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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
2.une semaine de bonté,ou les sept éléments capitaux
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墜ちた信仰-智慧

 私は好奇心を殺して先ずはまるこめXからのメールを開封した。



"なんとか生きてるよ! まるこめえっくす"


 "このメールはパーティーの皆に送っています。

 

 jane_doeは生きてますか?

 わたしはjohn_doeと皆が戦い始めてから(ごめんなさい)やばいと思って、

 ログアウトしました。本当にごめんなさい。チーズたらも無事です。

 でも再度ログインできなくなりました。。。。

 jane_doeが無事なら返信が欲しいです。


 とても心配しています。"



 まるこめX……あのときログアウトしていたのか、それで正解だったかもしれない。

 再度ログインできなくなったのは私も同じことだった、しかしこれはメンテナンスなのか「我々」だけが弾かれている事象なのか? そこは判らない。


 そういうわけで私はまるこめXに返信することにした。



"あやのは行方不明らしい jane_doe"


 "もう連絡が来たかもしれないが「Wiiフィットトレーナーの尻」という人物から、

 あやのがリアルでも行方不明という連絡が来た。

 彼のwikiの仲間であるようだが、あやのは学生でゼミにも顔を出していないらしい。

 ひょっとしたら警察沙汰になるかもしれない。"


――そこまで書いて私はあることを思い出した。幾度となく記憶に上ったリーリウムのあの言葉だ。


『ここで死ぬと痛いわ、すごく』


 それは現実世界での何かを意味するのではないか?

……まさか、あり得ない。ゲーム内の死が現実世界での出来事と関係しているなどと。

 だがその可能性が捨てきれない、私もヤキが回ったか。だから彼にこう認めた。


 "まるこめXがキャラメイクする前のシステムで、キャラメイキングを担当していた、

 リーリウムというナビゲートキャラクターにこう言われたんだ。

 このゲームで死ぬと凄く痛いと、どういう意味なんだろうな?

 あやのに何もない事を祈っている。"



 そう書いて送信ボタンを押した。


 そうだしかし現実世界でなにかあるというなら何故私は無事なのだ? しかも気が付いたら自宅に戻っている……

 記憶障害を起こしているだけなのかもしれないが、どうやって立川から帰宅したか全く記憶がない。

 あのネット喫茶、本当に実在したのだろうか? 妙な店ではあった。店名、雰囲気全てが常軌を逸していたしあそこで見たDVDときたら――

 

 そこで私はあの不思議な映画『破壊の破壊』(طهوت الطهوت)のことを想起して粟立った。


『私は去勢されました、女にされたんです――両親によって』


 当初この映画に対する私の興味は題名から来る、アヴェロエスの反一神教的な宇宙観と彼の放逐と運命であったが、件のせりふの醸すひどい去勢コンプレックス的な、まさしく「呪詛」こそが全編を覆っていると気付いた。

 即ち女性の去勢コンプレックスとは男性のそれとは違って、単純なものではない。

 詰まり妄想においてだが、元来男性であったはずの「彼女」は両親 (父親かもしれない)に去勢され、女性になったというわけだ。

 折りしもタマキがマンダ教の話をしたが、彼女はピスティスソフィア (信仰-智慧)よろしく充足の世界を墜とされた神の流出のひとつなのかもしれない?

 その彼女が父の似姿と無知の賜物ととして創造したのがこの「世界」と「神」というわけだ。あながちそれは間違っていないのかもしれないが。

 偽りの世界で偽りを描き続けるのがこの私、銀鶏とでも言いたいか――女教皇よ? では救済すべき(をんな)はアイカかタマキか、それとも他の誰かなのか?


 タマキ……彼女は、アイカとは違う。

 何が違うとははっきり言えなかったが、ともかく違った。私の中で意味するものが?

「環」の字は本名ではないと言っていたが恐らくこの字はウロボロスなのだろう。そうだ……彼女からの誘いを読まねば――



"Xmasパーティーのお誘い 北園環"


 "24日にTru'nembraでクリスマスパーティーやるんだけど、来ない?

 今回は内輪の集まりだから、来るならわたしとどこかで集合しましょう。

 正直、銀鶏といると凄く楽しいから、来て欲しいな。

 良い返事待ってます、宜しくね。"



 タマキはアイカと違ってイタリアンも高価な鞄も要求しない。

 果たしてアイカは私と居て楽しいと言いきれただろうか? 今となっては分からない。しかしタマキはそうだと言う……


 私は当日夕方、JR八王子でタマキと待ち合わせる旨のメールを返信し、PCを閉じた。


 これは――恋ではない、断じて!


 この冬は終わらない。

※脚注

 グノーシスの世界観では、原初の世界は、至高神の創造した充溢の世界である。しかし至高神の神性のひとつであるソフィアは、その持てる力を発揮しようとして、ヤルダバオト呼ばれる無知の神を作った。ヤルダバオトは自らの出自を忘却しており、自らのほかに神はないという認識を有している。

 このヤルダバオトの作り出した世界こそが、我々の生きているこの世界であるとされる。

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