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え? これで終わりなの? 

「ここで待て。連れて来る」


 少し歩いた後、そう言うと男性が家の屋根に軽々と登りどこかに消える。


「うわあぁ……すごい。身軽だね」


「魔族だからな」


 え?

 今、女性が魔族って……?


「あの……魔族って?」


「ん? ああ、ルゥは魔族の中で育ったんだ。人間はルゥしかいないぞ?」


「え? 魔族しかいないの?」


 食べられないのかな?

 でも、そんな事聞けないよね?


「でも……あなたもさっきの人も人間だよね?」


「ん? 違うぞ? わたしはハーピー族だし、さっきまでいたのはヴォジャノーイ族だぞ?」


「え? えっと……人間に見えるけど……?」


「ああ、人間に見える術があるんだ。そのせいだな」


「そんな便利な術があるの!? すごいね!」


 って、今はその話じゃ無くて……


「えっと、なんて呼んだらいいかな?」


「ハーピーでいいぞ?」


「ハーピーさん……ルゥさんはどうやってあの荒れた海で生き残れたの?」


「ん? わかんないな」


 え?

 そうなんだね……


「じゃあ、ルゥさんはシャムロックのおばあさんにはもう会っているのかな?」


「ん? わかんないな」


 え?

 あれ?

 何かおかしいな……?


「うーんと、じゃあ、ルゥさんは双子の兄がいるってわかったら喜ぶかな?」


「ん? わかんないな」


 ……?

 あれ?

 もしかして……

 ハーピーさんは……


「ハーピーに聞いてもムダだ。頭を使うのが苦手だからな」


 男性が帰ってきた。

 あれ?

 おばあさんは一緒じゃないのかな? 

 って、今……遠回しにバカって言ったような……?

 気のせいかな?

 

「あの……あなたは……なんて呼んだら?」


「ヴォジャノーイと呼べ」


「ヴォジャノーイさんは、魔族なんだよね? どうしてルゥさんを、その……食べないで一緒に暮らしているの?」


 聞いたらいけなかったかな?

 怒らせちゃったかな?


「産まれたての赤ん坊の頃から共に暮らしているからな。愛おしい者は食べられないだろう?」


 愛おしい……か。

 本当に大切に想っているのが伝わってくる。

 ルゥさんは幸せそうだね。

 良かった……



「なんて……事……あぁ……」


 え?

 この声は?

 声の方を見る。


 久しぶりに見たな。

 シャムロックのおばあさん……

 本当に連れて来てくれたんだ。


「……ばあ……ちゃん? ……おばあ様」


 ヘリオスが泣き崩れる。


「ああ……双子だったなんて……あぁ……」


 おばあさんとヘリオスが抱きしめ合って泣いている。


 良かった……

 ヘリオス、良かったね。

 やっと、血の繋がった優しい人に出会えたね。


「あれ?」


 いつの間にかハーピーさんとヴォジャノーイさんがいなくなっている。

 ルゥさんの所に戻ったのかな?

 

「名前は……? 何て言うの?」


「ヘリオス……だよ?」


「ヘリオス……良い名ね……ヘリオス……」


「おばあ様……うぅ……」


 こうしてヘリオスは、しばらくシャムロックに残る事になった。


 ヘリオスのいない家は広くて、静かで……

 胸が苦しいんだ……

 ヘリオス……

 会いたいよ……

 まだ数日しか経っていないのに。

 もう限界だよ……

 寂しくて辛くて耐えられない……


「ヘリオス……」


「うん? 何?」


 え?

 あまりに寂し過ぎて幻聴が……


「やだ……わたし……」


「何が、やなの?」


「え?」


 声のする方を見ると……


「ヘリオス!」


 ヘリオスを抱きしめる。


「姉ちゃん……ただいま」


「どうやって帰って来たの?」


「おばあ様に送ってもらったんだ……もう行っちゃったけど」


「寄ってもらえば良かったのに」


「リコリスに……オレとルゥの事がバレたんだ。あいつら……ルゥを利用しようとしてるんだ」


「え? そんな……」


「奇襲の日にちを早める事にしたよ」


「……いつ?」


「五日後だ。王妃の息子の宴がある」


「五日……」


 ダメだ……

 あと五日でお別れなの?

 頭が混乱して……

 もう……

 なにも考えられないよ……


「忙しくなるから、今しか言えないから……ちゃんと聞いて?」


「……」


「姉ちゃん? 聞いてる?」


「……うん」


「オレ……今はまだ無理だけど、誰からも認められる王になったら、絶対に姉ちゃんを迎えに来るから……だから待ってて?」


「……ヘリオス」


 ヘリオスがわたしのほっぺたに口づけをする。

 前の時とは違うね……

 あの時は背伸びして、やっと届いていたのに……

 今はわたしを見おろしている。


 それから五日間、ヘリオスは奇襲の下調べの為に何度もリコリス王国に潜り込んだ。

 海賊の島に帰って来ると「ルゥがかわいい、ルゥは世界一かわいい」と今まで見た事の無いような、にやけた顔をしていた。

 今までは「姉ちゃんは世界一キレイ」って言っていたのに……

 こうやって、王になったらわたしの事なんて忘れちゃうんだな……

 あぁ……

 虚しくなってきたよ……


 そして、あっという間に奇襲の日がやって来た。


 ヘリオスは、自分が産まれた船に乗って、リコリス王国の王族を倒しに行った。

 奇襲は成功してヘリオスは若くして王になった。

 毎日のように海賊船に乗って皆がこっそり会いに行ったけど、わたしは会いには行かなかった。

 それからすぐ、お貴族様の婚約者候補が何人もできたと聞いた。

 

 ……わたしはバカだ。

 もうわたしの事なんて忘れちゃったんだね……

 いつまでも待っているなんて……

 本当にバカだ……


 そんな風に思いながら過ごしていたある日……

 ウソみたいな話だけど、ヒヨコと妹と一緒にヘリオスが空間を移動して帰って来た。

 相変わらず妹を見てニヤニヤしていて、これで王が務まるのかと不安になるくらいだった。

 もっと驚いた事もあった。

 妹もヘリオスと同じくらいの変態……いや、あの、かわいいもの好きだったんだ。

 さすが双子だね。

 ルゥって呼んで欲しいって言われたし、仲良くなれそうだな。


 そして……

 ヘリオスが帰る時……


「じゃあ、姉ちゃんまたね?」


「ああ、大国を巡るんだよね? 気をつけてね……」


 ダメだ。

 泣いちゃいそうだよ……


「うん。あ……姉ちゃん?」


「何?」


 泣いちゃうから話しかけないで……


「約束」


 小指を立てて右手を出している?

 何?


「え? 何?」


「姉ちゃんもやって?」


「……? こう?」


 右手の小指を立てるのかな?


「約束、忘れてないよな?」


「約束?」


「オレが、誰からも認められる王になったらってやつだよ」


「え?」


 ヘリオスとわたしの小指が絡み合う。


「迎えに来るから……待ってて」


「……うん」


 こうして、ヘリオスはヒヨコの力で一瞬でリコリス王国に帰って行った。

 約束……覚えていてくれたんだ。

 疑ってごめんね?

 もう迷わないよ。

 ヘリオスの隣に立っても恥ずかしくない人になって待っているからね。

 だから……ヘリオス……ゆっくりでいいから。

 無理だけはしないでね?


 約束をした小指にヘリオスの指の感覚が残っている……

 赤ちゃんだった小さい手が……

 ずっとわたしが守っていると思っていたのに、いつの間にかわたしの方が守られていたね。

 

「ココ、また小指を見てニヤニヤしてるのかい? お前も変態なのか?」


 ばあちゃんが呆れた顔でわたしを見ている。


「違うよ! 変態じゃないよ! ヘリオスと一緒にしないでよ!」


「……同じ血を受け継いでいるからね。おかしくはないさ……」


「え? ばあちゃん? 何言ってるの? ヘリオスは血の繋がらない弟だよ? 忘れちゃったの?」


 ばあちゃん……

 かわいがっていたヘリオスがいなくなって、ショックで思い違いをしているのかな?


「……ずっと黙っていたけどね、わたしは……シャムロックの王族だ」


 ん?

 今、何て言った?

 シャムロックの……王族……?


「……はいいいいっ!?」


 ばあちゃん!?

 大丈夫!?

 どうしちゃったの!?

 あぁ……

 まだまだ一波乱も二波乱もありそうな予感……


 

これから先の物語は本編に続きます。

ありがとうございました。

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