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第52話 お飾り部長と無責任オブザーバー

新潟中央女子学園・はむ部部室

――三月某日・卒業式後。

静かだった。

さっきまでの体育館のざわめきも、

泣き声も、拍手も、

全部どこかに置いてきたみたいに。

部室のドアが、ゆっくり開く。

「……ただいま」

白根彩鼓が、いつもの調子で言った。

「おかえり」

即答、真宵。

半田ごては止めない。

「いや、そこ“おめでとうございます”じゃない?」

みなみ。

「さっき言った」

澄香。

「二回言うものではない」

「合理的……」

華が、机の上の菓子袋を広げながら言う。

「卒業式っぽいこと、全部終わった?」

「だいたい終わった」

彩鼓は鞄を置いて、いつもの椅子に座る。

自然すぎた。

「……ねえ」

みなみが、じっと見る。

「それ、もう“部長席”じゃないよ?」

「知ってる」

「じゃあなんで座るの」

「癖」

「強い」

澄香が、書類から顔を上げる。

「一応確認ですが」

「本日をもって、白根先輩は高等部はむ部部長を退任」

「短期大学部所属のオブザーバーになります」

「はい」

彩鼓、手を挙げる。

「で?」

「で?」

「オブザーバーって何するの?」

一拍。

「……特に定義はありません」

澄香。

「えっ」

「好きに口出しできる立場です」

「最強じゃない?」

華。

「責任は?」

「ありません」

「最強だ」

みなみ。

「やった」

彩鼓、素直に喜ぶ。

「ずるい!」

華。

「私はお飾り部長で責任あるのに!」

「華は飾られてるから」

真宵。

「言い方!」

「実質、今日もいつも通りですね」

澄香。

「じゃあ会議やる?」

みなみ。

「議題は?」

「特になし」

「じゃあ却下」

「早い」

彩鼓は、部室を見回した。

机。

機材。

配線。

半田の匂い。

いつも通りの、雑多で、落ち着く空間。

「……なんかさ」

「卒業した感じ、しないね」

ぽつりと漏らす。

「した」

真宵。

「証書もらった」

「校歌も歌った」

「写真も撮った」

「それ以上何を求めるの」

「いや、そうなんだけど」

みなみが、笑いながら言う。

「だってさ」

「数時間前まで“在校生”だった人が」

「今、普通にここでお菓子食べてるんだよ?」

「確かに」

華。

「違和感ゼロ」

「むしろ自然」

澄香が一言。

「はむ部ですから」

「それで済ませるの?」

「済みます」

彩鼓は、ふっと笑った。

「……まあ、いいか」

「変わらないって、悪くない」

そのとき。

「そういえば」

華が思い出したように言う。

「部長として初仕事なんだけど」

全員、嫌な予感。

「これ、どこに判子押せばいいの?」

逆さまの書類。

上下もわかっていない。

「……」

「……」

「……部長」

澄香。

「はい」

「そこ、裏面です」

「えっ」

部室に、いつもの笑いが広がる。

卒業しても、

役職が変わっても、

立場が少しズレても――

結局、ここは変わらない。

白根彩鼓は、机に肘をついて言った。

「……ねえ華」

「はい、オブザーバー先輩」

「その判子」

「貸して」

「ダメです」

即答。

「なんで」

「責任の所在がぼやけます」

「それ、生徒会のやつ!」

みなみが吹き出す。

笑い声が、部室に満ちる。

春の気配が、窓の外にある。

でも、この部屋だけは――

あいも変わらずだった。

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