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第82話 みんなで観る『はむぶ』

 10月9日。


 文化祭の準備が進む、ある日の放課後。


 はむぶ部室。


「そういえば、今晩ですよね」


 桜が言った。


「何が?」


 華が振り向く。


「越後放送開局75周年記念スペシャルドラマ『はむぶ』の放送です」


「ああ!」


 みなみが声を上げる。


「ついに放送されるんだ!」


 撮影現場を見学してから、しばらく経っていた。


 自分たちの部活動を題材にしたドラマ。


 しかも、みなみ自身が主人公を演じている。


「絶対みんなで見たい!」


 華が言う。


「でも、放送時間が夜なんですよね」


 真宵がスマートフォンで確認する。


「部室で見るわけにもいかないし……」


「それなら」


 澄香が静かに手を挙げた。


「ホテルTukiのコネクションルームを予約しておきましたわ」


「……」


 一瞬、部室が静かになる。


「もう予約したんですか?」


 真宵が聞く。


「はい」


 澄香はにっこり笑った。


「皆さんでゆっくり鑑賞できるように、大きなモニターのある部屋をお願いしました」


「仕事が早い……」


 華が感心する。


「ホテルTukiって、あのホテルTuki?」


 みなみが尋ねる。


「そうですわ」


「月潟財閥のホテル……」


 桜が小声で言った。


「またすごいところを」


「せっかくの記念ドラマですもの」


 澄香は当然のように答える。


「みんなで観たほうが楽しいでしょう?」


「それは確かに」


 真宵も頷いた。


「じゃあ、今晩は全員集合ね」


「楽しみ!」


 みなみが笑う。


「自分が出てるドラマを、みんなで見るのって変な感じだけど」


「そこは堂々と見ればいいんですよ」


 華が言う。


「主人公なんだから!」


「そういう華ちゃんは、私の役を見て何て言うのかな?」


「……」


 華が考える。


「『私よりちゃんとしてる』?」


「なんで!?」


 部室に笑い声が響いた。


 そして放送当日。


 夜。


 ホテルTukiのコネクションルーム。


 大きなモニターの前に、はむぶのメンバーが勢ぞろいしていた。


「飲み物、よし」


「お菓子もありますわ」


「澄香先輩、これ全部用意したんですか?」


「少し多かったでしょうか?」


「少しどころじゃないです」


 テーブルには、澄香が用意したお菓子や飲み物が並んでいる。


 彩鼓もリモコンを手に取った。


「そろそろ始まるよ」


 照明が落ちる。


 画面に越後放送のロゴが映し出される。


「始まった!」


 みなみが姿勢を正す。


 そして。


 タイトルが画面いっぱいに表示された。


『越後放送開局75周年記念スペシャルドラマ』


『はむぶ』


「おお……」


 全員が画面を見つめる。


 ドラマの中で、主人公役のみなみが登場する。


「うわっ、みなみちゃんだ!」


 華が笑う。


「当たり前でしょ!」


 みなみも笑いながら突っ込む。


 やがて、大山みさき演じる部長が登場する。


「来た!」


 華が身を乗り出す。


 普段の大山からは想像できない、勢いのあるキャラクター。


「……すごいな」


 真宵が思わず呟く。


 続いて松崎レナ演じる副部長。


「レナちゃん、めちゃくちゃ落ち着いてる」


 みなみが笑う。


「普段と真逆じゃん」


 そして山の下めぐ演じる庶務が登場。


 上品なお嬢様キャラクターに、澄香が微笑む。


「なるほど……」


「澄香先輩、何か思うところあります?」


 真宵が聞く。


「いえ」


 澄香は紅茶を飲みながら答えた。


「とても興味深いですわ」


 画面の中では、ドラマ版の「はむぶ」が物語を繰り広げている。


 現実の部員たちは、ときに笑い、ときに感心しながら、その物語を楽しんでいた。


「なんか、不思議ですね」


 桜が言う。


「私たちの部活が、こうやってドラマになってるって」


「うん」


 みなみも画面を見つめる。


「私も完成したのを見るの、今日が初めてだから」


 そして。


 最後まで誰も席を立つことなく。


 はむぶのメンバーは、大画面に映し出される『はむぶ』を楽しんだ。


 エンドロールが流れる。


「終わっちゃった」


 華が少し寂しそうに言う。


「面白かったですね」


 桜が微笑む。


「うん」


 みなみも頷いた。


「撮影してたときは大変だったけど……こうして見ると、やっぱり嬉しいな」


 澄香がグラスを持ち上げる。


「では」


「?」


「ドラマ『はむぶ』の完成を祝して」


 全員が飲み物を手に取る。


「乾杯!」


 ホテルTukiの一室に、楽しそうな声が響いた。

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