省察
「じぇーんさんmん、mってましたよ! 来るんじゃないかって」
まるこめXは急に抱きついてきた。ミスタイプは平常運転、久しぶりにこの面子と再会するのも何だか面映ゆい。
「まるちゃん、jane_doeを離してあげなさい、積もる話があるのは分かるけれどそれはまた後で」
豪奢なあやののマイハウスを、少し大きくなったチーズたらが元気に走り回っていて喧しいくらいだ。
「で、あやのさんいない間どうしていたぼ?」
「それがねえ、気が付いたら三日ほど記憶がございませんのよ……? どういうことかしらね」
――その三日の間に、私はタマキと出会い二回もTru'nembraへ足を運んでいた訳なのだが。
「あー、ゼミの奴にはハッキングされるし頭来るわー」
「ゼミの奴……? あのWiiフィットトレーナー某?」
「あやのさんってがくしえなんす?」
「冗談でも何でもなく24歳学生です、大学院生よ。あーこんなところから素性がバレるとは思ってもみなかったわね」
大学院生、か。私のような半端ものとは違う、確固たる身分の持ち主なわけだ彼は。では私のやっていることは? フリーのイラストレーター、一番危うい立場で全てが自称に過ぎないではないか。
男として完全に彼に負けを喫しているわけであった。アイカなら嘲笑するだろう。
「わたしの個人的事情なんてどうでもいいです、判ったことについて整理しましょ、三つあるの。先ずは第一点ね、john_doeは自分はKだと名乗ったけどこれに心当たりのある人っている?」
そこ聞こえていたのか、あやの……しかしながら、
言うべきだろうか? いや最近亡くなった幼稚園-中学校の同級生だと言って俄かに信じるものであろうか?
そもそも何故KとD.D.T onlineに関連性があるというのだ。黙っていよう、今は――
同様にまるこめXも沈黙を保っているではないか、この問に関しては誰も答えられないのだ、あやの本人でさえ。
「うーん、流石に情報が少ないかあ、じゃあ第二点ねどうやらアオヒツギは女性プレイヤーらしいです、そして上手くいけば――上手くいけばの話、此方の味方に引き込むことが出来る!」
「ええっっ! アオヒツギって女性プレイヤー何でうsか!」
「まあ、わたしが調べた数々の証拠に拠るとね」
「それは、その根拠については今朝聞き及んでいるが、彼女が同意するものか?」
「ふふふ……鳴かぬなら鳴かせてみよう不如帰!」
「豊臣はまけるんでうしょ……」
まるこめXは尤もな事を言った。そう、豊臣方は結局敗北するのだ。
果たしてアオヒツギの説得はどうなることになるのやら?
「第三点、ロックされたTiger chaserのスキルとは一体何か? john_doeはそれを解放しているようだけど」
これだとあやのは倒れた後も結構、更に此方の話を聞いていた様子だな……
「わたしが推察するに、途中にNPCの亡骸が沢山あったじゃない、それもそのなんだかグロテスクなことになってる? あれがヒントっぽいのよね」
「確かにな……口から内臓を引きずり出すスキル?」
「暈してよ! 暈しなさいよ! わざわざ言わなくていいから! わたしグロいの苦手なんだからっ! ……ねえ、まるちゃん?」
「わたついはべついに苦手はないでう。あやのさんびびりですか?」
「理系院生がビビりとかバレてしまったわ。とりあえずスキルについては未知、アンロック方法も未知……って何一つ判ってないじゃない!」
その時私はあることを思い出した。
「リーリウム……?」
「ん? jane_doe、リーリウムがどうかしたの」
「いや、以前リーリウムが言っていたんだ、Tiger chaserのスキルはロックされてるって」
「それがどうしたのよ」
「nなるほど、リーリウムさんならsんのアンロック方法も知ってるんじゃないのかな?」
「「‼」」
「でも……リーリウムは、メンテナンスでシステムから消去された――」
あやののアバターはやれやれというアクションを取ってみせた。
「結局は八方塞がりってわけね」
「そひつぎさんがしってるかもしれないでうs」
「ま、まるちゃんさっきから鋭いわね……」
アオヒツギが知っているかもしれない? 何故それに気が付かなかった!?
彼女が私と接触したときに私のマイハウスに彼女のIDが残されている可能性がある! IDさえ判明すれば相手のマイハウスに飛べる筈。
「あやの、アオヒツギの足跡や居場所を調べたかったら私を調べてみるんだ」
「ああ、成程ね。決断を下して貰うのは後日でも、彼女の居場所を特定しておくのは重要な事よね」
しばしあやのは沈黙すると画面の向こう側で何か始めたが、数分後に吸っ頓狂な声を上げた。
「えーッ!? これどういう事? アオヒツギって正気なの!」
一体どうした……?
この冬は終わらない。




