Op.63 コルトレイル
ワイザムの屋敷から王城に戻ったミコトは、自室の机に向かった。
机の上には、ララたちから分けて貰った薄紅色の便箋が置かれている。
「…………」
静寂の中でしばらく考え込んだ後、ミコトは便箋へと慎重に筆を走らせた。
◆
日が傾いた頃、ミコトを始めとして、カムラ、シタン、ワイザム、クリファ、ララたち三姉妹、加えて幾人かの人々が王城のテラスに集まった。
コルトレイルに備え、各々が小さな熱気球を作る。
定刻。
ランプに火が点され、ミストルティンの各所から熱気球が一斉に夜空へと放たれた。
星々と重なり、淡い光を放つ無数の熱気球を見上げながら、ミコトは便箋にしたためた内容を反芻した。
〈大好きな、母さんへ。
苦しいことがありました。
哀しいことがありました。
でも、心配しないでください。
僕は、精一杯、元気に生きていきます〉
◆
熱気球が夜空に放たれた後、ミストルティンの町中がにわかに騒がしくなった。
あちらこちらに引火しないよう水打ちをされた屋台が設けられ、路地に人が溢れる。
一方、王城のテラスでは、どこからか持ち出したヘルメットを被ったララたちが、カムラに駆け寄っていた。
「歌療士消防団は、これより火消しの任務に当たります!」
「「ます!」」
ララの号令と敬礼に合わせて、リリとルルも敬礼をした。
「人目があるとはいえ、暗いから気をつけるんだよ」
「「「はい!」」」
カムラの言葉に、三姉妹が元気よく返事をした。
次いで、ララが拳を振り上げる。
「さあ、徹夜で食べ歩くよ!」
「「おお!」」
リリとルルも、ララに合わせて拳を振り上げた。
「おぉ……!」
徹夜で食べ歩くという言葉に反応したクリファが、爛々と目を輝かせた。
「火消しの任務はどこへ行ったんだ……」
シタンが呆れたように呟いた。
「シタン、念のため引率を頼むよ」
「はい、樹士団の中からも、何人か祭り好きを連れて行きます」
カムラの依頼にシタンが頷いた。
その時だった。
カランと、ミコトの足元で乾いた音がした。
「?」
ミコトが視線を送ると、そこに小さな金属のケースが転がっていた。
「……!」
ケースを拾い上げたミコトは、驚きに目を見開いた。
見覚えがあった。
まだ母親のイノリが生きていた頃、父の日にお小遣いをはたいてタカシに贈った、ステンレス製の名刺ケースだった。
「ミコト? どうかしたのか?」
シタンがミコトに歩み寄って来た。
「あ、えっと――」
「シタン様! ミコト様! 先に行っちゃいますよ!」
ミコトの言葉を遮るように、ララの声が響いた。
「やれやれ、せわしないな……」
ぶんぶんと手を振る三姉妹とクリファを見て、シタンが苦笑した。
「待たせると煩そうだ。行くとするか」
「はい」
ミコトは名刺ケースを上着のポケットに押し込むと、シタンと共に、食欲に急き立てられた少女たちの元へと向かった。




