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天霧陰

「ソイニー師匠、秘策とはなんですか?」

「アスカ、運は我々に向いています。もはや奇跡とも言っていい」

「奇跡?」

「この場に初代魔導具士が、後世に残すために、こしらえた4本の刀が揃っています。明幸、死渡、希刀、そして一徹。元来これらの刀は一本の刀でした。それを私の兄が4分割して秘密裏に隠していたのです」

「なぜそんなことを」

「元々の刀は神気が強すぎて、天界大統領に隠し場所がバレる可能性があったので、わざわざ分割して隠していました。しかし、時の流れにしたがいて、刀は元の所有者を離れ、受け継がれ、どこの誰が持っているのかわからない状態でした。しかし、その刀たちが今この場に介した。これら刀を一つに再びまとめ上げられるのは、魔導具士の素質を保つアスカ。あなただけです」


 4つの刀を一つにまとめる。そうすることで分割された力が元に戻る。原理的には天界大統領を倒せそうである。もはや、これに賭けるしかない。


「ただこれには、問題があって」

「問題ですか?」

「4つの刀を融合させた刀は、一撃を放ったら瓦解してしまうという言い伝えがあるのよ」

「一撃で致命傷を与えて仕留めなければならないんですね」

「……そういうこと」


 果たしてそんなことが可能なのか。率直な感想として、分からないというのが本音だったが、現在提示できる最善策はそれしかない。やるしかないのだ。


「ただ、刀を融合させるための詠唱が分かりません」

「それは大丈夫よ。あなたは兄さん……初代魔導具士の生まれ変わり、欲すれば必ずやその願いは届けられるわ」


 僕は、立ち上がる。半信半疑ではあるがやるしかない。

 ソイニー師匠は一徹を僕に渡すとすぐにヒビトの援護に駆け出す。今度は自らの杖の硬度を強化し、接近戦で殴打と魔導を組み合わせながら応戦している。


『一徹』を眺める。この刀のおかげで魔専に入学でき、ヒビトやナオミ、マミとも出会えた。


 刀を丹精に作りながら、兄が改心してくれることを願……!? これは誰の記憶だ?

 急に見知らぬ記憶が脳の奥底から蘇る。

『下界人に最愛の人が殺されてから狂い始めた兄さん。元々は優しい兄さんに戻したかった。戻ってほしかった。だけど、兄さんは殺しのかぎりを続け、姉妹には天界を作ってしまった。

 ソイニーと私で兄を止めなければ。それが我ら兄妹に課せられた使命』


 初代魔導具士の想い……。一徹から流れ込んできた。この刀は愛する者の暴挙を止め、そしてその尊厳を守るために作られたのか。


「なんて悲しい刀なのか」


 僕は刀を立て、そして目を瞑る。郷愁の思いを募りながら初代魔導具士に思いを馳せる。

 頭の中に自然と詠唱文が浮かび上がる。


「大罪人にし流浪の民であった我らを許し賜るならば、統べる世界に平安をその尊厳の守護をもって、安らかに眠らせたもう。余は魔導具士、この世の万物の声を聞き、万物を統べる者なり。ゆえに、我が願いを聞き入れたもう『インフージョン』」


『一徹』が白い温かな色を発する。


 ——成功したか?


 そう思った矢先、『一徹』から放たれていた光は、すぐに消失してしまった。

「なぜ? 詠唱文はわかったのに、なぜ刀を融合させることができない? これでは下界は滅んでしまう」

 何度試しても、『一徹』は白い光を発した後にすぐに光を発さなくなってしまう。



「ア、アスカ」


 後ろから声をかけてきたのはロージェ先生だった。


「ロージェ先生! ご無事で』

「ああ、無事だ。そんなことより、アスカ。刀の融合を果たそうとしているな」

「なぜそれを」

「魔導具士の書で読んだことがあるんだ。伝説かと思ったが、事実だったとは。そしてそこには、刀の融合の仕方が書いてあった。アスカ。お前の方法では刀の融合は果たせぬ」

「では、どうすれば」

「触媒が必要なのだ。強力な魔導具、天界魔道具のような強力な魔導具を触媒として刀を融合させねばならない」

「強力な魔導具1? そんなもの今持っていませんよ」

「いやある。それがあるのだ。もはや奇跡に奇跡が重なって、全ては仕込まれた必然かと思ってしまうよ」


 そう話したロージェ先生の横に息切れした中級魔導士認定試験の時に試験監督をしていたエマ・ユリユスが少し肩で息をしながら立った。


「ありがとうエマ。持ってきてくれたか」

「ロージェ先生の頼みとあらば、死地に赴いて任を達成しますよ。さあアスカ受け取りなさい」


 エマから渡されたものは……かつて、中級魔導士認定試験の時にネロが違法に使っていた天界魔導具だった。


「これは、ネロが使っていた」

「そうだ、下界では持ち込みすら禁じられている天界魔導具。それが、ネロ少年から取り立てた後、王宮に厳重に保管されていたのだ」

「全ては必然……。これも仕組まれていたこと?」

「それは分からない。分からないがわかることは一つある。最善を尽くすことだ。さあアスカ。やるんだ。最後に弟子の晴れ姿を見せてくれ」


 ロージェ先生は微かに微笑む。もう長くはない。誰もが分かっていた。僕は、涙を堪えながら踵を返し、天海大統領に向かい直す。


 天界魔道具を左手に持ち、『一徹』を右手で掲げる。


「大罪人にし流浪の民であった我らを許し賜るならば、統べる世界に平安をその尊厳の守護をもって、安らかに眠らせたもう。余は魔導具士、この世の万物の声を聞き、万物を統べる者なり。ゆえに、我が願いを聞き入れたもう『インフージョン』」


 すると天界魔導具は空中に浮遊し始め、黄金に輝き出す。

 そして、液体のように『一徹』まとわりつくと、四方八方へと光が放たれる。


「ヒビト君。君はすぐに離脱して! そして『希刀』をアスカに投げて。それが天海大統領に勝つ最後の切り札」

「分かりました!」


 天界大統領を足止めしていたヒビトは満身創痍の中、離脱しそして『希刀』をアスカに投げる。


「アスカ! 受け取ってくれ!」


『希刀』は、一徹に吸い込まれるかのように融合し、そして『明幸』も、『死渡』も融合していった。


「あいつはなにをしてるんだ!」


 天界大統領もことの重大さに気付いたらしく、アスカに向かおうとするが、


「ここは死んでも通しません」


 ソイニー師匠は誰も見たことがないような気迫で立ちはだかる。


 光に飲まれた『一徹』は、だんだんと姿を表し、そこには黒刀が顕在していた。


 名は『天霧陰あまのきりかげ

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