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第十四話 消えた声

2026.2.20 エピソードを追記してます。

 昼下がり。


 森は穏やかだった。


 子どもたちの笑い声が、木々の間を跳ねる。

 弓の練習をする青年。

 水を汲む女性。

 穏やかな、いつも通りの里。


 凪は木陰で素振りをしていた。


 重力を軽く調整しながら、木刀を振る。

 軽い。

 前より断然。

 いやこれは、前より魔法が扱いやすい、が正しいか?


 いい感じ。


 もう少し負荷上げちゃおっかなー。



 ――その時だった。


 遠くで、誰かの声がした。


 高い声。

 子どもだ。


 ......悲鳴?



「……リム?」



 振り向いたエルフの女性が、名前を呼ぶ。


 返事がない。



 ざわり、と空気が揺れた。



「さっきまで、ここに……」


「森の方へ行ったのか?」


「まさか、聖域へ……?」



 ざわめきが広がる。


 不穏な雰囲気に、俺は素振りを止めて聞き耳を立てる。


 子どもがいなくなった?



(よく森で木に登ったりしてるし、どこかしらにいるんじゃないか?)



 だが。


 次の言葉で、空気が変わった。



「……一人じゃない」



 リヴァルだった。

 子どもたちを探しに行っていたようだ。



「三人、見当たらない」



 場の空気が凍る。

 エルフたちの困惑と焦燥が伝わってきた。

 


「三人……?」



 里に漂う焦燥の空気が強くなる。


 同時に三人......偶然、ではないよな。


 胸の奥が、ざわりとする。



(……なんか嫌な感じだ)



 森は世界樹に守られている。

 魔物は近づきにくい。


 だが、


 

「森に、見知らぬ足跡の痕跡を見つけた」



 “人間“は、別だ。


 リヴァルの視線が森へ向く。



「......拐われた可能性がある」


 

 その一言で、里の空気が変わった。


 誘拐?

 一体何の目的で?

 子どもたちは、無事なのか?



(......)

 


 リヴァルが振り返る。



「里長に報告を」

 


 冷静だ。

 だが、その目は鋭い。


 

(......どうする?俺)



 部外者。

 客人。

 里の問題。


 いや、



(関係ないな、俺は助けたい。それだけの話だろ)



 森の奥で、風が鳴る。


 静かな里に、確実に亀裂が入った。


 俺は木刀を握り直した。





 森へ向かう足は、迷わなかった。


 誰かに声をかける気もない。

 止められる気がするし。


 右手が自然とズラした仮面に触れる。


 

(着けてくか)



 視界は少し狭まるが、問題ない。

 拐った奴らがまだいるなら、この顔だと舐められる。


 一歩、森へ踏み込もうとした瞬間。


 

「……どちらへ?」



 背後から、静かな声。

 振り向くと、そこにはリバルが立っていた。


 

「んー......散歩?」


「森は、現在“散歩向き”ではありません」


 

 即答。

 そりゃそう。


 

「拐われた可能性があるっつってたよな」


「......はい」



 リバルの目が、わずかに揺れる。


 

「なら時間勝負だろ。ちょっと探してくるわ」



 言って、森へ足を踏み出す。


 

「......私も行きます」



 ちらりと横を見る。



「足手まといになるなよ」

 

「それはこちらの台詞です」


 

 いいねぇ。なんか相棒って感じするわ。

 こういうのも悪くない。


 森の空気が、少し変わる。

 里の匂いが薄れ、湿った土の匂いが強くなる。



「足跡は?」


「この先。薄いですが、追えます」


「任せる」



 俺は前を見たまま言う。



「戦闘になったら子どもを優先するぞ」


「はい」

 


 *



 湿った土の匂いが濃い。

 里の気配が背後へ遠ざかる。


 しばらく進んだ先で、リバルが足を止めた。



「……ここです」



 地面には小さな足跡が三つ。


 乱れている。

 走った跡だ。


 その先で、唐突に途切れている。


 リバルが膝をつく。

 土を払い、草をかき分ける。



「踏み消されています」



 胸が冷える。


 魔物ではない。

 計画的だ。


 やがて開けた場所に出た。


 草が広く踏み固められ、木が数本切られている。



「……止まった跡だ」



 地面に刻まれた深い溝。



「馬車」



 蹄の跡。

 重い荷を積んだ形跡。


 森の中に、馬車。


 俺は息を吐く。

 轍は森の外へ続いている。


 リバルが顔を上げた。



「……この方角は」



 一拍。



「王都へ続く街道です」


(……王都か)



「戻りますか?」


「いや、辿れるとこまで行く」



 迷いはなかった。

 森の守りを越えた。


 境界は、もう後ろだ。


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