Op.40 鋼の雨
『高速で接近する飛行物体を感知しました。数は百二十。速度はおよそ五キロメートル毎秒。軌道計算から、三十秒後に全体の二十パーセントがキスカヌに落着するものと推測されます』
甲高い警報音がキスカヌに鳴り響き、セフィラがその警報の内容を説明した。
「ミコト! この音は……!?」
シタンが管制室に飛び込んで来る中、ミコトはセフィラに対し、防衛システムを用いた迎撃を指示した。
砲弾状の飛行物体はレーザーの照射によって次々に迎撃されていくが、レーザーの射程外に落下した飛行物体が鋼殻兵へと変形し、一様にキスカヌを目指して鋼の足を駆り立てた。しかし幸いにも、キスカヌの防衛システムは堅固であり、敷地内への鋼殻兵の侵入を許さなかった。
防衛システムが鋼殻兵の侵入を防ぐ中、ミコトたちは急ぎロケットの打ち上げ準備を進めた。しかし、ロケットの打ち上げには屋外作業が欠かせず、作業員たちのために防衛システムを一時的に停止させなければならない。
その間、キスカヌを防衛するべく、シタンがサージェントプラナスで出撃した。
小一時間の戦闘の後、防衛システムによって数が減らされていたこともあって、シタンは全ての鋼殻兵を撃破した。
『聖樹士の称号に恥じない獅子奮迅の働きぶり。流石ね』
息をつく暇もなく、拡声器を通した女性の声と共に一樹のクエルクスロブルが、シタンの前に立ち塞がった。
「その声……ヘレンか?」
『久しぶりね、シタン。しばらく前に王城に出向いた際は、あなたに取り次いでもらう時間もなかったから、樹士学校以来になるわね』
「……このタイミングで現れるということは、貴公も関わっているのか?」
『そうよ。だから、元ルームメイトのよしみで道を空けてもらえないかしら。節操のない子供を迎えに行かなければならないの』
「子供というのは、クリファのことか?」
『特定されていたのね……何があったのかは知らないけれど、あの子のことだから、人目のあるところで後先考えずに能力を使ったのでしょう』
「……身柄を拘束させてもらってはいるが、手荒な真似をするつもりはない」
『あなたのことだから、その辺りは心配していないわ。けれど彼女には、まだやってもらわなければならないことが残っているの。だから、引き渡してもらえないかしら』
「やってもらわなければならないこと……その内容による」
『話せないと言ったら?』
「こちらで、引き続き預からせてもらう」
『そう……なら、無理にでもということになるわね』
「一樹のみで、私と戦う気か?」
『まさか。樹士学校時代、生徒はもちろん教官の中にも、樹械兵の試合であなたに勝てる者はいなかった。その上、あなたの乗樹は、アルテシア最強と謳われるサージェントプラナス……勝てるわけはないわ。私だけならね』
ヘレンの言葉と歩調を合わせて、地面に影が落ちた。
「飛行船!?」
頭上を振り仰ぐシタンの視線を遮るように、三隻の硬式飛行船が滞空していた。