↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それからの日々の話をしよう(R15版)  作者: 鈴乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/12

二人のなれそめは

「俺が童貞を切った日の話をしよう」https://ncode.syosetu.com/n6523jq/

からどうぞ。

 やっちまった。

 俺はまた思った。


 週末、夜の平和なリビングだ。俺はソファに恋人を押し倒していた。義務教育が終わってないやつはここで帰れ。

 キスに忙しかったから、シャツのボタンは手探りで外した。はだけた襟元に目が行きかけたところで彼からキスされて、俺はそっちに集中した。


 触れるだけのキスも、やわい口の中に舌で触れ合うことも、もう何度もしている。

 俺は彼の舌に応えながら、シャツの合わせから手を入れて彼の胴を撫でおろした。


 手のひらが覚えのない丸みにぶつかった。

 俺は視線を下げた。


 小柄なブルネットの青年が俺を見上げている。

 名前はマシュー。少し前に付き合い始めた恋人だ。


「ライアン……?」


 マシューが俺の名前を呼んだ。

 あらわになった細身のボディーラインから飛び出すように、胃袋のあたりがぽこんとふくらんでいた。


 俺は思った。

 しまった、食わせすぎた。



【それからの日々の話をしよう】



 俺の家に強盗が入った事件からしばらく経った。

 腕や手の浅い傷は大体治った。

 法的な後片付けにはしばらくかかるが、ひとまずはカウンセリングを受けながら日常に戻る段階だ。


 恋人のマシューとも順調だ。

 一緒に食事して気づいたが、彼は細身なわりにけっこう食べる。

 食べ方も上品だ。普通に会話しながら食事してるのに、気づけば皿がきれいになっている。

「おいしいね」とか「もうかぼちゃの季節だな」とか、そういう会話が生まれる食卓は楽しい。それが自分の作った料理ならなおさらだ。


 俺は、彼が幸せそうに食べる姿を眺めるのがたまらなく幸せだった。おかわりを求められればつい入れてしまった。

 それゆえの悲劇だ。


「ライアン……?」


 マシューが何度かまばたきするたび、アンバーの瞳に淡い明かりが映りこむ。

 俺は我に返るのにちょっとだけ時間がかかった。


 昔の話だ。

 俺は今と同じく、当時の恋人と食事をする事が多かった。ただし家に招く関係じゃなかったから、デートはもっぱら外だった。

 ある日夜景の見えるホテルでフルコースを楽しんだ。当然その日は泊まりだ。


 何も考えずに下から突いたら殴られた。


 ほどなくして逆の立場を体験した俺は、己の無知を恥じた。

 人間の内臓は一本の管だ。下から突いたら上から出る。


「ライアン、大丈夫?」


 マシューが片ひじをついて体を起こした。

 はだけたシャツの合わせから素肌が見えた。

 ギリシャの美少年像を見たことがあるか? なければ今すぐ検索しろ。俺も作品名は言えないがそんな感じだ。

 男の骨格と筋肉に薄い脂肪が乗った、三食きちんと食って働いている成人の体だ。


「…………」


 俺は吸い寄せられるようにマシューの腹を撫でた。

 丸いな。『丸くてかわいい』ってのは目をほめる言葉だが、腹にも使えるとは知らなかった。

 自然と笑いがこみ上げてくる。


「いやあ、よく食ったな……!」

「笑わないでよ!」


 マシューが笑いながら俺の肩を押した。俺の服に手を突っ込んで、仕返(しかえ)しのように腹を撫でる。


「意外と固いね」

「立ち仕事だからな。鍛えてるんだ」

「なんの仕事?」

「小さいレストランでコックやってる」

「……バーテンダーじゃなくて?」

「なんだって?」


 二人分の笑い声がリビングに響いた。

 俺はマシューの柔らかい髪を両手で包むように撫でた。マシューがあごを上げて俺の手のひらにキスした。


 色っぽい雰囲気は早々に切り替わった。

 時計の針が真上を指すまで、俺とマシューは時間を忘れてじゃれあっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。