↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/7

第1話 テンプレ、即脱走

 月曜の社畜ルーチンを終え、「あー、ビール飲みてぇ」と呟きながら帰宅した瞬間。俺の日本での生活は、強制終了した。

 眩しすぎる光に全身を包まれ、気づいた時には、見知らぬ土地に立っていた。


 召喚されたのは野郎が四人。目的は魔王討伐。

 全員の目が「あ、これテンプレのやつだわ」と物語っていた。


 そして三日後、俺はバックレた。

 だって面倒くさいし。せっかくの異世界、のんびり観光しなきゃ損じゃん?


 で、今、なぜか魔王城のある街にいる。


 ……なんで?


 山を越えれば逃げ切れると思っていた。道中の街では、神殿から「お借り」した金貨と宝石を使って、服から何からフルチェンジ。追跡魔法対策も、バッチリのつもりだった。

 この世界には、ゲームみたいなステータス画面が出る。便利すぎる。

 ただ、途中でオオカミにガブりとやられた時は、本気で痛かった。


「あ、これフルダイブじゃなくて実写版だわ」


 涙目でそう呟きながらオオカミをこんがり焼き払ったのは、今となっては良い思い出だ。


 そうして辿り着いた街が、まさかの魔王都ラルだった。


 街中が「魔王様サイコー!」「魔王様マジ魔王」という声で溢れている。確信した。ここは敵の本拠地だ。


 おどろおどろしい地獄絵図を想像していたのだが、街は至って普通だった。

 住民には角や尻尾こそあるものの、みんな愛想が良い。治安もホワイト企業並みに良好だ。

 戦う気はないが、せっかくだし魔王の顔でも拝みに行こう。ここまで来たら、聖地巡礼みたいなものだ。


「アポなしの訪問はお断りしております!」


「ですよねー」


 門前払いを食らった。


 だが、夜になると、好奇心という名の「やらかし精神」が顔を出した。


 姿隠しと音消しを使い、ノリと勢いで潜入開始だ。

 魔法は「強いイメージ」でいけると、お勉強済みである。ぶっつけ本番のイメージは失敗することも検証済みだが、今の俺は冴えている……気がする。


「貴様!何者だ!ここをどこだと思っている!」


 最上階の手前で、一人の美少女に見つかった。

 ここまで見つからなかったのは、単に運を使い果たしただけだったらしい。

 内心ビビり散らかしていたが、それは隠して、最高にカッコつけた声で返す。


「……知っている。魔王はいるか?」


「この魔王に何か用か?」


「魔王? 君が?」


「そうだが?」


 見た目は、完全に女子高生だった。でも、頭に角がある。なるほど。

 うん、魔王だ。これは絶対に強いやつだ、と確信した。


「これは失礼。私はフェングランと申します」


 名前は今1秒で作った偽名だ。


「魔王様がどんなファンキーな方か拝見しに参りました」


 精一杯の敬語、のつもりで言ってみる。


「ご丁寧にどうも。あたしは魔王、エレン・ラルよ」


 魔王は意外と礼儀正しかった。


「はっ!」


 そこで魔王は顔を真っ赤にして、「コホン!」とわざとらしい咳払いをし、キャラを作り直した。


「で、では何が知りたいのかしら? 誰にも気づかれずここまで来た褒美に、質問に答えてあげてもよくてよ!」


「実は俺、あなたを倒すために呼ばれた勇者なんです」


「なっ!?」


 そりゃ驚くだろう。だが、ここで追い打ちをかける。


「ちなみに、ブラックな労働環境からバックレた『元・勇者』ですけどね。争う気はゼロです」


「元勇者……? 興味本位だけで来たの? え、えええ?」


 魔王は完全にパニックになっていた。さっきまでの威厳は、どこへ行ったのだろう。


「あんた、勇者の責任とかないわけ!?」


「勝手に拉致されて『はい、殺してきて』って言われても困りますよ。窮屈だし」


「それで逃げたの……?」


「ええ。ところで魔王様、お仕事楽しいですか?」


「……え?」


「いや、魔王って激務っぽいですし、有給とか取れてるのかなって」


 魔王が黙り込んだ。ブラック企業の社長に「やりがいありますか?」と聞いてしまった時のような空気が、その場に流れた。


「楽しんでは……ないけど、まあ、暇はしてないわよ?」


「なら良かったです!」


 俺が満面の笑みを浮かべると、魔王は少しソワソワし始めた。


「……これからどうするの? 追われるかもしれないわよ?」


「あちこち旅でもしようかと。世界、広そうですし」


「旅!? なにそれ、面白そうじゃない!」


 魔王の目が、キラッキラに輝いている。この魔王、完全に外に出たいインドア限界女子だ。


「その旅、あたしも混ぜてくれない!?」


「「ダメです!!!」」


 背後から、バリトンボイスが響いた。

 振り返ると、角の生えた渋いおっさんが立っていた。


「魔王様、絶対にダメです。断固拒否です。無理です」


 魔王は駄々をこねる子供のように言い返し、そこから「外に出たい魔王」と「仕事しろと言い張る側近」の、泥沼プロレスが始まった。


「お騒がせしましたー、俺帰りますね!」


「待てー! あたしを連れていけー!」


「魔王様、ヘッドロックはやめてください! 君! 早く逃げなさい、ここは私が食い止める!」


 側近のオジサマに羽交い絞めにされる魔王を尻目に、俺は全力で脱出した。

 ここは魔王城。いろんな意味で、危険すぎる。


「とりあえず、宿……寝よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。