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真の天界

「アスカ……、生きてるか? アスカ!」

「……は」

「よかった。死んでしまったかと思った」

「エレン、ここは? 僕らは、あ、転移魔導を使った後、戦闘機から放り出されて……」

「そうだよ。その後、目が覚めたらここにいたんだ」


 周りを見回る。見渡す限り白い世界。御伽噺や授業なんかでも聞いたことがない世界。僕らはどこに転移してしまったのか……。


「とりあえず歩いてみないか?」


 提案したのはエレン。僕は頷くと、一緒に歩き始める。しかし、どこまで言っても白く靄がかかった世界は変容しない。同じ光景が続く。


「エレン、一体ここはどこなんだろう」

「僕も、全く分からない。だけど、不思議と嫌な気はしないんだよ」

「そうなんだよ。見知らぬ場所で不安なはずなのに、僕の心は暖かく穏やかなんだ」

「ここは一体」


 僕とエレンはお互いの顔を見合わす。その時だった。


「アスカ」


 僕の名前が呼ばれた。もちろん目の前にいるエレンからではない。聞き慣れた声。待ち侘びた声。そんな声。僕は、後ろを振り返る。


「アスカ、久しぶりね。大きくなったわね」


 その声の主は、母だった。幼き頃に見た姿の母が立っていた。


「……お、お母さん?」

「そうよ、私はあなたの母のユキナ・ニベリウムよ」

「お母さん!」


 母親の目の前まで近づく。幼い頃に抱きしめられた記憶が呼び起こされる。


「本当にお母さん?」

「まあ、疑うのは仕方ないはね? ほら、これを見てこの薔薇を」

 母は、ピンクのバラの魔導具を見せる。その魔導具はこの世に2つしかない。一つは姫様に献上し、もう一つは母親にプレゼントした。つまり、目の前にいるのは母だ。これまでどんなに会いたかったことか。

「だけど、ちょっと待って。お母さんがいるってことはここはどこ?」

「ここはね、天国よ。いわゆる『真の天界』と言われる場所」

「え? 天国? ということは僕たちは……死んだってこと」


 額から流れ出る汗。これから天界大統領を倒さなければならないのに、その決意は達成されずに僕は死んだのか。


「いいえ、それは違うわ。あなた達は転移魔導でここに来たのよ。だから死んではいない。ただ、あまり長居しすぎると魂が肉体から抜けて死んでしまうわ」

「……そうなんだ。僕はちゃんと転移魔導を現界できたんだ。出口は天国にしちゃったみたいだけど」

「あなたは何も間違っていないわ。ちゃんと出口も日本王国にできていたわ」

「じゃあ、なんで僕は天国に」

「それは、私が干渉したからよ。これが最後のチャンスだと思ったから」

「最後のチャンス?」

「そうよ。私はずっとアスカの活躍を見守ってきたわ。本当は何度も助けたかった。だけど天国から現世に干渉することは許されない。だけど転移魔導は違うの。転移魔導は必ず『真の天界』を経由するの。ここは、時間の概念も空間の概念もない場所。だからここを経由すればどこにでも行ける。つまりどこにでも転移できる」

「じゃあ僕達は、今は転移途中ってこと?」

「そうよ。私が天から授かった特殊な能力『固定魔導』であなたを『真の天界』にとどめている状態よ」

「お母さんはなんで僕たちを引き留めたの?」

「それはね……だけど、あなたがこれから対峙する相手は天界大統領。その前に渡したい物があったの。天界大統領に勝つための魔導具。それはこれ」



 母は両手を前に出すと、刀を現界させる。そして、その刀をアスカに手渡す。

「あなたが天界宝物庫から呼び寄せた明幸は、幸せを運ぶ刀。別名勝利の刀とも言うわ。ただそれだけでは天界大統領には勝てない。なぜならば、天界大統領は不死身だから。彼の魂は、再生し続ける。その時に必要な魔導具がこの刀、『死導シドウ』。死導の所有権をアスカに移譲します」

「死導?」

「そう、この世で唯一魂を切れる刀。この刀があれば、天界大統領の魂を切ることができる。そして、この刀の力は、明幸があって初めて発揮される。初代魔導具士がそういう風に作製したの。だから、今のアスカは、この世で唯一『死導』を扱うことができる人物」

「この刀があれば、天界大統領を……。これも初代魔導具士が……」

「そうよ。だけど、彼はこの刀を実の兄である天界大統領に振るうことはできなかった。優しすぎたの」

「だけど、お母さんはどうしてこの刀を持ってるの?」

「それは、この刀はあなたのお父さんから預かっていたのよ」


 僕のお父さん?僕は、父のことを全く知らない。物心ついた時には、すでにいないかった。死んだと聞いていた。


「お父さんって、どうしてお父さんはこの刀を」

「あなたのお父さんは、初代魔導具士の子孫だからよ」

「え!?」


 衝撃的な話で硬直する。父が、初代魔導具士の子孫一体どういうこと?


「あなたのお父さんは、日本王国の第一皇子だったシスタ・ニベリウムよ」

「お、お父さんが、第一王子?」

「そうよ。あなたのお父さんは、民に慕われ、民のために働いたとっても優しい第一王子よ。だからあなたは王室の子でもあるわ。ただ、私は身分が低かったから、お父さんが亡くなってから王宮を追放されて貧しい生活をあなたに強いることになってしまった」

「いや、そんなことないよ。僕は、僕は、お母さんと過ごせて幸せだった」


 母の目からこぼれ落ちる涙。その涙は光を乱反射しながら美しく落ちる。そんな母を抱きしめる僕。


「アスカ。ありがとう。それでね、彼は、私の固定魔導の力で、日本王国に伝わる死導を封印してくれとおっしゃり、私は、この刀を私の一部として固定していたの。私は死後もずっとこの刀を封印し続けていたの。いつかあなたに渡す日が来ることを信じて」

「そうだったんだ。ありがとう、お母さん」

「あと、アスカにはもう一つ伝えないといけないことがあるの」

「何?」

「私ね、お母さんはね、天界大統領の娘なの」

「……」

 沈黙が流れる。ただ、母も僕も動揺していない。優しい目をこちらに向ける。

「知ってる。さっき天界大統領から聞いた」

「ごめんね、黙っていて。私は、天界大統領の分別なき狂権に嫌気がさしソイニーと一緒に日本王国に逃げてきたの。そんな私にシスタは日本国籍をくださり保護してくださいました。そして、正妻にまで迎えてくださいました」

「そうだったんだ。正直びっくりしたけど。それよりも、お母さんは、僕が天界大統領を倒してもいいの?実の父だけれども」

「——それは、いいわ。あの人はもう何百年も生きたわ。そして何億人も殺してきた。そして、今また地球を滅ぼそうとしている。私は父がまた人々を殺戮するところを見たくない。そんな父を見たくない。アスカ、天界大統領の役目を終わらせてきてあげて。そして地球に平和を」

「……分かった」



 僕は静かに頷く。




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