Op.47 マキシマムオペレーション
突如として空気を引き裂く音が降り注ぎ、その場にいた全ての者が頭上を振り仰いだ。
高空に数え切れないほどの飛行機雲が描かれている。
「あれは……!?」
『ディアボロスから射出された鋼殻兵です。数は四百』
ミコトの疑問に、セフィラが答えた。
「四百!? どこへ向かって……?」
『ディアボロスは、鋼殻兵の投射可能距離内における最大の人口密集エリアを優先的に攻撃します』
「……ミストルティンだ……」
サージェントプラナスを降りたシタンが、愕然と呟いた。
「そんな……王都には、家族を残してきているんだ……」
「ベリンダから逃げてきて、ようやく生活を立て直したのに……また……っ……」
ミストルティンから派遣されてきた兵士や、ベリンダの避難民たちが騒ぎ出した。
「王都であるミストルティンには、樹士団が詰めている。今はアルテシア全土に戦力を分散させているとはいえ、セコイアデンドロンを含めて三十樹の樹械兵が残されている。しかし、鋼殻竜と同等以上の力を有する相手が、四百という数で攻めてこられれば、ひとたまりもないだろう」
口惜しげに告げるシタンへと、ベリンダの避難民たちが詰め寄る。
「どうにかできないんですか!?」
「城の地下には、アース文明期に建設された巨大な神殿がある。樹士団が時間を稼いでいる間に、そこへ人々を非難させることができれば……」
『ディアボロスは頭部に備えた透過レーダーによって、人間を探索、識別します。どこに隠れようとも逃れることはできません』
シタンの案を、セフィラが事務的に否定した。
「みんな……殺されてしまうのか……?」
「させない……!」
絶望感に満たされた空気を切り裂くように、ミコトが言葉を放った。
ミコトの脳裏に、ユグドラシルに来てからの記憶が蘇る。
ベリンダで逃げ出してしまった弱い自分。犠牲を伴う決断に対して、自責の念にかられるシタン。
家族を失いながらも、懸命に日々を生き抜くデイジーとノーチェ。
同族を迫害から救おうとする一念で、道を誤ってしまったライドたち。
怨嗟を乗り越え、血を吐く思いで未来に目を向けたボーダ。
そして、命そのものが持つ希望と可能性を教えてくれたイノリ――。
「……っ!」
拳を握り締め、ミコトはセフィラに顔を向けた。
「セフィラさん、セフィロトシステムを使います」
『了解しました。御希望のコマンドを発声願います』
「セフィロトシステム……マキシマムオペレーション!」
セフィラに促され、ミコトは高らかに告げた。
『女神からのコマンドを受諾しました。セフィロトシステムの全機能を解放します。ケテル、コクマー、ビナー、ケセド、ゲブラー、ティファレト、ネツァク、ホド、イェソド、甲種戦闘展開』
セフィラの言葉と共に、軌道上の人工衛星が変形し、種々のセンサーやアンテナ、そして武装を展開させた。
さらに、ミコトが頭部に装着していたケテルも変形、分離し、ミコトを包むかのように周囲の空間に半透過のディスプレイやコンソールを多数結像させる。
「ミコト……!?」
シタンを始めとして、その場にいる人々が目を見張った。燐光を放つ立体映像を身に纏うミコトの姿は神々しく、女神と呼ぶに相応しいものだった。
「これは……!?」
ミコトは声を上げた。
眼前に、見慣れたキーボードとマウスが結像している。
『あなたの生体情報をスキャンし、ユーザーインターフェースの最適化を行いました』
セフィラの説明を受け、ミコトは恐る恐るキーボードとマウスに両手を添えてみた。
どういう仕組みになっているのか、映像であるはずのそれらからは、馴染んだ感触が返ってくる。サイズも丁度良い。総じて、しっくりくる。
一方、ケテルが空中に描き出したディスプレイには、人工衛星のリモートセンシングによって取得された地表の詳細な情報が、リアルタイムで表示される。
ミコトは、その様子が、慣れ親しんだRTSのインターフェースに酷似していることに気づいた。
「これなら……!」
呟き、ミコトは水を得た魚のように、キーボードを軽やかに弾いた。




