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ソイニーの秘密

 僕は、ニールの付き人の女に連れられて、魔導学校の来賓部屋の前まで来る。


「ニール様、アスカ・ニベリウムを連れて参りました」


 そういうと、女は扉を開け、僕を部屋の中へと誘導する。

 部屋の中に入ると、そこにはニール1人だけが座していた。


「おうおう、相変わらずの敵意剥き出しじゃないか。アスカ。ここは米帝だから俺を殺せば、お前は即刻死刑になるぞ。まあ、俺を殺せればの話だがな」


 ニールは不敵な笑みを浮かべている。

 そんなニールを、僕は睨みつけぶっきらぼうに話す。


「一体僕に何の用だ。ニール。僕を殺すのか?」

「話が飛躍しすぎだアスカ。今回は誰からも依頼もされていないし、お前を殺す理由がない。俺は米帝に協力する善良なただの天界人さ。ただ、少しは世間話にでも華を咲かせようかと思ったが、お前と俺はそういえばそういう間柄でもなかったな。ならば、本題に入ろう。聞きたいことは2つある。一つ目はお前を転生させたのは一体誰だ」


 僕は、あの日家族をニールに殺され、そして何者かの声を聞いた後、この世界に転生させられていた。

 だが、誰が僕を転生させたのかは分からない。

 なんなら、僕が知りたいぐらいだ。


「そんなの知らない。僕が知りたいぐらいだ」


 僕は事実をそのまま述べる。

 しかし、ニールは不満そうである。


「じゃあ、声は女か男のどっちだ」


 ニールは内容を変えて質問する。

 しかし、僕は一片たりとも情報を渡したくない。


「そんなの覚えているわけないだろ」


 僕は再び無愛想に応える。


 そんな僕の様子を見て今度はニールが、凄まじ気迫で問いただして来る。

「本当は知ってるのだろう。真実を言え!」


 僕は、ニールの気迫に気圧されてしまう。

 言いたくない、言いたくないのだが、あすなろ荘でニールと対峙した時の恐怖が蘇る。

 その、恐怖に負け、僕は口を開いてしまった。


「女の声だった」

「なんだ、やっぱり知ってるではないか。女の声か。やはり、革命派の連中が関与しているのか」


 ニールは何かに納得しているようだが、僕には全く分からない。

 そんな僕を尻目に、ニールは続けて質問してくる。


「まあこの話はここまででいい。では次の話題だが、アスカ、お前はこの短期間で随分と強くなったではないか。お前の刀もなかなか興味深いものである。そこでだ、お前は俺の弟子になれ」


 何を言っているんだ。この殺人者は。

 僕を弟子にだって、おかしなことを言うのもほどほどにして欲しい。


「何をふざけたことを言っているんだ」

「何もふざけた事を言ってないさ。俺の弟子になれと言っている。お前を最強戦士に育て上げてやろう」


 本当に頭が狂ってるのではないかと、僕は疑う。

 僕の親族を殺しておいて、弟子にしてやるなんて、普通の神経をしている人は言えない。

 なんなんだ、このニールという男は。

 しかも僕には、ソイニー師匠とロージェ先生がいる。

 この男の力を借りる必要なんてないし、真っ平ごめんだ。


「それは断る。僕には必要ない」

「おうおう、連れない事を言うなよ。なんだ、あれか? ソイニーの弟子である手前、俺の弟子にはなれないってか?」


 なぜ、ニールは僕がソイニー師匠の弟子である事を知っているんだ。


「おほ、その顔は、なぜ俺が、アスカがソイニーの弟子であるか知っているかと戸惑っているかと言う顔だな」


 ニールは僕の考えをズバリ言い当てる。

 やばい、完全にニールのペースに飲まれてきた。


「知りたいか? なぜ俺が知っているか。そう難しいことでもない。実はな‥‥‥」


 ニールは不敵な笑みを浮かべ勿体もったいぶりながら話す。

 僕は、そんなニールの言葉を、不本意ながら固唾を呑んで聞き入ってしまう。


「それは、ソイニーが天界人で、監視対象者で、常に天界から監視されてるからだよ。そして、事あるごとに嫌がらせを天界から受けている。この前のあすなろ荘襲撃だって、俺が実行犯だが、依頼者は天界だ」



 ソ、ソイニー師匠が、天界人‥‥‥?


 僕は、予想外の言葉に動揺する。


「そ、そんなバカな話があるか。天界と下界はいがみ合って不可侵条約が結ばれているし、そもそも天界人ならばなぜ下界にいて日本のために働いているんだ」


 僕は、疑問をそのままニールにぶつける。

 ニールは椅子に深く腰掛け、腕を胸の前で組みながら、話し続ける。


「それは、ソイニーが天界の裏切り者だからさ。あいつは天地大戦で急に天界を裏切り、天界人の同胞を沢山殺した殺戮者だ。だから、天界では指名手配されていて、もしソイニーが天界に戻れば即刻死刑だ」


 ニールは、一体何を言っているんだ。ソイニー師匠が同胞殺しの殺戮者だって?

 そんなのあり得ない。

 あんなに優しく、思いやりに溢れ、日本王国民のためにシルベニスタ大戦では東洋のジャンヌダルクと言われるまでに奮闘したソイニー師匠が、本当は天界人で、天界を裏切った殺戮者なんて。

 到底信じられるわけがない。


「では、視点を変えよう。アスカ、なぜお前は、ソイニーに師事しているんだ」

「それは、強くなるためだ」

「強くなるためか、それは単純明快でいいな。なぜお前は強くなりたいのだ」

「それは、大切な人を守るため、二度と目の前で大切な人達が傷つく事を防ぐため、そう、全ての人を、お前のような野蛮人から守るために僕は強くなるんだ」


 僕は、ニールを睨みつける。最大限の憎悪を持って。

 ただ、ニールは至って冷静である。


「なるほど、なるほど。俺の弟子になりたくないのはそこら辺に問題があるのか。だが、一つ言わせてもらうが、お前の理想はいびつ過ぎる」

「歪だって!? 何が歪なんだ」

「人はな、全てを救えないんだよ。救えたと思ってもそれは見せかけ、大切なものほど手からこぼれ落ちていくものだ例えば、今度また、俺があすなろ荘を襲撃したとして、お前は子ども達を守りきれる自信があるか? ないだろ。 例えば、戦争が起きてお前が誰かを守るために敵を倒したとしよう、だけど、その敵にも家族や愛する人がいて、その人達は悲しみにくれる。つまり、お前はその人達を悲しみから守ることができなかったわけだ。違うか?

 要するに、お前のすべての人を守るといった理想は、馬鹿げていて、非現実的で、身勝手な理想であるということだ。その理想はいずれお前自身を焼き尽くす。だから、そんな理想捨てて、俺の弟子になれ。お前の理想も一部は叶えられるだろう」


 ニールは僕の信念が間違っていると言った。

 そして、そんなもの捨てて弟子になれと。

 そんなの到底飲めるわけがない。


「僕は、この理想が間違っているとは思わない。そして、僕は、この理想を必ず体現させる。お前に何を言われようとも必ず。だから僕はお前の弟子にはならない。俺の理想を否定するような奴の弟子には」

「そうか、アスカ。お前の意思は堅いか。お前のその傲慢さは、お前の身を滅ぼすだろう。まあいい、話はこれにて終わりだ。」


 そういうと、ニールは付き人の女に、僕を部屋から出すよう指示する。

 僕は、女に腕を掴まれると強制的に部屋の外に放り出される。


「いてっ」


 尻餅をつく。

 その様子を女は静かに見据え最後に告げる。


「あなたは、もう少し賢い子かと思っていましたが、残念ですね。お別れです。さようなら」


 そういうと、女は来賓室の中に消えていった。

 僕は、もやもやを心の内に抱えながら、自室に戻る。


「アスカ!」


 自室の前には、ヒビトやナオミ、マミ、ロージェ先生がいて、僕の帰りを待っていた。


「アスカ君大丈夫!?」


 マミは僕の手を持って心配そうに僕を見上げる。

 マミの温かさに触れて、ニールから受けた仕打ちによる心の動揺が少しばかり和らぐ。


 ヒビト達は、一時、僕が行方不明だということで探したが、見当たらず、部屋で僕の帰りを待つことにしたらしい。


 ヒビト達は、模擬戦のことを心配してくれた。

 そして、模擬戦の後どこにいっていたのかとも尋ねられたが、僕は、ニールと会っていたことは、ソイニー師匠の話などまだ頭が整理できていないため黙っていることにした。


 僕の無事を確認するとロージェ先生は魔導学校の先生達と打ち合わせがあると言って去っていく。

 その後、残された僕らは、各々の模擬戦の感想を述べたり、米帝に見聞きしたことについて話したりした。


 高層ビルが立ち並んだり、産業の発達具合は日本王国とさほど差はないようであるが、軍事力や国の活気は、俄然米帝の方が目に見えて優れていた。

 この事実に僕らは、将来的に米帝と衝突した時のことを、想定し憂鬱になる。


そして、その憂鬱に拍車をかけるようにナオミが口を開く。

「アスカ、やっぱり気になったから訊くんだけど、アスカってその刀を抜くと上級魔導が使えるようになるの? これまで、私たちの前で刀を抜かなかったのは、そのことがバレるのを防ぐため?」


ナオミが確信をつく。

やはり書かれてしまったか。

僕はどう言い訳をするか迷う。

すると、ヒビトが僕の肩を持ち、ゆっくり頷いてから話し出す。


「アスカ、チームメイトには話してもいいんじゃないか? アスカは何故かその刀の魔道具との親和性が高くてね。理由はわからないけど、その刀を使って魔道を現界させると、強力な魔導を現界可能になるんだ」

「そ、そうだったんだ、刀の魔道具って見たことなかったからずっと気になってたんだけど、その刀にはそんな機能があるんだね。流石はソイニー様の弟子だわ」


ナオミは自己完結したみたいで、何やら納得したらしい。

これ以上追求されないことは、僕にとって好都合だったから、僕はそのまま黙っていることにする。


 そんな鬱蒼とした雰囲気が僕らを覆っている時、突然ドアがノックされ、僕が返答をする間もなく、ドアが開かれた。


 ドアを開けたのは、エレンだった。

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