第20話 電波とメイドと三連休
終業式が終わって数日、夏休み最初の三連休が近づいていた。新潟中央女子学園ハム部の部室は、活気づいていた。
「そう言えば噂話なんだが…10月から芸能コースができるって」
副部長の西蒲真宵が、教室で仕入れた情報を何気なく口にした。
「えっ、今さらそんなの増えるの? 普通、4月とかからじゃないの?」
部長の白根彩鼓が眉をひそめる。
「芸能活動と両立できるようにするらしいわ。ほら、アイドルとか声優志望とか」
月潟澄佳は涼しげな顔でお茶をすすっている。
「えぇー、じゃあもしかして芸能人がうちの学校に来たりするの?」
寺尾華は目をきらきらさせ、妄想を膨らませる。
だが真宵は肩をすくめた。
「どうせ普通に通える子なんてほとんどいないだろ。噂だけで終わるんじゃね?」
――誰が来るかは、この時点ではまだ誰も知らなかった。
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三連休初日。華たちはそろって「しろね電波工房」の前に立っていた。
「で、なんで私たちが休みに駆り出されるわけ?」
彩鼓は心底不満そうに呟く。彼女の実家はこの「しろね電波工房」だ。
店の前には、今日だけの特設看板が掲げられている。
《しろね電波工房 × メイド喫茶メルセンヌ 合同イベント ~電波と萌えの不思議な出会い~》
「……何、このカオス」
「お父さんの企画らしいわ」
澄佳がさらりと答え、彩鼓は頭を抱えた。
店長であり彩鼓の父・徳造が、胸を張って出てきた。
「若者にアマチュア無線を知ってもらうには、萌えの力を借りるしかない! そうだろう?」
「そうだろう? じゃないっ!」
「でもでも! 私もう一度メイド服着てみたかったんだー!」
華はすでにノリノリで、用意された衣装を抱えている。
「わたしも……まあ、似合うかどうかは別として、仕方ないわね」
真宵はため息をつきながらも観念した。
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会場は工房の隣に借りた小さなホール。入り口でメイド姿の四人が「ご主人さま、ようこそ!」と客を迎えると、予想以上に人が集まってきた。
電波工房ブースではFTM-510Dなどの無線機展示や、交信体験コーナー。
メルセンヌブースではオリジナルドリンクを振る舞う。
両方をつなぐ目玉企画は「メイド姿のハム部員が交信体験をアテンド」というものだった。
「こちらは新潟中央女子学園ハム部、寺尾華です! どうぞよろしくお願いしますっ!」
華は胸を張ってマイクを握り、会場を盛り上げる。子どもたちが「すごーい!」と目を輝かせ、保護者も興味深そうに機材をのぞき込む。
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しかし順調だったのも最初だけ。午後になると、交信相手が見つからず、体験コーナーが停滞してしまった。
「なんでこんな時に限って電波が薄いのよ!」
彩鼓は焦り、真宵が冷静に周波数を確認する。
「コンディションが悪いみたいだな。どうする?」
そこで澄佳が、隣の駐車場を指した。
「父の運転手が待機してるわ。車の屋根にアンテナを立てれば、もう少し飛ぶはず」
「さすが財閥令嬢……」
真宵と彩鼓が呆れながらも協力し、臨時アンテナを設営。
その結果、再び交信が成功! スピーカーから元気な応答が返ると、会場は拍手喝采に包まれた。
「やったぁ! メイド服で電波飛ばしちゃった!」
華は満面の笑み。
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イベントは大成功で幕を閉じた。
後片付けの最中、徳造がビール片手に上機嫌で言う。
「見ただろ! やっぱり時代は“萌え×電波”なんだ!」
「もう勘弁してくれよ……」
彩鼓はげんなりしていたが、SNSには「メイド服で無線体験できるなんて面白い!」と写真付きの投稿が次々上がっていた。若者の新しい客層が開拓されたのは確かだった。
控室で一息ついたハム部の四人。
「でもさ、今日のイベントで“無線って意外と楽しそう”って思った人、絶対いたよね」
華はドリンクを飲みながらわくわくしている。
「そうね。もしかしたら新しい仲間ができるかもしれないわ」
澄佳が静かに頷く。
真宵はふと口を開いた。
「……それに、芸能コースの噂。もしかしたら部室に顔を出す子がいるかもしれないって話だ」
「えっ、ほんとに?」
「まあ、確かな筋じゃないけどな」
四人は顔を見合わせた。三連休の終わり、奇妙に胸をざわつかせながら。




