Op.45 人類社会のリストラクチャリング
『どういうことだ?』
ライドがクリファに問いかけた。
『わからない。こんなこと、一度もなかった』
『先ほど、クリファに対するセフィロトシステムの情報開示制限が解除されました。おそらく、ディアボロスが自らの成長を完了させたのでしょう』
セフィラが告げた。
『クリフォトシステムは、極めて自律性の高いシステムです。外部からの干渉を避けるため、ディアボロスが成体に至った後は、全システムの管理権限がクリファからディアボロスに委譲されます』
『クリファは、知らなかったのか?』
『覚えてない……』
『クリファは、人間をベースにして生み出された生体ヒューマンマシンインターフェースです。そのため、クリフォトシステムの目的と同様に、精神に重篤な影響を与えかねない情報については、製造時における大脳皮質へのデータインストールから除外されます』
『待て、クリフォトシステムの目的だと?』
『クリフォトシステムは、アース文明期、人口削減政策の一環として開発された広域戦術指揮システムです』
『……!』
『アース文明は、その末期、実務的な負荷を背負うことを否定した利己的かつ短絡的な倫理観の蔓延によって、価値の創造が阻害され、実態の伴わない投機的な利益の追求を至上命題とする社会に陥っていました。
無制限な委託と搾取が有能な証左であると奨励され、適正な所得分配の崩壊に伴う生活水準の著しい低下によって人心は荒廃し、犯罪や紛争の増加、環境の破壊、科学技術の退行を招きました。その結果、時の権力者たちは、経営不振に陥った人類社会のダウンサイジングとリストラクチャリングを図るべく、大規模な人口削減に踏み切ったのです』
『酷いな……』
『他人事じゃない。今の世の中、どこにでも転がっているような話だ』
シタンとライドが呟く中、セフィラは話を続ける。
『クリフォトシステムによる人口削減は成功しました。しかし、有用と評価した一部の人々を残したとはいえ、そもそも自己の利益と保身のみに執着する権力者たちに、残存した社会を維持していくことなどできず、アース文明は間もなく終焉の時を迎えました』
『……聞きたい。クリフォトシステムは、この先、どう行動する?』
ライドの問いに、セフィラが答える。
『アース文明期、クリフォトシステムの標的から除外する人間には、あらかじめ特定の信号を発する発信器を体内にインプラントしていました。現在は、当然ながら発信器がインプラントされた人間は存在しません』
『つまり、クリフォトシステムは、全人類を皆殺しにするということか?』
『はい』
『……ふっ……はは……全く……俺は、何をやってきたのだろうな……』
自虐的に笑うライドに向けて、クリファが怯えた声をかける。
『ライド……ごめん』
『お前の所為じゃない。俺が自らの判断で始めたことだ』
言って、ライドはコックピットのハッチを開け、ティリアウルガリスを降りた。
「投降する……ただし、この計画の責は全て俺にある。部下たちには可能な限りの恩情を願いたい」




