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賭けに出ないか

「ソイニーよ、殿しんがりを務めるみたいだが、帝級魔導士であるお前が、この天界を統べる神級魔導士であるこの私に勝てる見込みがあってのことか」

「いや、私もそこまで馬鹿ではありません。力の差は理解しています。ただ、足止めぐらいはできます」

「そうか。今宵は過去の忠実なる部下をも失うことになるのか。ああ嘆かわしい。全くなぜお前らは私の言うことを黙って聞かないのだ」

「そういうところです。天界大統領。自らを顧みず、全てを他人のせいにするそういうところが、最悪を招いているのです」

「お説教ありがとう。お前も頭が高くなったな。昔は可憐な乙女だったのに」

「変わらない人はいません。天界人も地球人も」

「変わった結果が反逆ならば、ここで死ね。有用かと思って今まで見逃してきたがお前はもういらん。雷鳴ここに轟かん『サガンガ』」


 王の間に巨大な稲妻が現界し、ソイニー師匠めがけて放たれる。いきなりの帝級魔導。さすがは天界大統領と言ったところか。


「我が密約に従い力を貸与せよ。『聖霊砲セイント・キャノン


 ソイニー師匠もすかさず帝級魔導で応戦する。白い魔法陣の展開後、激しい弾幕が大統領を襲う。

 激しく舞い上がる粉塵。しかし、これだけで倒れるほど柔ではないことをソイニー師匠は知っていた。


「腕を上げているなソイニー。下界に降りて退化したかと思っていれば」

 片手に刀を持った大統領が不敵な笑みを浮かべながら薄れた粉塵の中から現れ、刀を一振りし、粉塵を薙ぎ払った。


「大統領こそ、年老いてもその力は健在ですか。魔導の現界は感じられませんでした。つまり、全盛期同様にその王具『王のエレンガン』で私の放った砲弾を全て切り落としたのですね」

「ああ、そうだ。強くなったとはいえ、砲弾が止まって見えたぞ、ソイニー」


 部が悪い戦いであることはわかっていた。元々、アスカとエレンが逃げる時間を稼ぐだけ。戦えば戦うほどジリ貧になることは必須。そろそろ退却しなければ。アスカは無事に脱出できただろうか。



 ——


「さあ、アスカ、早くこの機体に乗って」

「え、これって」

「米帝戦闘機をパクってきたんだ。僕はもう米帝には戻れないから、このまま日本王国に向かうよ。天界門はアマテウスさんが秘密裏に開いてくれるらしいから。急いで」

「でも、ソイニー師匠がまだ」

「ソイニー師匠は大丈夫。僕たちが脱出後、合図を送れば緊急脱出魔導で王の間を脱出するから」

「だけど、相手は天界大統領だよ。いくらソイニー師匠でも」

「アスカ、僕らが行ってどうにかなるかい?むしろソイニー師匠の足手纏いになってしまう。大丈夫、ソイニー師匠を信じよう。彼女の強さは君が一番わかっているんじゃないか?」

「……」


 エレンの言ったことは正論だった。正論すぎて反論できない。しかし、アスカは惨めな気持ちに陥っていた。——ああ、まだ僕には力が足りないのか……と。


 アスカ達が乗り込んだ戦闘機が離陸し、低空で天界を飛ぶ。天界人達は聞きなれない轟音に、建物から外に飛び出し、音の原因を探る。そして、戦闘機を見たものは、目を大きくして「あれはなんだ」と口々に話す。

 魔導中心の天界に科学なんてものはほとんど存在しない。それが功を奏して、戦闘機をすぐさま敵とみなす天界人はいなかった。


「天界門まであと1分。アマテウスさん聞こえますか」


 エレンが、無線機を通じてアマテウスに呼びかける。


「こちらアマテウス。申し訳ないが天界門は開けない」

 アマテウスの意外な言葉にエレンは目を見開きながら驚く。

「どうしてですか」

「王の部隊が天界門に集まってきている。恐らく、君たちを逃さないためだろう。ただ、別荘にある魔専に繋がる秘密のゲートはまだある。そこからならば……」

「いや、そこを経由している暇はありません」


 エレンは考える代替手段を。しかし、容易には思い付かない。

 その時、アスカの脳裏にソイニー師匠の言葉が思い浮かぶ、魔導具士はかつて自在に移動する魔導が使えたと。実際、自分が魔導具士であることを認識した後に、アスカは一徹を用いて移動魔導の呪文を唱えたことがあった。しかし、その時は何も現界させることはできなかった。しかし、初代魔導具士が愛用していたこの『明幸』ならば……。


「エレン、賭けに出ないか?」

「アスカ、何か策があるのか?」

「この天界魔道具である『明幸』ならば、転移魔導を現界させることができるかもしれない」

「やはり、その刀は天界宝物庫にあるはずの『明幸』だったのか。天界にいる頃に何度か見る機会があって覚えていたが、アスカが適正者だったとは驚きだ。確かに、『明幸』ならば禁忌とされている転移魔導を現界させられるかもしれない。しかし、天界魔導具の使用は大変な魔導力を必要とする。失敗すれば、しっぺがいしが自分に来るぞ、アスカ」

「わかってるよ。だけど、今は賭けに出よう」

「わかったアスカ。君を信じる」


 戦闘機の速度を落とし、ハッチを開くエレン。アスカは立ち上がり、『明幸』を抜き構え、詠唱する。

「我に自由を授けよ『転移門トランスゲート


 戦闘機の前方に漆黒のゲートが現界する。成功したのか? 分からないが今は突っ込むしかない。


「いいかアスカ。行くぞ」

「覚悟はできてる。いっけええええ」


 漆黒のゲートは二人が乗った戦闘機を飲み込んだ。

 

 ——ガタガタ


 揺れる機体、視界不良、未だ暗闇を進み続ける2人。


「アスカ、これはやばいかもしれんぞ」

「エレン、転移魔導って言い伝えによると一瞬で転移できるはず……」

「そうなんだよ。そのはずなのに僕らは……。あ、やばいアスカ……」

「え? どうしたの」

「操縦桿が取れた」

「マジかよ、え、ちょっとうわあああ」


 制御を失った戦闘機は激しく揺れ、損壊し、2人は戦闘機からほうり出され漆黒に消えていった。


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