ep.51 穴から出る覚悟
* * *
【サッチービレッジ 三星】
ああ、穴があったら今すぐ入って埋めて欲しい。
恥ずかしくて、皆の顔が見れない。
なんだよ、心配ないって!
サッチーは何も言ってなかったじゃないか!
「サッチー。何故黙っていた?」
《何故? 言うべきことだったか?》
「当たり前だ! 俺はもう死ぬんだって思ってたんだ!」
《別に死なないと決まったわけじゃない》
「そりゃあそうなんだが!」
それにしたって、なんだよ!
治せるって!
《前に聞いたはずだ》
「何を!」
《永遠に生きるつもりがあるかどうかを》
「ああ聞かれた! そして永遠はいらないと答えた!」
《少し落ち着け。恥ずかしいのはわかる》
「くそ! わかった。落ち着く努力はする。だが、いらないと答えたよな?」
《ああ、聞いている。いらないと答えたのも記録している》
「なら、なんで」
《私は三星が死ぬまで観測すると言った》
「ああ、言ったな」
《観測対象が、やすやすと死んでは困る》
「なっ! それにしたって、俺の承諾がいるだろうが」
《いるのか? 妻は喜んでいたぞ》
「ああくそが! それを言われたら何も言えねえよ」
《私だって三星にすぐ死んでもらっては困る》
「どうして? 下等生物だろ? 人間なんて」
《そうだ。だが、三星は私の名づけ親だ》
「確かにそうではあるが、親が先に逝くのは仕方あるまい」
《私には治せる技術がある。ならやってもいいじゃないか。やらない理由がない》
「あーもう! わかったよ」
「ありがとう。もう少しお前ともお母ちゃんとも猫たちとも一緒にいられる」
《気にするな。パパ》
「パパでもバーバーでもなんでもいいよ」
《ダーリン、生きるっちゃ》
もう好きにしてくれ。
「あ……」
《どうした? 三星》
「誰だったか忘れたが、あいつらを生きてる間は見守るって言っちまった……」
《言ってたな。良かったな。約束が果たせて》
「そうじゃあない。何が悲しくて、男どもを見守り続けなきゃならんのだ。女の子ならともかく」
《女なら良いのか?》
「当たり前だ! だが、まあいいか。約束は守らんとな。はあ」
《で、これからどうするんだ? 戦争か?》
「あながち間違ってはいないんだよな。それ」
《よし、今すぐ攻撃用のパーツを作るぞ。少しだけ待て》
「おいおい、物騒なのはダメだ。あくまでも追い返す、もしくは力の差を見せつければいいんだ」
《同じことだ。それにこれまでここに来た人間を見てきたが、三星とは違い、先を見通すのは難しい連中ばかりだと思うが》
「お前に俺がどう見えているかわからんが、俺が出来るのは、情報を元に考えることだけだぞ?」
《だが、かなりの確率で当たっているのではないか》
「それは結果論だ。俺のところに持ち込まれるのは厄介ごとが多い。なら可能性が高い順に面倒なものをピックアップすればいいだけだ」
《ふむ。それだけとは思えないが》
「まあいいよ、それは。そして、次に起こることも大体予想できてる」
《ということは解決だな。良かった良かった》
そんな簡単にいけばいいんだが。
どうすっかなあ。
* * *
【サッチービレッジ 研究班】
リーダーに呼ばれた。
今後の方針についての相談らしい。
「というわけで、体験キャンプ生活の方々をのぞいて、ちょっととっつきにくいかも知れんがオタクもここにいることになったんだよ」
「使えるんですか?」
「人を使えるかどうかだけで判断してはだめだよ? 君は子ども達にも同じ判断基準を設けるのかい?」
「いえ、そういうわけでは。ですが、彼らはすでに成人しているでしょう」
「うんうん。まあ、ちょっとだけスタートが遅くなったと思って長い目で見てやってくれ」
「それに私たちの食べる分や生活していくだけでも厳しいですからね」
「そうだよな。でも今すぐ役に立たないからと言って見捨てるのはやめよう」
「納得しがたいところはあります」
「半年だ。まずはその期間だけでも様子を見てやってくれ。その分、俺も頑張るよ」
「おい、三星どうした? お前が働くなんてなんか悪いものでも食ったか?」
「3号、俺だってたまには働くぞ。それにあいつらだけじゃない。皆も俺の家族だ。家族のために働くのは当たり前だろう」
「おい、本当にお前三星か? 何か未知の生命体に頭やられたか?」
「失礼な奴だな。俺は俺だ。気にすんな。というかこの後もっと面倒な話をするから、話の腰を折るんじゃない」
「お、そうか。それは悪かったな」
「さて、大まかな流れは皆理解してると思うんだ。わからない人いる?」
「途中参加の方もいますし、今回来られた方や、海外の方などもいらっしゃるので一度説明し直してはどうでしょうか」
リーダーは自分が理解していることは他人も同じだと考える傾向がある。
できるだけかみ砕いてはくれているが、ついてこれない連中も多い。
なら、彼がひとりで背負わずに済むように、皆で分担すべきだと思う。
まあ、私は研究しかできないが、それだって家族の一人だからな。
恥ずかしい気もするが。
「そっかあ。いつもごめんね。一人で頭の中で出来上がっちゃってるからね」
「まあ、ある程度皆で手分けしていきましょう。リーダー一人ではいつかパンクします」
「パンクしないように働かないんだけどねえ。まあ、気遣いはありがたく受け取っておこう」
素直ではあるんだ。
この人は。
* * *
【サッチービレッジ 三星のことば】
まずは食う。寝る。つまり生きていくってことだな。
んで、今ある未知の領域で多くの人を食わせていけるようにする。
これが最初だね。
次は生存圏の拡大。
千葉は広いようで狭い。
やりようによってはうまく回せるんだが、そうもいかんだろう。
それにあそこから離れたくない人も多いが、一方で俺みたいにコロニーに馴染めない人もいるだろう。
むしろ、そっちの方が俺は正しい気もするんだよな。
コロニーはあくまでも日本のルールだ。
だが、ここは千葉ではあるかもしれないが日本じゃない。
未知の惑星だ。
あそこを以前のようにするぐらいなら、全く新しく作る方が早い。
手間も少ない。
文句を言うやつもいない。
「ここは俺の土地だ!」なんて言うやつもね。
だが、俺たちが先に拓いたからといって俺たちのものでもない。
ここは未知の惑星の生物たちのものだ。
あくまでも少しおこぼれをもらう。
謙虚に生きるんだ。
それさえ忘れなきゃ、いつかきっとこの星は俺たちを受け入れてくれる。
大変だろうけどな。
でだ、ここやこれから広がっていく水辺での米や麦、トウモロコシの栽培と散々言ってきたが、それだって形になるのは来年以降だろう。
だから、俺たちはここにある生物や植物っぽいものを食う。
それは見渡す限りにあるからな。
北側方面にも、西側にももっと違うものがあるだろう。
北側は自衛隊が見つけるだろう。
俺たちは西を目指す。んで南にも足を広げよう。
ここの生態系を壊さないように。
ここの自然が俺たちに牙をむかないように。
人間が身勝手で好き放題する前に、俺たちが道筋をつけよう。
やることはたくさんだぞ。
まだまだ人が足りない。
だから、皆はこれから来る人に、伝えていって欲しいんだ。
無理する必要はない。
そして、人に合わせる必要もない。
だが、自分勝手や自己主張しかしないなら帰れと言って構わない。
いいよな? 1号、3号?
いいよな? みんな?
* * *
【サッチービレッジ うさぎおじさん】
「そんなうまいこといくか?」
「水差すねえ。うさぎおじさん」
「人間は欲まみれだぞ?」
「あんたはウサギの毛まみれだけどな」
良いんだ。これはこれで。
抜け毛でいつかぬいぐるみを作るから。
「お前も言ってたろう? あっちにいる人間の数の方がはるかに多い」
「そうだねえ。数で攻められたら勝てないねえ」
「あっという間に好き勝手されるだろう」
「で、その時自衛隊はどっちを守るの?」
返答に困るな。
本来の目的であれば、一人でも多くを救いたい。
だが、どうなんだ?
私自身、その目的から離れたところに来てしまっている気がする。
「まあ、先に手を出した方が悪いとしか言えんなあ」
「それでいいの? 自衛隊は? 俺なら、先に手を出させる策をいくらでも考えつくよ?」
「お前が本当にそれをする奴なら、いや実際にやりかねんが、人数比や残虐性を考えればな」
「まあ自衛隊をあてにはしていないんだ。それに親分関係も使わない」
「それじゃあ、悪意にも暴力にも抵抗できまい?」
「ふふふ、俺は人の嫌がることを考えるのが大好きでね」
「そうか。だが、実際手を出せるのか?」
* * *
【サッチービレッジ 子を持つ教育者】
「よいでしょうか」
「はいはい、センセイ。どうぞ」
「お二人で話を進めていますが、子ども達や女性に危険はないのですか?」
「ハブちん、答えて差し上げなさい」
「なぜこっちに振るんだ? 構わんが。確か教育班の先生だったかな。違ったら申し訳ない」
「いえ、大丈夫です。合ってますし、いろんな人が増えてきてますから仕方ないですよ」
「助かる。で、危険については、『ある』んだろうと思う」
「リーダーも同じ意見ですか?」
「うさぎおじさんは信用されてないねえ。だけど俺も『ある』だね」
「それではここは危険地帯なのですか?」
「はぐらかすつもりじゃないからね。それはあっちに居てもこっちに居ても同じじゃないかな?」
「それはそうですが」
「そもそも、ここに来る時点でフィルターかけてあるからね」
「え? 自衛隊や地域の許可証ってそういう意味だったんですか?」
「基本は知識やコロニーでの馴染み具合、あとは積極性があるかどうかだけどさ、あんまり危険な人はリスク高いじゃん?」
「そうですね。そう聞くとなんか選ばれた気がします」
「いや、君らが選んだんだよ。ここに来るってね。それにさ、その人物が危険かどうかなんて、過去のデータや公安さんの資料もなければ、ほとんど人の感覚だけだからね」
「何よりここは未知の領域だ。どんな生物や環境があるかわからない。あっちで配給される食料を黙ってもらってる方が安全ではあるよね」
「そうですね。でも子どものことを考えると……」
「だから、あなたはここへ来ることを選んだ。そして俺の家族になった」
「あなたの家族という意味がとても腑に落ちます。居てもいい、でも互いに干渉しあわない。助け合うこともある。だけど、親は子どもの独立を邪魔しない。そういう家族ですよね」
「うんうん、おっしゃる通りでござる。子どもは小さくても独立心を持ってるんだ。大人がそれを邪魔しちゃいけない。センセイならわかるよね?」
「はい。とってもわかります」
「良かった。皆も思うところがあったらじゃんじゃん発言してね」
「でも、ここからちょーっとばかし物騒な話をする」
* * *
【サッチービレッジ 三星のことば】
もう少ししたら米ができる。
そこまで持てばいいが、おそらくそんな悠長なことを言ってる暇はない。
まず、食料が少なすぎる。配給だね。
最低限以下の筈だ。
そこにコロニー周りで工夫したって、取りつくせば食えなくなる。
そうなると、どこに目がいくと思う?
そう、未知の領域から来た食料だ。
まあ、そうなる前に農家の農産物が狙われるけどね。
まだ出来上がる前に盗まれまくる。
そして、予定の収穫量を確保できない。
米が出来ても、米だけじゃあ生きていけないからね。
まあ、嫌な話をすると、コロニーの中でも格差が生まれる。
多くもらえる人、減らされる人。
減らされるならまだいいかも知れない。
貰えないこともあるだろう。
頭数だけ地域に申告して、渡さないとかね。
あとは保護が必要な人も犠牲になる。
自分達で面倒を見るから、その分の配給を寄越せと言うだろうね。
まあ、あとはわかるね?
自分で提案したコロニー制度だけど、そんなに長く機能しないと思ってた。
勿論、きちんと機能すれば成立するんだが、そんなのは理想論だ。
実際、未だに略奪が収まらない地域もある。
日本人はある程度までは秩序をもって行動できるんだが、限界を超えるとだめだ。
他人の不幸と自分の不幸で、他人が上回っている間はおとなしい。
だが、少しでも自分だけが損をすると感じると……
世界で最も残酷な民族になる。
それだけじゃない。
まだ何も聞いてないけど、めちゃくちゃ面倒な集団がいる。
東アジアのマフィアだ。
それこそ太平洋戦争の前からここに居る人たちだが、その人たちは日本人であることを拒んでいる。
同胞のために、自分のために行動する。
これは別に彼らを差別しているわけじゃない。
日本人だって、世界中に広がっているが、日本人同士でまとまるからね。
ダメとは言わない。
だが、ここでは悪手だ。
そしてそれに対抗する手段は俺にはない。
暴力は使わない。
だが、彼らは暴力を使う。
インドの偉い人みたいに黙って殴られるのが俺だけならいいさ。ガマンする。
だが、子どもや女性に手を出されたら、俺は自分を抑えきれない。
そして、先に手を出されるまで待っているつもりもない。
だが、君らは何も知る必要はない。
家族を守るのは俺の仕事だ。
安心しろとは言えないけど、そこまで不安になる必要はない。
俺には秘密兵器もあるからね。
大丈夫。皆は俺が守る。




