第21話 こんな時期に転入生かよ!
10月初旬の朝。新潟中央女子学園の掲示板前は妙な人だかりができていた。
「……ほんとにできたんだ、芸能コース」
西蒲真宵がプリントを覗き込み、眉をひそめた。
そこには〈普通科・国際教養科・理数科・芸能科(新設)〉と大きく印字されている。
「夏前から噂にはなってたけど、まさか秋からいきなりスタートとはね」
白根彩鼓も半信半疑の表情だ。
芸能活動をしながら学業を続けられるコースが新設される――それは在校生にとっても寝耳に水の話だった。普通なら来年度から始まるものが、突然この秋から始まるのだ。
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月初めの全校集会、校長が壇上に立つと、体育館にざわめきが走った。
「本日より芸能コースに編入する転入生を紹介します。中条みなみさんです」
壇上に立った少女は、透き通るような笑顔を浮かべて軽くお辞儀をした。
「中条みなみです。よろしくお願いします」
その瞬間、体育館中がざわめきに包まれた。
「えっ、ドッペル坂16の!?」
「ほんもの? え、なんで!?」
華も驚いて立ち上がりそうになる。文化祭でライブを行った新潟ご当地アイドルグループ「ドッペル坂16」の人気メンバー、その本人が自分たちの学校に転入してきたのだ。
さらに、華にはもうひとつの驚きがあった。
(この子……あの、OGの“中条和子さん”のお孫さんだよね……!)
初めてCQに応答してくれた相手であり、今も尊敬するアマチュア無線の大先輩。まさかその血縁が同い年で転入してくるとは、夢にも思わなかった。
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数日後の放課後。ハム部の部室で華たちは宿題を広げていた。ドアがノックされ、ひょこっと顔をのぞかせたのは、なんと中条みなみ本人だった。
「やっほー。ちょっと寄ってもいい?」
「え、えええ!? な、なんで!?」
華が机から飛び上がる。
「だって、ばあちゃんから“無線部に顔出してみな”って言われたんだよ。どんな部なのか気になって」
「ばあちゃんって……OGの中条和子さん?」
彩鼓が確認する。
「そうそう。“昔は無線部の女帝だった”とか言ってたよ」
みなみは笑いながら椅子に腰掛ける。
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そこで、意外な話が飛び出した。
「そういえばね、ばあちゃんに“あんた従免持ってるんだから確認してみろ”って言われたんだ」
「え? 従免? えっ、無線従事者免許証!?」
真宵が目を丸くする。
「うん。家探したら出てきたんだけど……これ」
そう言って、みなみがカバンから取り出したのは、少し色あせた小さなカード。
確かに「第四級アマチュア無線技士」と印字された国家資格の従事者免許証だった。だが、写真の欄には……。
「ぷっ……! なにこれ!?」
「赤ちゃん!? いや、幼児!? え、5歳くらい?」
免許証に貼られていたのは、髪をおかっぱにした幼児時代のみなみの写真だった。
「……そう。ばあちゃんに5歳の時に“どうせなら取らせちゃえ”って受験させられて。合格しちゃったらしいんだよね。でも本人はすっかり忘れてたの」
みなみは頬をかいて苦笑する。
「5歳で4アマ合格!? すごすぎでしょ!」
華は尊敬の眼差しを送る。
「いやいや、ぜんぶ丸暗記させられただけだよ。今じゃ回路図も法律もさっぱり覚えてない」
「それでも国家資格は国家資格だからなぁ……」
彩鼓は免許証を手に取り、じっと眺めた。
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「じゃあ、みなみ先輩はもう従免持ってるんだ!」
「先輩じゃない、同級生だってば」
笑いながらも、みなみは免許証をしまう。
「でもさ、せっかくだから少し思い出してみたら? オペレート体験とかしてみない?」
華が提案すると、みなみは少し考えてから頷いた。
「そうだね。どうせ仕事の合間にしか来られないし、趣味っぽいものがあったら楽しいかも。ばあちゃんも喜ぶし」
「よっしゃ! じゃあ次は部室のFTM-510Dで実戦だな!」
彩鼓がにやりと笑う。
「え、いきなり!? 私ほんとに覚えてないんだけど!」
「大丈夫だって! 華だって最初は真っ白だったんだから」
真宵が肩をすくめた。
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その日の帰り道、華は心の奥が弾んでいた。
(すごい……あの中条さんのお孫さんと同級生で、しかも従免持ちだなんて。しかも一緒に無線できるかもしれない……!)
偶然の出会いがどんどん縁を広げていく。それは、無線の「電波が遠くの誰かとつながる」感覚にも似ていた。
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翌日。
部室に集まった4人の前で、みなみは少し緊張した様子でマイクを握った。
「えっと……CQ、CQ……。こちらは新潟中央女子学園ハム部、オペレーター中条です。どなたか応答いただけますか?」
少しの沈黙の後、スピーカーから懐かしい声が流れた。
『JI0YLCの中条オペレーターさん、こちらはJQ0WLB。応答します』
「……えっ! ばあちゃん!?」
そう、応答してきたのは祖母・和子だった。
『みなみ、ちゃんと免許証使ってるのね。幼児写真のやつ、まだ有効なんだから大事にしなさいよ』
「やだもう! それ言わないでよ!」
部室は爆笑に包まれた。
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こうして、中条みなみは公式にハム部の仲間に加わることになった。芸能活動と学園生活の二足のわらじは大変だろうが、彼女の明るさは確実に部に新しい風を吹き込んでいた。
そして華は思う。
(この部に入ってから、毎月のように新しい出会いや発見がある。私、本当に無線始めてよかった……!)
二学期は、思いがけない転入生と共に、ますますにぎやかに幕を開けていくのだった。




