Tokyo gamer's night(4)
その荒れた室内はボレスキン伯爵の自室なのだろう。アオヒツギはセシルLV20と書かれた金髪の小姓風の少年に刃を突きつけ立っていた。その頭には黄色の文字で――
『オルゴールの音階調査中』
となっている。我々とは目的が違う? それにしてもオルゴールの音階とは一体何だ?
しかし一瞬早く、あやのがそれに気づいて叫んでいた。
「ちょっとアオヒツギ、オルゴールですって!? いったい誰のミッションよ? 答えなさい! 事と次第によっては――」
あやのは錬金術の杖を翳そうとしたが、アオヒツギはそれを制した。
「誰だっていいだろう? こちらにはこの小僧がいる。殺されてもいいのか?」
白刃が少年の喉元で閃くと彼は恐怖に身を竦めるのが判った。「それにお前らは彼を捕らえる事が目的だろう? ここは穏便に運んだ方が良いんじゃないのか」
「あやのさんnおるごp-るってなんでうs?」
「今はまるちゃんに説明している暇がないっ」
「ヒロインのオルランダがボレスキン伯アルチュールから譲り受けた銀の錆びたオルゴールのことだろう?」
私は漸く口を開いた。そうだ、原作を読みこんでおいてよかったに尽きる。「そう……裏に紙が貼ってあるのだ、gだのmだの書いてあるな」
「ふん、それを今この小僧に喋らせた――」
そうアオヒツギは言ったが余り自信はないように見える。何故だ……?
サギリキユル ミナトエノ フネニシロシ アサノシモ
確かに『冬景色』の歌詞だ。詰まりオルゴールの音階は冬景色と一致するのだ。この少年が正しければ。
恐らくアオヒツギには分からなかったのだろう、だとしたら――彼を殺してでも音階を調査する?
歌には大したアドバンテージがないのだが仕方ない、少年を開放する手立てだ、披露するか。
「サギリキユル ミナトエノ フネニシロシ アサノシモ タダミズドリノコエハシテ イマダサメズ キシノイエ」
「「「?」」」
私が突然歌ったのでセシル以外の三人は鳩が豆鉄砲食らったような面相をしている、無理もないか。歌も下手だし。
だが小姓セシルの反応は違った。
「それです、その音階です、虎追いの騎士様!」
「え。何よjane_doeその歌!」
「冬景色、1913年発行の尋常小学校唱歌。勿論ここで唄っても大丈夫なものだ」
「ぼ、ぼくはそんな曲はびたいち知らないぞ」
未だセシルに刃を突きつけながらアオヒツギは言った。
「アオヒツギさんは音楽のジュgy等ちゃんと受けてないんで宇迦?」
「小学校はロクに参加してない。中学の時はサボっていたし、高校では未選択。あーもう! 音楽は嫌いなんだよ!」
「音楽ってか音楽の授業が嫌い?」
あやのはそう突っ込んだのだが……
「音楽そのものってか、音楽やってる奴が嫌いなんだよ。これ以上詮索するな……まあいい、任務は其処の間抜けがお歌を唄ったお陰で遂行できた」
いつの間にかアオヒツギの頭の上の文字が点滅していた。
「この小僧は呉れてやる。お前たちのミッションに必要なんだろう? よっと。 ん……その従属獣、いやなんでもないか」
急にアオヒツギはセシルLV20を解放するとこちらへ付き飛ばしたので、慌ててあやのが受け止めた。
「うわあ……」
「大丈夫でうか」
彼を保護している間にアオヒツギは部屋のバルコニーから消えていた。去り際にチーズたらを気にしていたのが引っかかるが……
「ちっくしょう!」
あやのは憎々し気にそちらを睨むがもう遅い。
「でもじぇーんさんn大活躍です、歌も良かった」
「……いや、一寸待ってくれこれで終わりじゃないだろう」
「そうね」
あやのは頷く。
「あの虎追いの騎士様?」
セシルは無邪気に私に聞いてきたが、我々の出した答えは残酷であった。
「あのね……わたしたち君を捕まえて公女に差し出すことが目的なの。ごめんなさい」
※※※
「助けておいて済まないな……こちらも訳アリなんだ」
あやのの所持していた『冒険者初期キット』のなかの縄で小姓セシルをぐるぐるに縛ると、私は居たたまれず彼にそう言った。
「いいえ、ぼく捕らわれの身になるのも初めてじゃありませんので……」
何だか増々彼には申し訳ない。
アオヒツギと同様ミッションを半ばクリアしたのか私たちも頭の上の文字が点滅している。
「でも弱者んの家を出て何処へ行けばいいんうかね?」
「もうあの酒場で待ってるとも思えないからねえ」
すると不意に我々に前を文字が流れた。
『聖堂騎士団本拠で待つ、小姓を連れて早く来い』
「ですって、公女様も勝手なものね」
「彼を連れて往来を歩くのは少々目立ちはしないか?」
「そうね……一度行った場所にならちょっと精神力消費するけど行ける魔法があるわ、使う?」
「その方がめだたbなくていいでうs」
「ああ、頼む」
あやのは錬金術師の杖を振るって何かを詠唱しだした。 (実にゲームらしい光景だ)
刹那、一行は濃い桃色の光に包まれて伯爵の私邸から姿を消したのであった。
この冬は終わらない。




