チーム・ニベリウム
ヒビトの口から発せられた予想外の言葉。
チームリーダーはアスカが適任だという。
ヒビト以外のメンバーは皆、一瞬戸惑った。
まあ、当然の反応だろう。
「ヒビト君、それはどうしてなのか説明してもらえない? 別に、アスカ君がリーダーになるのが嫌とかではないんだけど‥‥‥、ヒビト君の考えを聞きたい」
ナオミが驚いた表情のままヒビトに訊いた。
ヒビトは、僕に少しだけ微笑むと、ナオミの方を見て話し始める。なぜ僕が適任なのかを。
「理由は2つあるんだけど。
まず一つ目は、魔導士を志す理由だね。アスカが魔導士を目指す理由は僕と一緒で、大切な人を守るため。失わないため。利己的な利益のために魔導士になる人が多い中、利他的な理想を抱いて魔導士を目指している。
やはり、チームを引っ張るリーダーは確固たる理想というものを持っていないといけないと思うんだ。そうしないと向かうべき目標や場所がわからなくなってしまい、チームも瓦解しやすくなると思うんだ」
「理想は確かに大事だと思うけど‥‥‥」
ヒビトの一つ目の答えに対し、ナオミが微妙な反応を示す。
「そして、二つ目は、アスカはそれをすでに行動で示していると言うこと。事件として報道もされたから皆知っていると思うけど、帝級攻撃魔導士ソイニー様のあすなろ荘が何者かに襲撃を受けた事件、あの時子ども達を最後まで守り通したのがアスカなんだ。これは内密な話だけど」
「え!? だけど、報道だとあの事件は上級魔導士のユミ・クルルギさんと剣豪ロージェ先生が対処したため大事には至らなかったって言ってたわよ!」
ナオミは驚きを隠せない。
そして、マミも同様に口に手を当てながら驚いている。
「報道ではね、だけど実際は、危機的状況でアスカが、ロージェ先生の到着まで、最後まで踏ん張って皆を守り続けたから、皆助かったんだよ。自分が死ぬかもしれない状況下で、守るために立ち続ける。これをアスカは実際にやってのけたんだよ。僕だって、人を守りたいと言う理想はあるけど、実戦になれば体が動くかなんて分からない。しかし、アスカは理想だけでなく、実際に理想を体現してみせた。これは本当にすごいことだと思うよ。
だから、僕はアスカをチームリーダーとして推薦するよ」
「そうだったのね」とナオミは顎に手を当て、首を振りながら納得する。
「ちょ、ちょっと待って、アスカ君はなんでその時、あすなろ荘にいたの?」
ナオミは今度は僕に訊く。
「あの日は、ユミ姉と一緒に昼ご飯を食べていて、そしたらあすなろ荘が襲撃を受けたって報告が来たから、ユミ姉と一緒に‥‥‥」
「アスカ君、ちょっと待って、ユミ姉ってユミ・クルルギさんのこと? アスカ君とどういった関係なの?」
「そうだよ、ユミ姉はユミ・クルルギのことだよ。ユミ姉は僕の姉弟子なんだ」
「姉弟子!? あのユミ・クルルギさんが!?」
「そうだけど、どうしたの?」
「どうしたのって、ユミ・クルルギさんって、防御が得意な魔導士、いわゆる防御魔導士の中ではマドンナ的な存在で、「絶対防壁」とか特殊な防壁も現界させられる皆の憧れの存在なのよ! しかもユミさんの弟弟子って、なりたくてもなれないのよ」
ユミ姉、いつも結構ゆるい感じに生きていて、弟みたいに可愛がってくれる反面、からかってきたりして、まあ、年相応よりは子供っぽい人だなと思っていたけど、そんなに注目の的だったのか。
本人は、全然自分の立場を理解してないようだけれども。
ユミ姉の世間の印象に驚愕していると、何かに気が付いたかのようにアスカがさらに僕に尋ねてくる。
「ってか、ユミさんってソイニー様の弟子よね。てことは、アスカ君あなたは!?」
「あー、これは内緒にしておいて欲しいんだけど、師匠はソイニーです」
「まじか‥‥‥」
ナオミは驚きすぎて、足腰の力が抜けてしまい、マミに寄りかかる。
マミは体全体を使ってなんとかナオミを支える。
「アスカ君、あなたって一体何者なの。あなたのその現状って、魔導士がどんだけお金を積み上げても手に入らないものよ。単純に羨ましすぎるわ」
実際、僕も恵まれている環境なのだろうと思っていたが、ナオミの反応を見る限り相当すごいことなのだろう。
よし、これからはより一層隠しておこう。
実力が見合ってないからね僕は。
すごい人に習っているのに僕の魔導の実力はそれほどだから、返って恥ずかしいことになってしまうだろう。
あと、ロージェ先生に剣の稽古をしてもらっていることも絶対に黙っておこう。
「そうね、ヒビト君の話や、アスカ君の現状を鑑みると、アスカ君がリーダーでも全く問題がないように感じるわ。
むしろ、このチームになれて、私は幸せ者で運が良かったと感謝しないといけない感じね」
「いや、そんなこと言わないでよ。僕は、魔導をソイニー師匠に習ってるといっても出来損ないで迷惑ばっかかけてる身だし」
「いやいや、謙遜しないでアスカ君。マミもアスカ君がリーダーでもいいかしら?
アスカはナオミの横でじっとアスカとナオミの話を聞いていたマミの方を見て、訊く。
マミは少しおどおどしながら、首を静かに縦に振る。
「じゃあ決定だね、良かったねアスカ。これで君はこのチームのリーダーだ。これからこのチーム・ニベリウムで皆頑張ろう!」
ヒビトは満天の笑みで僕に笑いかける。
その時の僕の顔は、多分笑っていたけれども、確実にひきづってもいた。
僕にリーダーが務まるのだろうか。
この不安が頭を支配する。
僕が、これから上手くやっていけるかと不安に駆られているときに、後ろからその不安に追い打ちをかける声が聞こえてくる。
「おいアスカ、お前のチームはどんな感じなんだ?」
そこにはそう、僕のトラウマ、レイト兄がいた。
レイト兄は僕の肩に手をかけ、グイッと僕を引っ張り、レイト兄側に引き寄せた。
僕は、レイト兄になされるがままである。
そんな僕の状態を見かねてか、助けようとしてか、ヒビトが口を挟む。
「君は確か、アロンガス家のレイト君かな? そんなにアスカを引っ張ってはアスカがかわいそうじゃないか」
レイト兄はヒビトに声をかけられるとニタニタしながら返答する。
「これはこれは、ヒビト・シルベニスタ様、私のような弱小貴族のことを覚えてくださっているとは光栄ですな。ヒビト様はアスカの肩を持つようですね。アスカがどうやってヒビト様に取り入ったかは存じ上げませんが、こいつはのろまで、ロクでなしの卑しい妾の子です。あなた様のような方が一緒にいては、ヒビト様の経歴を汚しかねません。お気をつけください」
「私が誰と親しくするかは、私自身が私の目で見て決めます。あなたの忠告は必要ありません!」
ヒビトが語気を強くするところを初めて見た。
少し苛立っているようでもある。
「これは申し訳ありません。出すぎたことを言いました。お気を悪くしたならば謝罪いたします。ただ、私はヒビト様のことを思って言ったまでです。どうか注意しておいてください。
あと、魔専は実力主義です。仮に英雄の息子といえども足元をすくわれないよう、ヒビト様もお気をつけを」
レイト兄のニタニタが止まらない。
何か悪い企みでもしていそうな顔つきである。
シルベニスタ家は横浜領を治めている。
そして、アロンガス家は横浜領の一部をシルベニスタ家の代わりに治めている。
したがって、シルベニスタはアロンガスの上司に当たるのだが、レイト兄はヒビトに一切怯まない。
むしろ煽りまくっている。
「忠告ありがとう」
ヒビトはお礼を言いながらもレイト兄を睨みつける。
「それはそうと、このチームは女の子が2人もいるじゃないですか。羨ましい。僕のチームは1人もいないのですよ。
しかも治癒魔導士の君は名はなんというのかな?」
レイト兄はマミの手を握り、持ち上げながら尋ねる。
「あ、私はマミと申します」
「マミか、君は本当に美しいね、出るとこも出ていて体つきも美しい。ところで、見たところ君は貴族の紋章を持っていないみたいだけど、平民の出かな?」
「あ、はい」
「そうかそうか、平民の出か。じゃあ、これからこのレイトが色々と便宜を図ってあげることもできるからなんでも頼るといいよ」
そういうと、レイト兄はマミの手の甲にキスをする。
「ひっ」
マミは、レイト兄の予想外の行動に驚愕し、少し悲鳴をあげる。
「ちょっと、セクハラよ」
すかさず、ナオミがレイト兄の手をマミから引き離し、マミを抱き寄せ守る。
「痛いじゃないか、ナオミ・ユフゲルさん。まあ、いいです。みなさんせいぜい仲良くしましょう」
嫌味ったらしいことを散々並べてからレイト兄はチームメートの元に戻っていった。
「皆ごめんね、兄さんが失礼なことをしてしまって」
「アスカが謝ることじゃないよ」
「そうだよ、アスカ君が謝ることじゃない」
「だ、大丈夫だよ、アスカ君」
ヒビトやナオミ、マミがそれぞれ僕を擁護する。
「ほーい、皆の者、それぞれ自己紹介は終わったか?」
レイト兄によって引き起こされた気まずい雰囲気が僕らのチームを覆いかけた時、ロージェ先生が勢いよく教室に入ってきた。
「よし、終わったみたいじゃな、それじゃあ今度は演習場に行って、それぞれの魔導の特性を確認し合おうと思うのじゃが、その前に、一つ大事なことを伝えることを忘れていた」
大事なこと?
魔導士の心構えはさっき言っていたし、チームを作る意義もさっき聞いた。
他にどんなことがあるのだろう。
「世界共通規則で、コード999という規則がある。これは、魔導士科を卒業した魔導士、つまり認定魔導士対しての緊急支援要請または緊急救援要請である。先ほども言ったが魔導士は1人で戦うと弱い。そして、敵の魔導士達は、魔導士が1人でいるところを襲撃してくる。したがって、もし仮に君たちが襲われることがあったならば、仲間か学校、警察などに連絡してコード999と伝えなさい。そうすれば、助けが来るから覚えておくように。それじゃあ、演習場に移動しなさい」
こうして僕らは演習場に行きお互いの得意な魔導を確認しあった。
いつも読んでいただきありがとうございます。
楽しんでいただけていますでしょうか。そうであるならば、とても嬉しいです。
魔専編も終盤に差し掛かってきました。
アスカはこれからも頑張って成長していきますので、今後ともよろしくお願い致します。




