観光
「アスカ君、今日はごめんね。楽しすぎてやりすぎてしまった」
エレンは部屋に入って来るなり開口一番、僕に謝罪をする。
楽しすぎてって、模擬戦中、終始笑顔だったから相当楽しかったんだろうけど、致死性魔導の使用はやめて欲しかったな。
まあ、最終的には無事だったから許すことにするか。
「さすがに致死性魔導を放たれた時は焦りましたが、いいですよ。良い経験にもなりましたし」
「いや〜そう言ってもらえるとありがたい! お詫びと言ってはなんだが、明日のフリータイムに街を案内させてはもらえないだろうか」
米帝魔導学校は首都のワシントンに位置している。
ホワイトハウスだって見たいし、少し足を伸ばしてニューヨークの方にも行ってみたい。
チームメイトで行動するとはいえ、見知らぬ土地を観光するのは少し怖かったから、エレンに案内してもらえるのは嬉しい話だ。
「それは願ったり叶ったりです。お願いします」
「じゃあ、明日9時に正門前集合で!」
そういうとエレンは嬉しそうに去っていく。
まあ、災い転じて福となすといった感じだろうか。
今日の様々な雑念は忘れて明日は楽しむことにしよう。
次の日
模擬戦の次の日は、自由行動が許される日である。
「みてみて! 大きなスクリーン! ここがタイムズスクエアね」
ナオミがガイドブックを抱きしめながら感慨にふける。
「私、一度来てみたかったのよね。コーヒー片手に颯爽と歩いて、キャリアウーマンとして皆から羨望の眼差しでみられたいなって、昔憧れたのよ」
ナオミの目からキラキラ光線が出っ放しである。
「だけど、魔導士の方が憧れの存在なんじゃない?」
僕はナオミに訊く。
「全く! アスカはわかってないな〜。魔導士よりウォール街とかのキャリアウーマンの方が煌びやかでしょ!」
「まあ、そうかもしれないけど」
「アスカ〜女心を理解できないと、モテないわよ〜」
ナオミはニタニタしながら僕を斜め下にみる。
いやいや、大きなお世話だってと思ったが、口にはせず飲み込んだ。
まあ、ナオミにとっては、ニューヨーカーというものがステータスの一つなのであろう。
僕とナオミが話をしていると横から急にエレンが会話に入ってきた。
「お嬢様方! アクセサリーはいかがですか?」
そういうと、エレンは、ナオミとマミを連れて宝石店に入っていく。
その後ろを僕とヒビトもついて行く。
「エレン様ようこそ」
宝石店に入ると、僕らは店員一同に出迎えられた。
「ここはね、僕が時々くる宝石店なんだ。女性に贈り物をする時とかに使うんだけど。ナオミさんやマミさん何か好みなものとかあるかな?」
エレンはマミとナオミに何かプレゼントしたいようである。
さすが米帝大統領の次男。
考えることが庶民とは違う。
「すごい、マミ見てこのネックレス、ゼロが6個ついてるよ。え!? 日本円で1億円!?」
「これは、触ることすら憚れるね。ナオミちゃん」
「そうね。そうだ、マミ、アスカに訊いてみれば? どんなジュエリーがマミに似合うかって?」
「え? それは、恥ずかしすぎるよ」
マミはそう言いながら僕を見る。
僕は、マミとナオミの会話が聞こえなかったため、なぜマミがこちらを見たかよくわからない。
マミが、少しおどおどしながら、様々なジュエリーを見ていると、急に僕に話しかけてくる。
「あの、アスカ君、このジュエリーとかって、私に‥‥‥似合うと思う?」
急な質問に僕はびっくりするが、せっかく訊いてもらったわけだし、僕は真剣に選ぶことにする。
「うーん、これなんかどうかな?」
「僕は、澄み渡った赤色の小粒のルビーがついた指輪を指差す」
「アスカ君は、こういう控え目な感じのものがいいんだね」
「あー、言われてみればそうかも」
僕のなんともない回答に、マミは嬉しそうに反応する。
ただ、選んだだけで、ここまで嬉しそうにしてくれることに、疑問を抱きながらも、『まあ、いいか』と思う。
僕らがジュエリーを見ていると、エレンが話し出す。
「レディーのお二人、好きなものは見つかりましたか? 今日は特別に購入して差し上げますよ!]
さすが、米帝大統領の次男、太っ腹だなと僕は感心する。
「マミどうする?」
ナオミは高価なジュエリーを前にして少しおじ気ついているようである。
「ナオミちゃん、私にはちょっと不相応かなって」
マミも、少し気が引けているみたいだ。
「エレンさん、ご厚意は嬉しいんだけど、その身分不相応だから、今回は遠慮させてもらおうかなって」
ナオミが申し訳なさそうに、エレンに心境を伝える。
「私も‥‥‥」
マミもナオミに同意する。
「そうか〜似合うと思ったんだけど、それじゃあ仕方ないね。じゃあ、次はとっておきのイベントを用意しておいたから行こう」
そういうとエレンは僕らを引き連れ店を出る。
店を出て、エレンが用意してくれた車に乗り込む。
大体3時間くらい乗っただろうか。
エレンの「着いたよ」という言葉で僕らは外を見る。
するとそこにはホワイトハウスが建っていた。
「せっかく米帝に来たんだし、ホワイトハウスに行かなきゃね! しかも今回は特別に中に入れてもらえるように許可取ってあるから! あ、流石にお父さんには会えないけどね」
なんと! ホワイトハウスの中に入れるらしい。
ぼくはこの情報によって、テンションが爆上がりする。
他のチームメイトもワクワクが止まらない様子。
「さあ、こっちこっち」と僕らはエレンに連れられてホワイトハウスの中に入る。
「えっと、こっちが広報室でこっちが職員室」
エレンは一つ一つ部屋を紹介してくれる。
その間も、ひっきりなしにホワイトハウス内を人が行き交う。
中には、軍服を来た高官も慌ただしくしている。
そんな中僕らはエレンに連れられ、部屋から部屋へと渡り歩く。
そして、エレンは急に、立ち止まり、意気揚々に告げる。
「そして、ここが大統領執務室の前室です。さすがに執務室内は案内できないんだけど、前室もなかなか入れる場所じゃないよ」
「「おー」」
と、僕らは歓声を上げる。
一生に一度入らないことが普通であろうホワイトハウスに入り、しかも大統領執務室の前室まで来てしまった。
これに感動しないでいつ感動するのか。
--カチャ
僕らが感慨に耽っていると、急に奥の扉が開く。
「お、お父さん」
エレンはびっくりしたように呟く。
お父さん!?
お父さんって、もしや米帝大統領!?
「おー、エレンじゃないか。こんなところで何をしてるんだ」
米帝大統領は、顎髭を生やして180 cmくらいのガタイが良い。
そして、なんとなくエレンに目元が似ている。
「ちょうど今、研修留学に来ている日本の魔導専門学校の生徒さんたちを案内していたんだ」
「そういえば言っていたな。お世話係になったと。魔導専門学校の皆さん、米帝にようこそ。エレンが失礼なことをしていませんか?」
失礼なこと‥‥‥。
昨日、致死性魔導を使用されたけれども‥‥‥それは黙っておこう。
それよりも、米帝大統領はもっと怖い人をイメージしていたけれども、拍子抜けるほど、優しいそうじゃないか。
「どうだい皆さん、少し執務室で話していきませんか?」
「「え!?」」
僕らは米帝大統領の予想外の言葉に驚く。
なんと、執務室に入れてくれて、しかも話す機会するいただけるらしい。
僕らはもちろん「イエス」と答える。
執務室は、テレビで見たことある光景と完全に一致していた。
当たり前と言われれば、当たり前だが、やはり実際に実物を見ると、その光景に感激する。
僕らは、大統領のデスク前に設置された椅子に座る。
「さて、皆さん、米帝はどうですか? 楽しんでいただけてますか?」
「はい、日本とは異なる文化、思想など実際に経験できてとても有意義な留学となっています」
米帝大統領の質問にヒビトが答える。
こういう時のヒビトの存在は大きい。
とても頼り甲斐がある。
僕だと、ボロが出て失礼なことを言ってしまいかねないし。
「いい機会だし、何か私、大統領に質問とかあるかね? 答えられることなら何でも答えてあげよう」
大統領は手を広げながら、微笑んでいる。
僕らは互いに顔を見合わせ、何か質問がないかお互いに目配せする。
そんな中、僕は、あることを訊きたくなる。
ただ、この内容は失礼にあたるかもしれない。
少し躊躇われるが、やはり訊きたい。
ついに、僕は意を決して米帝大統領に直接質問する。
「あの、大統領、どうして日本を攻撃してくるのですか?」
訊いてしまった。
米帝が日本と多様ないざこざを抱えているのは事実。
実際、米帝がちょっかいをかけてこなければ、そのようないざこざは起きないものである。
そして、大統領はゆっくりと話し出す。
「日本王国と小規模な衝突が絶えないのは承知している。だけど、君は勘違いしているみたいだ。我々から攻める場合もあるが、日本王国からも米帝に小規模の攻撃がなされているのだよ。まあ、やられたからやり返すだけなら、解決もしやすいかもしれないが、問題はもっと根深いのじゃ」
「根深いとは?」
「君は知っているか? あの世界大戦、通称シルベニスタ大戦。結果は日本王国はソイニー帝級攻撃魔導士とシルベニスタ皇級攻撃魔導士によって、勝利を収めた。だが、その裏で、米帝の軍人のみならず市民も多く死んだ。その憎悪を未だ米帝は忘れられずにいるのだ。だから、そんな簡単にいざこざは今後もなくならない。本来ならば、力を合わせて、天界に刃向かわないといけないのにな」
大統領、天界に刃向かわないといけない?
どういうことだ?
僕は再び大統領に訊く。
「あの、天界に刃向かうとはどういうことですか?」




