懐古
「姫様、いかがなさいましたか」
日本王宮の一室に残った姫と僕。
「こっちに来て」
姫はベッドの端に腰掛けると、少し俯きながら僕を呼ぶ。僕は、呼ばれるがまま、少し距離を空けて座った。
「もう、そうじゃない」
そう言いながら距離を詰めてくる姫。姫は僕に体を密着させながら座り、首を僕の肩に添える。
「ひ、姫様、一体どうされたんですか」
「……ずっとね、こうしたかったの。小さい頃に行ったサニーの丘の時のように」
「懐かしいですね。サニーの丘。あの時は、レイト兄に目撃されて大変でしたが……」
「そうね、それで死刑にされちゃいそうになったしねアスカは」
「はい、実はあの日、ユーリ様に助けられたのです」
「知ってるわ。だって私が頼み込んだんですもの」
「え? 姫様が?」
「うん、アスカを助けたくて」
「……ありがとうございます」
僕は、姫様をゆっくりと抱きしめた。急に愛おしくなって。
「あ、アスカ、その、恥ずかしい」
「え、あ、すみません。不快な思いをさせてしまって」
「いや、そんなことないわ。恥ずかしいけど、嬉しい……」
「……」
心地よい沈黙が二人を包み込む。幸せな時間。この時間が永遠と続けばいいのにと思う。
「あの、姫様、それでどういったご用件ですか?」
僕は、そういえば姫様に呼び止められたことを思い出す。
「用件ってほどのことはないんだけど。その。もうすぐ最終決戦だから。その、アスカと——二人っきりで過ごしたかったの」
僕は、その言葉を聞いて姫様の全てを欲しくなる。
「姫様」
僕は、あろうことか一国の元首をベッドに押し倒した。
「え、アスカ」
「サニーの丘の続きをしませんか?」
「もう、アスカはいつからそんなに破廉恥になったの!?]
顔を赤らめて横を向く姫様。そう言いながらも抵抗は一切しない。
「——」
僕は、姫様の顔に手を添えると、静かに唇を合わせる。姫様は、最初は戸惑いを見せ唇が震えていたが、次第に大胆になる。腕を僕の首にかけると、舌を絡め合わせる。
「——ん。もうダメだよアスカ」
「すみません姫様。今日は僕のいうことを聞いてもらいます」
二人はそのまま、夜更けの暗闇に吸い込まれていき、愛を確かめ合う。
その時間は、これまで味わったことがないほど幸せな時間だった。
———
「おはよう」
声をかけられて起き上がる。そういえば、昨日は姫様と……。
姫様は、白いレースの下着を見に纏い、窓から外を眺めている。白い絹のような腕と足がなんとも美しい。
「アスカは今日はどうするの?」
「今日ですか? とりあえず魔専に行こうと思います。最後の魔専になるかもしれませんし、後、天界へ繋がるゲートも破壊しておきたいので」
「その話はソイニーから聞いたことがあるわ。天界に通じるゲート。そんなものが魔専の地下にあったなんて。驚きよね。それに壊されずに残っていたなんて」
「はい。これから最終決戦にあたり、そのゲートから侵入されると困りますので」
「頼みますねアスカ」
「はい」
——
「ねえ、ナオミちゃん。アスカ君と姫様は一体何を話しているのかな」
作戦会議の後、帰り道に話を切り出したのはマミだった。
「どうしたのマミ、心配なの?アスカを姫様に取られないかって」
「もうナオミちゃん」
マミは、姫様とアスカが普通以上の関係であることはわかっていた。そこに自分が入り込む隙がないことも。
「あはは、からかってごめん。まあ、あの二人は昔からの付き合いだから、積もる話があるんじゃない?」
「そうだよね、それだけだよね」
マミは真夜中に浮かぶ月を眺め、自分が姫様の立場だったらなあと、思うのだった。




