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プロローグ:裸足の後輩

 夜コンビニに行くと、野生の後輩が落ちていた。


 季節は11月半ば。秋から冬へと移り、コートを着ているサラリーマンがちらほらと見受けられる頃。彼女はワイシャツの上に薄手のセーター、丈の短いうちの制服のスカートと、黒の長靴下という、見るからに寒そうな格好をしていた。

 そして、靴を履いていなかった。


 彼女はコンビニ前のベンチに腰掛け、駐車場をぼーっと眺めていた。

 彼女の見事なブロンド髪は、パーマのかかったショートヘアースタイルに整えられている。首には小さなネックレスがかけられ、軽い化粧でもしているのか、唇は綺麗なピンク色をしていた。あるいは、その下は紫色をしているかもしれない。


 なにせ、当然だが、時折寒そうに腿と足を擦り寄せていた。冷たいコンクリートへ触れる面積を減らすためか、時折、足を浮かせても見せている。

 彼女がはぁ、と吐く息は、その手にあたる前に白く染まる。店内の店員とか、コンビニに入って行く男たちがちらちらと彼女を見るけれど、どこからどう見ても女子高生。そのブランドの盾があるからか、話しかけることはない。


「なんだあれ」


 コンビニに入る直前、彼女、天音かおりを見つけて、僕はそう呟く。

 僕は部活にも入っていなければ、無駄に1年生の教室に遊びに行く上級生のような習慣は持ち合わせていない。友達すら、同級生に一人しかいない。幼馴染などという幻の存在は小学生の頃に自然消滅した際。


 ならばなぜ。―――天音あかりは、図書委員の後輩だった。


 彼女はこの春から今現在まで、図書委員として働いていた。週に一度、昼休みの登板には必ず出ていたくらいには真面目な図書委員だった。僕と登板が被った日なんかに、陽キャ仲間の友人達が茶化しに来ていたのを覚えている。その時、僕は初めて彼女の名前を知った。


 天音が僕を覚えているかはわからない。なにせ、僕は彼女とろくに話したことがない。精々、図書委員の仕事関係で「これ棚に戻してくる」とか「貸し出し頼む」とか、会話をする気のない言葉しか発していないのだ。

 そんな状態だから、顔と名前が一致していないどころか、名前すら覚えられてない可能性さえある。


 でも、流石にこのまま放っておくのは気が引ける。だからか、僕の足は自然と彼女の方へと向いていた。


「天音、どうした?」

「………」


 ちなみに、今の僕は私服を着ている。家に帰ってすぐ、家着に着替えるタイプの人種。制服を着ていると、自分の居住スペースが学校に侵されているようで気持ちが悪い。気分転換、という側面もあった。


「誰ですか」


 そのせいかはわからないが、彼女は僕の顔を見てもピンとこない様子で、訝しげに睨みつけてくるのだ。


「風見鶏だよ。風見鶏鹿波(かざみどりかなみ)

「……ああ、思い出した。いえいえ、思い出しました。そのクルクルヘアー。ゲンゾウさんですね」

「ゲンゾウ……?」

「知りませんか? ワンピース」

「……あれは風車。僕は風見鶏。ゲンゾウのどこに鶏要素がある」

「さあ?」


 くすくすと笑うだが、しかしその体は小刻みに震えている。心なしか声も震えて、時折、カチカチと歯が当たる音さえも聞こえてくる。


「うちくるか?」

「え?」

「すぐそこだから。一人暮らしだけど」


 前者はすぐに暖まれるぞ、という気遣い。後者は、家に誰もいないぞという警告。


「案外、狼さんだったりします?」

「言っただろ。僕は鶏だ」

「へ………ぷっ、あははっ」


 僕がそういうと、天音は一瞬だけポカンとして、楽しそうに笑った。


「いいですよ。鶏さんにつつかれてみるのも悪くはなさそうです」

「つつかねえよ。僕は穀物男子だ」

「なんですか、それ」

「草食と肉食の間?」

「なるほど、納得です」


 天音はそういうと、くちんっとくしゃみをならす。ふざけているようでも、体はかなり冷えているらしい。かなり長い間、ここにいたのだろう。

 僕は着ていたコートを天音に投げかけると、背中を向けて、しゃがみ込んだ。


「ほれ」

「え?」

「足。歩けないだろ。コートは羽織っとけ」

「重いですよ?」

「何キロだ?」

「………デリカシーなさすぎです」


 そう言って、体重を明言する事なく、天音は僕の背中に体重を預ける。

 ちなみに、体感40キロくらいだった。

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