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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
2.une semaine de bonté,ou les sept éléments capitaux
50/60

蘇った男、贖われた男

 1924年のブルトンのシュルレアリスム宣言では「口頭、記述、その他のあらゆる方法によって、思考の真の動きを表現しようとする純粋な心的オートマティスム。理性による監視をすべて排除し、美的・道徳的なすべての先入見から離れた、思考の書き取り」とされる一連の運動の端緒は1919年の自動筆記から始まった。(であるから真にシュルレアリスムといえるものは心霊術的な自動筆記のアールブリュット的「絵画」のみなのかもしれない。ただし其処に名を連ねるものは余りにも多すぎるのだが)

 だから私はシュルレアリスムの子孫でもなければ、アールブリュットの徒でもない。では何者?

――デラシネ。

 その通り、ただのデラシネだ。アールブリュットに憧れているだけのそうでなければあのダーガーを揶揄するような、タマキのコラージュに心奪われるわけないではないか?

(タマキだって彼のようになりたかった、そうに違いないと私は確信しているというのに?)

 結局のところ、現代日本は同調圧力と科学的根拠で以て私という異端を矯正するに至り、つまりは健常児に去勢してしまうことでアールブリュットの世界からも追い出したのだ。デラシネ(根無し草)

 そうでなければあそこまで『破壊の破壊』の女に魅了されることもなかった訳であるし。(両親も学校でさえ私を一度もその様に待遇したことなどなかったのだが、勝手に私の側でそう強く感じていただけだ)

 大人となった今時分となってはひどく閉塞感と疎外感だけが残ったのは確かだ。誰にも理解されない事だけが唯一の矜持ですらあり。

 つまりはタマキも含めてTru'nembraとはそういう者たちの居場所なのだ。だから、あそこは心地が良い――



 12月25日、また朝帰りだ。

                                  

 磯たちの言った監視はまだ付いているのだろう、そして私をひどい遊び人と報告しているに相違ない。


 いい加減中高生も冬休みに入るのだからこれ以上のメンテナンスは、D.D.T online運営にとってマイナスにしかならないだろう。若しログインできないのが我々だけだとすれば話は別だが。

 試しに私はログインを試みた、どうせ――


 だが其処に映し出されたのは何時もの裏びれたマイハウスとjane_doeではないか!


 どういうことだ!? 何故私だけが?


「お前だけじゃない、ぼくもだjane_doe」


「アオヒツギ! なぜここに!?」


 青黒い長髪の少女のアバターはにやりと笑った。

「あの、あやの達の作ったwikiを参照させて貰った、IDが判ればマイハウスに飛ぶこともできるってな。尤も正式リリース版でこの機能が実装されるとはその限りではないが」


「空き巣みたいな真似は関心しないな? まだ虎云々の話をしに来たのか」


「違う」


「では何だ? 私はあんたに用はない」


「居場所でも見つけたか? お前さんを受け入れてくれるような心地いい場所が」


「……今日、通常チャットを使わないのは何故だ」


 一瞬アオヒツギは周囲を見回したが直ぐに私の方を見て話しだした。


「勿論、ぼくがあれを使っていたのには理由がある、あれは運営にログを保存されない。だが仕様が今回のメンテナンスで変わった」


「そちらを運営が参照できるようになったというわけか……」


「そうだ。だったらどこで何を喋ろうと同じだろう?」


 動くたびに落ち切ったアライメントのせいで、ぼたぼたと何かが瀝青のように粘り気を帯びては床を汚した。


「前も言ったろう? 虎は一匹だけだ。今ここでお前を殺したって良いんだ」


「PC殺しは重罪だぞ、規約違反でお前はBANされる」


「ではあのjohn_doe、あいつは何だ? ぼくを殺しお前を殺しあやのを殺した。それ以外にも――」


「我々に割り振られた固有のIDがある。NPCにだってある。あんたはそれを知ってる筈だな?」


「それがどうした、あやの達が割り出したデータの一つだろう」


「john_doeにはそれがない」


「……な!」



「それについてはわたしから説明させて貰おうかしら? jane_doe、アオヒツギ」

 私のマイハウスの戸口に立っていたのは小柄なRPGの魔導士風の少女、あやの!


 この冬は終わらない。

※脚注

アールブリュット:ジャン・デュビュッフェが1945年に生の芸術と呼んだ、強迫的幻視者や精神障碍者の作品。英語のアウトサイダーアート(西洋の正規の芸術の美術教育訓練を受けていない者の制作した作品)とはかなり定義が異なるが銀鶏は前者の方を採っている。

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