12話 開会式
魔法学院同士の交流試合。
それは社交場の一種という意味合いが強い。
生徒主導の試合はあくまで前座となっている。
夜は学院教師達が地方に散らばる当主達に対して子息達を褒め称えたり、優秀な生徒達を各分野の重役達にアピールする場となるのだ。
その場にはセルファート王や王妃、その親類の王族も来られるので生徒にとってもアピールの場となっている。
ファンヌにとってもこういった社交場は重要であると考えているが、将来の夫候補のエクセルは表舞台に出ようとしないため現時点では意識していない。
力を持てば自然と向こうから寄ってくるものである。
王の候補である第一王子も社交場が好みではないようだが、取り巻きは自然と増え、一大勢力となっていた。
場所はセルファート魔法学院、多目的運動広場、広義的にはセルファートコロシアムと呼ばれる大規模円形競技場に一同集められていた。
エストリア魔法学院にはそのような施設はない。
2大魔法学院と呼びながら予算の掛けられ方が全然違うのだ。
(私が生徒会長である内にもっと価値のある学院にしないといけませんね)
それがファンヌの願う成果である。
成果を何個も成し遂げればまわりからの評価も上々となり、外堀を埋めることができる。
親のコネで結ばれそうになった第一王子との婚約時まわりから不相応なこけし女と言われたのだ。
エクセルに愛され凋落させ、まわりには成果を提示して納得させる。
ファンヌはぐっと拳を握る。
「おはようございます。セルファート王国、第一王女ティートリア・セルファートです。皆様、ご壮健いかがでしょうか。わたくしは今日という日が楽しみで以前より心待ちしておりました」
清く澄んだ知り合いの声にファンヌは思わずずっこけそうになる。
すでにコロシアムのテニヌ場には関係者全てが集められて、今にも試合が始まるという頃合いであった。
そして開催の挨拶を第一王女ティートリアが行う。
ティートリアはこの日のために制作されたガーネットの宝石が散りばめられた赤のドレスを着ていた。
世界三大美女に評されるほど美しく、生きた王国の至宝、その微笑みは天使を模倣すると言われている。
男性どころか女性すら、心を掴むほどの人気を誇っており、王族貴族や来場した国民達、セルファート魔法学院の生徒達はその姿に見惚れる。
いつもはクイーン寮のトイレで便所飯しているとは到底思えない有様だ。
(こーいう所はさすがですね)
ティートリアも自分の役目は理解しているのでこのような場では決して自は出さない。
用意したカンペを読み、全力で愛想を振りまく。
長々と語られたティートリアの言葉が終わりを迎えようとしている。
当たり障りのない言葉にファンヌは欠伸をしそうになるが、あと少しと我慢した。
「王女さまはどっちの学院を応援するのーーー!」
そんな時子供の声が響き渡る。ちょうど言葉が途切れたタイミングであったのだ。
親が慌てて子供の口を塞ぐがもう遅い。
王族の訓示に口を挟むのは大きな問題だが……ティートリアは笑っていた。
「そうですねぇ。セルファート魔法学院には兄のヴェイロンくんがいますし、エストリア魔法学院は弟のエクセルくんがいます。どっちを応援するか迷う所があります」
困った仕草を見せる王女だがそのあざとい振る舞いは良い印象を相手に与える。絶対的の美は何をしても美しい。
「わたくしはエストリアに所属してますし……そうですね。親友のファンヌさんが出場するのでちょっとだけエストリアに肩入れしちゃおうかなと思います」
あらゆる全て、全員の視線が競技場のファンヌに突き刺さる。
さすがの言動にファンヌも顔を引き攣る。
「姉がすまない」
「ははは……良いですよ」
小声で隣のエクセルと会話するがティートリアの発言には慣れていたので大して気にはしていなかった。
最後の言葉も終えてティートリアは試合開始の言葉を口にして場を後にしようとした。
(ま、お疲れ様ですティー様。親友の活躍見ていてください)
気楽に思い、ティートリアに対して軽くを手を振ることにする。
ティートリアもそれに気づきゆっくり微笑んで手を振り返えした。
このやりとり、本人達にとっては些細なことだが一部ではとんでもない話となっていた。
あのティートリアに同性の友達がいる。
王家の中ではえらく騒ぎとなっていた。
これは後の話だがティートリアの親友として公務に参加させられるハメになることを今のファンヌは知らない。
それが断首台ゲージを大きく上昇させることになることも……今は誰も知らなかった。
「しかし参ったな。まさかテニス部の連中が皆、熱で休みとは……」
「季節の変わり始めですから仕方ありませんね」
公爵令嬢リアンヌの謀略のおかげでエストリア魔法学院の参加者は2人しかいない。
エクセルはやはり事情は知らないようで、あえて言うまいとファンヌは考えた。
5対2では勝負にならないかと思うが1人で強者がフィールドを支配するのがこのテニヌという魔法競技である。
(リアンヌ様の姿が見えないわね。あれだけ脅しておいたのですし、仕方ないか)
人数が多いためテニスコートよりもテニヌコートは広い。
移動速度を上げる魔法の使用も許可されているので当然ともいえる。
エストリア側のベンチにファンヌとエクセルはいた。
青を基調としたテニスウェア。男子はハーフパンツ、女子はスコートを履く。
(思ったより足を見せるのね。ちょっと恥ずかしいわ……)
ファンヌは華奢な体型の足の美しさには自信がある。
アンダースコートは着ているとはいえ、普段は履かないものゆえ恥ずかしさを感じる。
ただ恥ずかしいだけであればよかったのだが……さっきからエクセルがじっとファンヌを見つめているのだ。
「そんなのにじっと見られては恥ずかしいです!」
「ふむ、そうか。練習の時は学校指定の体操着だったからな。君のテニスウェア姿をこうやって見れて眼福だ」
「そ、そういうエクセル様もすごくお似合いです! そんなにじっと見るならわたくしも見ますからね」
「あはは、俺のを見ても何も楽しくないぞ。しかし君の黒髪にその姿は良く似合う。アクセントに花を授けたいな。とても映えると思うよ」
1つ返せば……2重にも3重にも褒め返してくる。
天然王子の攻撃にファンヌはさっそく混乱していた。
試合よりもよっぽど対処が大変である。
(それにしても)
ファンヌは目の前の第二王子のウェア姿に目を奪われてしまっている。
エクセルもティートリアと双子の姉弟ゆえに容姿は非常に優れている。
目立った活躍はないゆえにこのような場に出るのは貴重とも言える。
エクセルに対する声援も実はかなり多い。
(良き……とても良き! しゃ、写真に納めておきたいかも)
「ファンヌ、顔が赤いぞ。熱でもあるのか、どれ」
「お、お、お、デコこつんとかする気でしょ! それだけはさせませんからね!」
そんな2人の空間に足音が忍びよった。




