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語り部の恋人  作者: 猫璃
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後編

やっぱりR15ではないかなと思ったのでタグを外しました。


 この村に住み始めて二ヶ月が経った。

 子どもも順調に育っていて、最近ちょっと腹が膨らんできた。

 この村の人たちは皆優しくて、お祖父ちゃんの家に住んでいる私に果物をおすそ分けしてくれたり、外で散歩をしていればよく声をかけてくれる。特に子供が既にいるお母さんたちは産むとき、育てるときのことなどの助言をたくさんくれるのでとても助かっている。

 ここが父さんと母さんが育ったところなんだと思うと顔が綻んだ。

 そんな風に私は穏やかな生活を送っており、目立った出来事は特にない。

 あ、一つだけ。

 ターンさんとエルさんに近況報告を兼ねた手紙を書いた。

 そして……シャイルにも手紙を書いた。

 少しの間街を離れること、いつか戻るから心配しないでほしいということ。

 そう、伝えた。

 手紙はターンさんたちに預かってもらえるよう頼んでおいた。

 シャイルに心配をかけて、もし彼が仕事を疎かにして私を探そうとしたら本末転倒だ。

「ふあぁ」

 私は今、村のはずれある泉に来ている。

 あまり人が来ない静かできれいな場所だ。

 近くに生えているそれなりの大きさをした木の下に座り、背をもたれさせる。

 あまりにも心地よくて眠くなってきた。

「少しだけ……」

 ウトウトし始め目を閉じようとしたそのとき、

「……ー!」

 聞き覚えのある声が聞こえた気がした。

(誰だったかしら……?)

 眠たくて頭が回らない。

 そのまま眠ってしまおうと目を完全に閉じたが、

「リーベっ!!」

(え?)

 その叫びを聞いた瞬間、眠気は一気に吹き飛んだ。

 私の名を叫びながらこちらへかけてくる人物を見る。

「シャイル?」

「リーベっ!」

 私が呆然と呟くと、目の前に来たシャイルに抱きしめられた。

「どうして……」

「どうして!?それはこちらのセリフだ!俺がどれだけ心配したのか分かってるのか!?」

「だ、だって手紙……」

「あんな説明も何もなくてただ心配するなとだけ書いてあるもので安心できるわけないだろう!!」

「ご、ごめ」

「大体三ヶ月ぶりにリーベに会えると思って楽しみにしてて、その上に良い報告まで持ってたからリーベを喜ばせられると思って、早くリーベに会いたくてしょうがなくて!街までほとんど休憩なしで帰ってきたのに街を出たと、会えないと聞いた時の俺の気持ちが分かるか!?」

「あ……」

「しかもターンさんたちに話を聞いてみても二人とも身内が迎えに来たってことしか知らなくて、一ヶ月音沙汰ないって聞いて……」

 シャイルが私の肩に顔を埋める。

「シャイル、泣いてるの?」

「そりゃ泣くさ!どこにいるのかも無事かどうかさえも分からなくて、必死に行方を探しても何も分からなくて、不安でたまらなくて!やっと安心できて……っ」

 馬鹿だ、私。

 彼がどんな人か分かっていたのに。

 自分と彼がどれだけ愛し合っていたのか知っていたのに。

 気づけば私も泣いていた。

「ごめんなさい、シャイル」

「……いいよ、今は。無事でいてくれただけで」


「ねぇ、どうしてここが分かったの?」

 落ち着いたところで疑問に思っていたことを聞く。

「ああ、手紙から辿ったんだ」

「手紙?」

 私が首を傾げるとシャイルは得意そうに笑った。

「そ。配達の人っていろんな話を知ってるから伝手はたくさんあるんだよ」

「なるほど」

 私が頷くとシャイルはさっきの笑顔を黒い笑顔に切り替えた。

「さて、納得してもらえたところでこちらも納得のいく説明をしてもらおうか」

「う……さっきはいいよって……」

「今は、って言ったろ」

 シャイルは鋭い目つきで私を見た。

 それを見て諦めるしかないと思い、口を開く。

「シャイル、やり遂げたいことがあるっていってたじゃない?」

「ああ」

「それを妨げるようなことになったの。でも私はシャイルにやりたいことは全部やって欲しかったの。あのときやっておけばよかったと後で後悔してほしくないの。だから……シャイルから離れたの」

「ごまかすなよ」

「……」

「妨げるようなことってなんだよ」

 そこを指摘されるのは分かっていた。

 こういう時シャイルはごまかされてくれない。

 でもまだいう勇気がない。

 自分のせいで彼に後悔してほしくない。

 私は無意識のうちに唇を噛む。

 そんな私を見てシャイルはため息をついた。

 そして私の唇を指でなぞって歯を離させる。

「血が出るからやめて。……頑固者」

 シャイルは苦笑する。

「分かった。先に俺から話そう。実は俺のやり遂げたかったことはね、この前片付いたんだ」

「え?」

「さっき良い報告があるっていっただろ?俺がやり遂げたかったことはね、死んだ親友との約束を果たすことだったんだ」

「親友?」

「そう。俺が語り部になったばかりの頃に出会った」

 初めて聞く話だった。

「同職の先輩で一時期一緒に旅をしてたんだ」

 しかし、彼は途中で不治の病を患った。

 もう先が長くない。

 そう知った彼はシャイルに自分の身の上を話した。

 彼は隣国の有力貴族の次男だったが語り部となるため家族の反対を押し切り家を出てきたのだという。

 家族が嫌いだったわけではない。夢を追い続けたかったのだ。

 しかし彼にはもうできない。

 その時彼の頭に浮かんだのは家を出て以来、何の連絡も取っていない家族のことだったのだ。

 そこで彼はシャイルに頼みをした。

「『俺が人生をかけてやったことを家族に伝えてほしい。語り部として』。もちろん、約束する。そう俺が言うと安心したかのように彼は息を引き取った。俺はすぐにでも伝えようとした。でも……」

 彼の実家は有力貴族。

 そうそう会える身分じゃない。

「息子さんの遺言を伝えに来た、とでも言えば会ってくれたかもしれない。でも彼は『語り部として』と言ったんだ。だから貴族が家に呼ぼうと思うくらい有名になろうと思ったんだ」

 行方の知れない息子の知人ではなく、語り部として彼らに会うために。

「そう決めたときもしかしたら彼は俺にそうすることを求めていたのかもしれないと思った。自分の夢を俺に託そうと」

 貴族に呼ばれるくらい有名になる。

 彼は常々そう言っていた。

 その貴族とは自分の家族のことだったのだろう。

「それから俺はがむしゃらに頑張った」

 親友のことを意識しすぎて自国より隣国の方で有名になったが。

 そしてついにその頑張りが実を結んだ。

「四ヶ月前、彼の実家に呼ばれたんだ。俺は彼に聞いた家を出てからの生活、出会った人々のこと。そんな話を届けた。彼が集めた世界各地の話が書いてあるメモと一緒にね」

「ご家族は」

「彼が死んだことにすごいショックを受けていたよ。でも最後は俺にここまで届けてくれてありがとう、と言っていた。彼らが受けた心の傷がどれほどか俺には分からないけれど前を向いていける人たちだと思ったよ」

「そう……良かった」

 私はシャイルの親友にもそのご家族にも会ったことはにけれどシャイルの大切な人は私なとっても大切だ。

 その彼の願いがかなって安心した。

 そしてシャイルがが言ったのならば私も言わなければ、そう思った。

「さて、俺は話したよ。次はリーベの番だ」

 彼は今度こそは絶対に逃がさないとでもいうように私を見た。

 本当のことを言えば彼は怒るだろう。

 私は怒鳴られるのを覚悟して口を開いた。

「実はね、シャイル」

「うん」

「えっと……」

「ん?」

「…………」

「……リーベ」

 やはり言い辛い。

 怒鳴られるのが怖いとかではなくてなんと伝えればいいのか分からない。

 私は言葉で伝えるのを諦めた。

「シャイル、ちょっと私を後ろから抱きしめてくれない?」

「ん?こうか?」

 私がそう言うとシャイルは私の後ろに回って肩を抱き込むようにして私を包み込む。

「そうじゃなくて手はおなかあたりで。力は込めないでね」

「こう?」

「うん、そう」

「……それで?」

「何か気づいたことは?」

 シャイルは考え込む。

 正直、自分でも普通にはっきり言えばいいと思う。

 でも言い辛いものは言い辛いのだ。別に悪い報告ではないが。

 少しの間そうしているとシャイルは何かに気づいたように私の腹を撫で始めた。

「……リーベ」

「……はい」

「もしかして…………太った?」

「んなわけないでしょ!」

 失礼すぎる。

 他に思いつくことはないのか。

 やはり自分で言うしかないか。

 そう思ったがシャイルがまた口を開いた。

「リーベ」

「太ってないわよ」

「そうじゃなくて……膨らんでるよね?」

「ええ」

「……う、そ?」

「この場面で嘘つくわけないでしょ」

 シャイルの声は驚きでかすれていた。

 何度も私の腹を撫でた後、震える声で聞いてきた。

「こ……ども?」

「うん」

「リーベの……俺の?」

 シャイルは呆然とした様子で呟く。

 しかしすぐはっとなって私から手を離して正面に回り込み私の肩を強く掴んだ。

「いつ分かったんだ!?」

「二ヶ月前」

「二ヶ月!?え、じゃあできたのは最後に会ったときだから…今四ヶ月?」

「そう」

「そ、そっか……子ども……」

 シャイルは嬉しそうに顔をほころばせる。

 しかしすぐ何かに気づいたように厳しい顔つきで私を見る。

「子どもがおなかにいる状態でこんなところまできたのか!?」

「お祖父ちゃんと一緒だったもの」

「それでも無茶にもほどがあるだろう!?」

「だって子供ができたことを知ったらシャイルは私のところに留まろうとするでしょう?」

「当たり前だ。そんな状態のリーベをほっとけるわけない。そんなことしたら俺の方が狂う」

「だからよ。そうしたらシャイルがやり遂げたいことをするのに邪魔になるでしょう?私はシャイルの足枷になるんじゃなくて支えになりたいの」

 私はシャイルの目を真っ直ぐ見てそう言った。

 シャイルは私を見ながら何を言えばいいのか考えているようだ。

「……リーベ」

「何?」

「確かにそれを知っていたら旅には出なくなっただろう。でもずっとそうじゃない。リーベが子供を産んで、その子がある程度成長したらもう一度旅に出ていたよ。だから」

「でも妨げにはなっていたでしょう?シャイルが知名度を上げていたのならなおさら。何年も活動しなければ知名度はそれなりに下がるわ。シャイルが今まで積み重ねてきたものなのに……」

「それでも俺は本当のことを知らせてほしかった」

 シャイルは強い口調で言った。

「子どもができるのはとても嬉しいことだけど同時に大変なことでもあるんだ。生まれてくる前も、生まれる時も、そのあとも。産むとき母親が死んでしまうことだってあるんだ。リーベはさっき俺に後悔してほしくないと言った。リーベが大変な時に何も出来ず君にもしものことがあったら俺が一生後悔するとは思わなかったのか?」

 私は口をつぐむ。

 それを考えたこともあったけれど私は他を優先したのだ。

「リーベ頼む。もうこんなことはやめてくれ。何かあったらちゃんと俺に言ってくれ。正直今も後悔しているよ。つわりの時期はもう終わるくらいだと思うけどきつかったんじゃないか?」

「私は軽い方だったから大丈夫よ」

「それでも君がつらいときに一緒にいられなかった。お願いだリーベ。これからはちゃんと言って。この一ヶ月は本当に気が狂いそうだった。リーベが大切なんだ。頼むよてん…」

 シャイルが泣きそうになりながら懇願の眼差しで私を見る。

 彼がこんなに必死なのに私は嬉しくなってしまう。

 こんなにも大切に想われている。

 私もこの想いに応えなければ。

「……分かったわ。これからはちゃんと言う。……本当にごめんなさい。こんなこと、もうしないわ」

「……ああ、約束な」

「ええ、約束よ」

 私とシャイルは子指を絡ませた。

 シャイルがほっと安心したように息をついた。

 そして私たちは笑いあう。

「そういえばまだ言ってなかったな」

「ん?」

「ただいま、リーベ。君の所へ帰ってきたよ」

「ええ、おかえりなさい」

「さて君のお祖父様に会わなくちゃな。お孫さんをくださいって。ちなみに街にいる君の父と母には許可をもらったよ。娘をよろしく頼みます、だって」

「ターンさんとエルさんが?……嬉しい」

「二人にもちゃんとどこにいるのかとか詳しく報告しなよ。心配してたから」

「ええ」

「子どもはこの村で産むんだよね?」

「そのつもり。さすがに山を下りるのはつらいし」

「つらくなくてもさせないけどね。この村の長に住む許可もらわないとな」

「お祖父ちゃんが村長よ。私はお祖父ちゃんの家に住んでるの」

「そうなのか?お祖父様に頼むことが増えたな……緊張する」

「大丈夫よ。優しい人だから」

「……大事な孫娘を攫ってく男にも優しいかは別だよなあ」



 様々な場所を訪れその地で起こったことをほかの地または次代へと伝える者、語り部。

 彼らが訪ねる度、せがまれる話がある。

 

  『語り部の恋人』


 それは人々に幸せや希望、様々な光を届けるといわれる語り部シャイルと、彼の帰る場所であり続け彼を支えたとある宿屋の看板娘リーベの恋物語である。






 

 


 


読んでいただきありがとうございました。

これにて終幕です。

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