表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/57

第57話 「バレた夜と、かわいい先輩」

 新潟中央女子学園・はむぶ部室に島見桜が行ったその夜。

「おねぇの妹ってバレた〜……」

 ベッドに突っ伏しながら、島見桜はスマートフォンに向かって言った。

「もう、はむぶ行けない……」

 通話の向こうで、少しだけ間があく。

『大丈夫だって』

 あっさりした声。

 姉――島見杏果だった。

『あの子たち、そういうことしないから』

「でも……なんか……見抜かれて……」

『でしょーね』

「軽く言わないでよ……」

 桜は、枕に顔を押しつける。

『彩鼓でしょ?』

「うん……」

『あの子、そういうの得意だから』

 まるで他人事のような口調。

「もうやだ……」

『はいはい』

 軽い。

『でもさ』

 少しだけ、声のトーンが変わる。

『あそこ、ちゃんと見てる人たちでしょ?』

 桜は、少しだけ黙った。

 思い出す。

 真宵の距離感。

 華のまっすぐさ。

 澄香の穏やかさ。

 そして――彩鼓の視線。

「……うん」

『じゃあ大丈夫』

 即答だった。

『明日、普通に行きな』

「……うん」

『あとさ』

「なに?」

『逃げたら、もったいないよ』

 その一言が、少しだけ胸に残る。

 通話が切れる。

 桜は、天井を見上げた。

(……行くか)

 小さく、息を吐いた。

■ 翌日

 新潟中央女子学園・はむぶ部室。

 ドアの前で、一瞬だけ立ち止まる。

(大丈夫……)

 ノック。

 ガラッ。

 部室には――

 一人だけいた。

 月潟澄香。

 椅子に座ったまま、静かに――

 寝ていた。

(……寝てる)

 窓からの風で、髪が少しだけ揺れている。

 テーブルの上には、今日もお菓子が整然と並んでいる。

(なんでこの状態で寝れるんだろ……)

「……あの」

 小さく声をかける。

 ぴくっ。

 反応した。

 次の瞬間。

「わっ!」

 がばっと顔を上げる。

「いらっしゃいませ!」

 妙に元気な第一声。

「え、あ、はい……」

 桜が一歩引く。

 数秒の沈黙。

「……あの」

 澄香は、ゆっくりと目を逸らした。

「誰か来たら驚かそうと思っていたのですが……」

 一拍。

「待っているうちに、少しだけ……」

 視線が下がる。

「眠ってしまいました」

 正直だった。

「……」

 桜は、少しだけ間を置いて――

「ふふ」

 思わず、笑った。

「すみません」

 澄香が言う。

「いえ……」

 桜は首を振る。

(かわいい先輩だな……)

 ふわっとした空気。

 昨日の緊張が、少しだけほどける。

「もう一回やります?」

 桜が言う。

「え?」

「驚かすの」

 澄香が、少しだけ考える。

「……では」

 こくり、と頷く。

 姿勢を正す。

 目を閉じる。

(本気だ……)

 桜は、わざと少し足音を立てる。

 コンコン。

 机を軽く叩く。

 その瞬間。

「わっ!」

 さっきより少し控えめな驚かし。

「……」

「……どうでしょう」

「成功……ですかね?」

「たぶん、はい」

 どちらともなく、少しだけ笑う。

 そのとき。

 ガラッ。

「おはよー!」

 寺尾華の声。

「今日は免許証ある!?」

「第一声それ?」

 西蒲真宵のツッコミ。

 にぎやかな空気が、一気に戻ってくる。

「あ、桜ちゃん来てる!」

 華が駆け寄る。

「昨日すごかったね!」

「やめて」

 真宵が止める。

 その後ろから、ゆっくりと入ってくる人影。

 白根彩鼓。

 視線が、一瞬だけ合う。

 桜は、ほんの少しだけ緊張して――

 でも。

「おはようございます」

 ちゃんと、言った。

 彩鼓は、少しだけ口元を緩める。

「うん」

 短く、頷く。

「じゃあ今日は」

 カバンを軽く叩く。

「ちゃんとやろうか」

 その一言で。

 空気が、ほんの少しだけ引き締まる。

 逃げなかった。

 そのことだけは、確かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ