第七話 龍族のムメイだ
昨夜の警備兵を通して、内通者及び作戦プランを提案してくれたものがいた。
私一人では、適切なプランなど、到底考えにくいからだ。
そのプランは主に水路を経由する必要がある。私は睡眠時間の隙を見て密かに自らの鉄格子の鍵を開けて、足音を殺したまま脱出する。
ここら辺の警備兵は内通者によって、移動されるようだ。
方法は知らぬが、とにかく私は水路へ向かう。
何故真正面から入らないかと言えば、以前の事件であそこら辺の警備が厳重になってきた。
故に私は別の道を通るしかない。
気づいたら、水路へ行くための場所へ到着した。
丸い円だ。いや、正確には円柱だ。小柄な私よりも約二倍程の大きさがある。
地面に埋め尽くされ、巨大パイプと接続されている。
自分が一人だけで開けられるかどうか、自信を無くす。周囲を見渡し、人影が無い事を確認した。
ちょっとばかし、ド派手な開け方をしよう。
私は近くの鉄にロープを結んで、全力を出して引っ張ってみてもまだ開けられない。
「やはり、ダメか」
というか、良く観察してみれば、水路への円柱にはどこか模様が刻まれている。
模様?嫌、これ、本当に模様かな?
円柱の中心にはダイヤルのようなものがある。
「ええっと、つまりこれは暗号を使ったものなのかな?」
ちょっと思い出してみよう。あの内通者が教えてくれた暗証番号。
確か、どこかの場所で絶対暗証番号は必要となる。
もしや、それが、ここで使用するのか?不正解だったら、警備アラームが鳴りかねない。
故にチャンスは一度きり。
私はノートに書かれている暗証番号を入力した。
次第に円柱からは臭い煙のようなものを浮かせ、驚愕した私は適当に遠ざかる。
「臭っ!」
煙が消えるまで、待つしかないか、これ?
私が考えるか考えないかのうちに、円柱から流れ出る煙は止んで、突然爆発したように蓋が飛び上がった。
「あ」
と声を漏らした私はますますダイヤルの意味が何か、分からない。実に恐ろしいものだ。爆発したように飛び上がった円柱の蓋は今開かれた。
騒々しい声が周囲にいる警備兵に気づかれないと良いんだが、私はそれを確認する暇は無く、開かれたのを確認してから即座に場所を移す。
◇◇◇
(はあ、よかったああ。全員が眠りについてて)
アルメーは手に持つ酒瓶を八つ当たりにゴミ箱に投げ捨て、吐息を漏らす。
彼にはこの役目がどれだけリスクがかかるのやら、後々はどうなることも分からない。
しかし、愛しい女のためであれば、これは造作もない。全てのリスクを受けて、彼女の心を奪いたい。
アルメーは次第に思考を変更し、ざっと次の作戦に移る。
(だが、順調過ぎて、怖いぐらいだ)
そうやって、アルメーは帽子を被って、杖から槍に、腹を括った。
(ん、何だ?)
扉を開く瞬間、アルメーは悪臭を嗅いだ。それは鮮やかな肉料理を嗅いだように、もっとも煙だ。
咄嗟にアルメーは手に持つ槍で構えて、警戒を高める。
(冗談だろう、これ!誰かいる。もの凄い殺気で)
アルメーは身構える間に、周囲から殺意にを感じ取った。それは紛れもなく、殺すつもりでくるかもしれない。
「―――‼︎」
◇◇◇
悪臭な匂い、湿度の高い空気に覆われ、私は息を耐えすぎて息苦しい環境だと気づく。
もはや何時間経過したのか、全くわからない。
パイプの中は狭いし、もし私の体がこれ以上大きければ、普通に入ら無いだろう。
そう思ううちに、視線の向こう側から光が見えた。
もしかしてあれが出口なのかもしれ無い。
しばらくパイプの中から、光の出所を覗き見する。
様子を伺い、警備兵が一人もいないことや状況が安全だと判断次第、即座にパイプの狭い空間から身を脱出する。
息を堪えすぎた私は思わず「はああ――」と息を吐く。
「はあ、はああ、流石に狭すぎたね。良くもまあ、こんな水路を用意するものね」
―――――キーン!
「うっ!」
『あなたは誰だ?』
地図を確認する間もない、唐突に頭痛が襲いかかり、頭にはある囁きの言葉が聞こえた。
周囲を見渡す私は誰かがいるかと思いきや、ただの赤髪がかった白い壁のみ。
驚愕した私はこの唐突に出てきた囁き声にびっくりして、咄嗟に出てきた頭痛により、頭を抱えてしまった。
「くっ!」
『もう一度聞くぞ、あなたは誰で、いったい何故ここにいる?』
「何これ、あなたは誰なの?」
『先に質問したのはこっちだ。早く答えろ』
まるで脅しかのように、この声が響く度に頭がキーンと苦痛を感じてしまう。
私はこの痛みに抗えず、地面につくばっていた。脳が燃やされて、焼き尽くされるようなこの痛みは尋常じゃない。やばい、声が出そう。
「いっったあああああああっ!」
誰もいない空間において、私は思わず絶叫する。
正体不明の異物が脳内に忍び込むのごとく、言葉は続いた。
『早く答えろ』
「……私は、くっ、ゆ、ユーフリア」
『ユーフリアか…いい返事だ。褒美に痛みを和らいでやろう』
情けを受け取って、私の頭に焼きつく頭痛は和らいだ。
しかし、キーンとした痛みと視線はまだはっきりとでき無い。私は真っ赤に染まった壁を触って、力を絞って、歩み出していく。目的は他なら無い、新人と話すことだ。
そして、もっと知識の幅を増幅したい。
私はいつの間にか壁に染まった赤色が血の匂いを漂わせる事に気づいた。
『ユーフリア嬢、貴女は私に恐怖など感じ無いのか?』
配慮をしているに聞こえるが、そのイントネーション自体は頑固な私に対する好奇心であろう。
なら、好都合。
「私もあなたに気になってるんですよ。名もなき新人さん、くっ」
悲鳴を耐えつつ、相手に話しかける。
由来も知らないこの声はしばらく静寂を与え、私の痛みも徐々に消えてゆく。
どうやら何か考えているらしい。
『私を惹きつけるための罠か』
「あはは、気づきましたね」
『いい度胸だ。ならば、何が聞きたい?』
「外の世界について、聞きたくてここへ来ました」
苦痛が無い今なら、絶好の機会。
私はつい先まで味わった苦痛で全身が倒れているが、この空間の向こうから鉄の鎖の音を聞こえる。
おそらく、相手の居所はこの部屋の向こう側だ。地図でもしばしと確認して、この特別監禁室において、何かの特殊の部屋があるらしい。
つまり、牢獄の中での牢獄。
『外の世界の情報が欲しいのか』
「ええ、そうです」
『ふむ……良かろう。ならば、直接話をしようか。娘』
私はその言葉につい頷いて、この空間の向こう側にある部屋に行った。
先まで感じていた痛みもスッキリ無くして、今となってはある白い鉄色の扉の前に到着した。
その扉は純粋で白く塗られる、カビも生えて無い。道の途中で人の骨ぼねは見かけていたが、今回の私のゴールはこの扉の前にある。
『では、扉を開け』
「う、うん」
私は言葉のままに従事し、扉を開いた。最初は鍵でもついているかと思ったが、意外とかけていない。
多分、前の事件で警備兵や騎兵たちは慌てて抜け出したのだろう。
扉を開ける瞬間、両眼に映っているのは大柄な男で、鉄のお面を被る。
椅子の上に鎖などで拘束されている。もちろん、身動きはできそうにない。
ただ、何故かこの男は平然として、冷静だ。
『先ほどはすまない、ユーフリア嬢。私は龍族のムメイだ。以後お見知り置きを』




