはエクセル様を推させて頂いておりますので相容れることはなさそうですね」
「はは、ありがとうファンヌ。君が側にいてくれるなら何かを変えられるかもしれないよ。さぁ行こうか」
ファンヌは少し思考する。
エクセルは次期国王の兄上と言っていた。現在ではまだ候補であるのにも関わらずだ。
ヴェイロンに復讐するのが目的とはいえ、エクセルに対する恩義を感じているファンヌはこの状況を何とかしたいと考える。
(エクセル様が王位に対してもっと積極的に取りに行くよう計らわなければなりませんね)
ファンヌとエクセルはテニヌコートへ足を踏み入れる。
コロシアムの観客席にいる王国民は沸き、歓声を送った。
一般的に貴族の位が高いほど魔力が大きくなると言われている。
そのためにテニヌという競技はテニスよりも魔法技術を競うことにおもむきが取られているのだ。
王族、上級貴族であればあるほど活躍できる。上位社会においては仕方ないがない尺度となる。
まれに平民でも高い魔力を誇る物が出現することがある。
その子供はその魔力を受け継ぐことが多い。
そういった時、下剋上というものが発生するのだ。
「プレイボール!」
テニヌのルールはテニスに準ずる。
得点方式はテニスと同じでポイントを入れて1ゲームを取り、先に1セットを取った生徒会側が勝利となる。
動きながら魔力を行使するスポーツゆえに体力消費が激しく、テニスの試合のように2セット、3セットもやることはできない。
あとは力まかせのノックアウトも許可されている。
しかし魔力差が均衡するとノックアウトしきれず結局従来のように相手のコートに魔力弾を入れて打ち返せないよにする戦い方になることが多い。
魔法の柔軟な使い方が勝ち線と言われているがテニス技術もやはり必要になってくるのだ。
最初のサーブはセルファート側だ。
サーブを打つ伯爵子息の男子生徒はテニスの全国大会で上位入賞をした実績がある。
伯爵家ゆえに魔力も高く、テニスの腕も高い。
黄色の魔力弾を生み出し、それを軽く投げて、ラケットで打ち出した。
ちなみにテニヌで使われるラケットのガットも魔力を伝えやすい特別な紐で作られている。
おかげでどの属性の魔法弾でも不都合なく放つことができた。
魔力弾のサーブは予想以上の速度を生み、エクセルとファンヌの間を通過していった。
「早いですね……」
「思った以上だ」
サーブを打った男子生徒はニヤニヤ顔で2人を見ていた。
打てるわけがないとそんな所だろう。
他4人も同様で見下すことを隠そうともしない。
(気にいらないですね)
下級貴族であるファンヌは上級貴族から下に見られるのは慣れているし、そんな上級を後からこてんぱんにするのが好みなので、下級であることを喜んでいる節がある。
しかしエクセルは王族であり、王の息子の立場だ。
本来であれば気安く話すことすら憚れる存在。
ファンヌはエクセルをよく知るゆえ相手側の対応が気にいらなかった。
「セルファート校 1ゲーム!」
あっと言う間に1ゲームを取られてしまう。
今度はエストリア校がサーブとなる。
サーブはファンヌがつとめることになる。
(さて、どうしましょうか)
元々2人になった時点で勝機はほぼないと感じていた。
さらに第一王子のヴェイロンが来ていないと分かるとファンヌのやる気は極限まで下がっている。
まだ生徒会が発足して1ヶ月。ここで負けても下がりきった評価は変わらない。
来週には他のメンバーも戻ってくるし、今……頑張っても何も得られないとファンヌは思っていた。
しかしエクセルがバカにされていることだけは許せない。
完全敗北から1年かけての下剋上もありだと考えていたが、せめてエクセルの名誉だけは保持したいとファンヌは魔力弾を生みだし、空へと投げた。
(1ゲームくらい取って敗北するとしましょう。エクセル様にポイントを取らせるように動かないとね)
ファンヌはラケットで魔力弾をセルファート側コートに打ち込んだ。
セルファート側は侯爵家の子息コール以外は皆テニス歴のある上級貴族であった。
すぐさま反応し、打ち返してきた。
エストリア校側に飛んできた魔力弾は風の力を纏っていた。
魔法の力が使われており、非常に捉えづらくなっている。
エクセルは少したどたどしい動きながらラケットを振って打ち返したのだ。
(エクセル様、あれを打てるなんてすごい!)
ファンヌはそんなエクセルの横顔に表情が明るくなる。
しかし打ち返すので精一杯だった弾は絶好球としてセルファート側にいってしまい、強く打たれて返しきれず、点を取られてしまった。
この後もファンヌは緩急をつけてサーブを打つが全て返されてしまい、無情にも1点も取れず着々と点を重ねられていった。
「セルファート校 3ゲーム!」
あっと言う間に3-0だ。
あと3ゲーム取られてしまったら敗北である。
再びサーブはエストリア校側となる。
今度はエクセルが打つことになった。
「てやっ!」
魔力弾を精製し、エクセルはラケットで打つ。
しかしその弾に対してセルファート校の生徒は誰も動かない。
「フォルト!」
審判からの言葉で理解する。
弾んだ位置がわずかにラインを超えてしまっていた。
もう一回打つがそれもラインを外れてしまい、ダブルフォルトとなり点を相手に取られてしまった。
「うまくいかないものだな……」
「フォルトは誰でもあることですから。エクセル様、落ち着いて……練習の時のことを思い出してください」
申し訳なさそうに謝るエクセルに対してファンヌは落ち着いてい言葉を投げかけた。
そもそも最近ラケットを手にしたエクセルが試合に出る自体無茶があるのだ。
エストリア側劣勢のまま4ゲームが取られてしまう。
(相手の動きが見えてきたわ。あとはエクセル様を何とか誘導してポイントを稼がせないと……)
すでに現状は40-0となっている。あと1ポイント取られてしまったら5ゲームとなる。
相手のサーブをファンヌはゆっくりと打ち返した。
打ち返した先にはコールが構えていた。コールは強く魔力を溜め始める。
(何をする気?)
「おらっ!」
コールは強く打ち返した弾がまっすぐ飛んでいく。
しかしそれはコートに入れるために打った球ではない、まっすぐエクセルの元へ飛んでいく。
(まさか!)
少しも威力が落ちることなく、エクセルの体に魔力弾が突き刺さってしまった。
吹き飛ばされ地面に叩きつけられた。
「セルファート校 5ゲーム!」
「エクセル様! 大丈夫ですか!」
魔力の込められた魔力弾はかなりの威力を誇っていた。
軌道を見るにエクセル自身を狙った弾なのは明らかであった。
ファンヌはエクセルに駆け寄る。
「大丈夫だ……ラケットで守ったから」
ギリギリの所をラケットで受け止め、衝撃を最小限にしたようだ。
テニヌでは相手のノックアウトも戦術の1つとなる。
しかし……これだけの大量得点を取られている現状、エストリア側は2人と数少ない中、その手を使うことはモラル的に良くはない。
ファンヌはキリっとコールをにらみつけた。
「すみませんエクセル様。本気を出してしまいました。ヴェイロン様だったら簡単に返されるというのに……いやこれは参ったなぁ」
(白々しい……)
「もういいでしょう。差は歴然です。さっさと敗北してパーティと致しましょう。学院生活について話をしようではありませんか」
ファンヌに支えられつつエクセルは立ち上がる。
「そんな下級貴族の女を会長にするのが悪いのですよ。王族として……恥ずかしい、そう思いませんか?」
「俺のことはいい。……だがファンヌの悪口は控えてもらおう」
「フン、……それにその女……確か……ああ。どこかで見たと思えば」
コールはぐっとファンヌを指さした。
「こけし女じゃないか! ヴェイロン様に婚約破棄された……なぁ!」
「本当だ、こけし女だ」
「へぇ、あれがあの有名なこけし女か」
「ヴェイロン様に捨てられたから今度第二王子ってか。こけし女も恥ずかしいなぁ」
「おい」
その低い声色は温厚と呼ばれているエクセルの声だった。
聞いたことがないような声色に侮蔑の言葉を吐いていたセルファート側のメンバーの声が静まる。
「ファンヌの悪口を言うなというのが聞こえないのか?」
激昂するエクセルにコール達は少し怖じ気つく。
第二王子エクセルは温和で争いを好まない人格だ。そのエクセルが怒りを見せていることに驚いたが……コールは構わず続けた。
「エクセル殿下、そんなこけし女を側に置いたらもっとダメになりますよ! 追い出した方がいい」
「……」
「エクセル様……いいのですよ」
ファンヌはゆっくりエクセルの肩に触れる。
「わたくしへの暴言はわたくしが対処致します」
「え? ファ……ファンヌ」
「吐いた唾は飲めないってことを……分からせてあげましょう」
「うーん、ありゃ……キレてる」
それはどこからか聞こえた……ファンヌをよく知る人物の声であった。
次はエストリア魔法学園側のサーブとなる。
サーブを行うファンヌは……魔力弾を生み出した。
……それは大玉とも言いたくなるような非常に大きな魔力玉であった。




