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それからの日々の話をしよう(R15版)  作者: 鈴乃


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4/12

「……休ませてください」


 俺はオリバーが帰ったあとにシェフと話した。

 シェフはじっと俺を見た。


「鍋は振れるのか」


 俺は答えられなかった。

 シェフは口ごもるように指であごを()んだ。


「鍋が振れるなら居ていいんだ。仕込みはわしがやったっていい」

「…………すみません」


 シェフは肩をすくめて壁のシフト表をとった。


「とりあえず二週間休め」

「すみません、本当に」

「もともと一人でやってた店だ。そろそろオリバーにもオードブルを教えようと思ってた」


 シェフはシフト表を壁に戻した。横目でちらっと包丁ラックを見た。


「……この間のあれ、圧力鍋と替えるか?」

「はは。シチューにはいい季節ですね」


 俺はあいまいに笑った。

 シェフは眉を下げて俺の肩を軽くたたいた。



 こうして俺は再び仕事から離れた。


 地味に怖かったのは、気落(きお)ちして家から出られなくなる可能性だ。

 ステイホーム。できれば二度と聞きたくない言葉だ。


 だが仕事は休みでも、カウンセリングの日は定期的にある。事件について弁護士と話もする。もろもろの手続きもある。

 おかげで俺は家に閉じ込められずに済んだ。

 とはいえ、自分がこうなってる原因に触れる時間はそれなりに疲れた。


 さて料理でもして気分を変えよう、と思っても「何を作るか」の前に「包丁を使わずに作れるメニューか」を考える必要がある。毎日の外食が許されるのはセレブだけだ。


 だからこそ、恋人と通話する時間は貴重な癒しだった。


『――――ごめん! 土曜に夜勤が入ったんだ』


 俺は掃除の手を止めた。


「そんな日もあるさ。忙しいのか?」

『人が足りなくて……日曜の夜に行ってもいい?』

「ちょっと待っててくれ」


 俺はアプリを切り替えてカレンダーを見た。


 月曜は午後からカウンセリングだが、日曜日は……空けたままだな。


「嬉しいが無理はするなよ。月曜はきみも仕事だろう?」


 マシューはふふっと笑った。


『実は先月から別の施設に()()されてるんだ。ウッドヒルズのあたり』

「ああ」


 近くの駅名くらいは知っている。

 かなり郊外(こうがい)だが、位置で言えばお互いの家の中間地点だ。

 仕事終わりに直接俺の家に向かえば、マシューにとっては自宅に帰るのと大差(たいさ)ない距離感だろう。


「そうか、じゃあ」


 ここから出勤もできるな。

 と言おうとしてやめた。それは踏み込みすぎだ。


『きみの家から仕事に行けるんだよ。やろうと思えば、だけどね』


 マシューはいたずらの相談をするようにささやいた。

 俺は思わず片手で口元を(おお)った。

 ああ、かわいいな。この天使が今となりにいたら、少しは気分も晴れるだろうに。


『週末楽しみにしてる』

「……ああ。気をつけて来いよ」

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