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陰府これに隨ふ  作者: 雀ヶ森 惠
1.Cast a cold eye On life, on death.Horseman, pass by!
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幻日理論

「わたしです、出口です」


 果たして個室シートの扉を開くと『人間椅子』のほの暗い照明の中に、ベージュのコートに白黒の千鳥の柄のマフラーを付けたままの出口さやかが居た。


「どうして私がここにいるとわかったんです? それに――」


「此処、通路ですし個室に入るわけにもいきませんから、あちらのペアシート一時間だけ借りてます。そちらでお話しますね」


「え、……あの、あ」


 一も二もなくわたしは出口さやかの言うままにペアシートに案内され、置物のように腰かけた。


「何かお飲み物をお持ちしますか?」


「……では、ホットコーヒーを。ブラックで」


 程なくして彼女は私のコーヒーと自分の分の飲み物 (恐らくココアだろう)を持って戻ってきた。それをPCデスクに置くとおもむろに彼女はコートとマフラーを脱いで、花柄のカットソーとフェイクレザーのミニスカートといったいで立ちになった。

 照明のせいもあるが少し大人ぽく見えた、化粧を変えたのかもしれないが女性のことはよくわからない (それでアイカの怒りを一々買っていた訳でもあるが)


「外は冷え込んでいるんですか?」


「ええ、日が落ちたのでだいぶ」


 もうそんな時間か、PCのディスプレイの時計を見ると19時半を回っていた。可成り長く眠っていたようだ。

 熱いコーヒーを飲んで目を覚まさなければ。


「で、どうやって私を見つけ出した? 家じゃなく立川に居ると、それもネット喫茶に」


「それは……わたし達のところには知りたいと思う情報は大抵入って来るのです」


「わたし達? そういえば貴女は前にも仲間がいるとかなんとか言っていたな、それか」


「まあ、そう思っていてくださって結構です、当らずとも遠からずなので」


 そう言って彼女はココアを口にした。カップに縁にここの薄暗い照明でも判る、リップグロスの跡がきらきらと残る。

 これがアイカならさしずめどす黒いまでに赤い口紅の跡なのだろう、では女教皇ならば?

 そこまで考えて私はぞっとした。

 現実の肉体を持った女性を目の当たりにしながら、観念上の女を夢想しているなどと普通ではない。やはり「椅子」のせいなのか――


「どうかしましたか?」


「いえ何も……そうですか、貴女には秘密の情報網があるしかしながらここに来たのは失敗かもしれません」


「あら、どうしてですか」


「実は私は見張られている」


「貴方の恋人の失踪事件でパソコンを押収されて、仕方なくネットカフェでゲームしてるのは知っていますよ、でも貴方を張っていた刑事はここには来ていません」


「? どういうことだ」


「えっと正確にはこの店には入っていないのです、彼は」


 ますます疑問符だらけだ、刑事は入店していない? どういうことだ?


「この件についてはこれ以上お答えできません、ごめんなさい」


「質問させない気か」


「わたしが貴方に今晩お会いした目的は別にありますので……」


「急に別の目的、と言われても」


 厄介だな、彼女は。背後にあのエステラ本人もbabbagejapanもそれから正体不明の「仲間」もいる。この可憐な容姿の裏に隠されたものは、下手に追及しない方が最善であろう。

 では今晩会いに来た別の目的とはいったい何なのだ?

 その狼狽を察知したかのように彼女は微笑むと私に一枚の印刷されたスクラッチカードを渡した。


 そこには絵描きの手でディフォルメされたリーリウムが微笑んでおり (ゲーム内から削除したというのに白々しいといえばいえた)題名のようにこう書いてあった。


『D.D.T online 202X年1月X日 正式リリース記念 特別プレゼントアイテムコード』


 とあるではないか!


「何故、貴女がこれを渡すのですか……」


 間違いない、これはチート装備というやつだ!


「彼女に、エステラに託されました。今はそれしか言えません」


「エステラが……?」


 彼女たちはD.D.T onlineと関りがある? 女教皇の椅子だけではなかった、エステラも出口さやかもいつの間にか私の運命に深く絡みついている蛇のようなものであった! イヴというよりはリリスのような――


「早晩、貴方はその装備を使うこととなるでしょう」


「それは予言ですかな」


「わたしにはそんな不思議な力はありません、そしてこれをお渡ししたら今晩の役目は終わりです」


 彼女は残ったココアを飲み干すとコートを羽織った。


「ここのシートのお金は既に払ってあります、今晩、良いゲームを……」


 まるで私の心情を察知したかのように彼女はマフラーと鞄を手に去っていった。

 廊下を見ても彼女の姿は煙のように掻き消えた後であった。



 私は元の席に戻るしかなかった、そのスクラッチカードを手に。

 これを使うかは私次第というわけか……!


 私は20時を過ぎていたのでメールを確認した。

 そこには意外な人物からの連絡であった、一応アドレスは教えてあったのだが。


新着メール

from         件名           日付

まるこめえっくす   大変な事になってるよ!  201X/12/2X Tue 19:43



――何が大変だというのだ。私はメールを開封する。


 "jane_doe早く来て! あのあなたにそっくりな男が王城に火を放って暴れてるよ!"



 どういうことだ……john_doeが? よりにもよって王城に?


 私は直ぐさまD.D.T onlineにログインした。

 あのスクラッチカードは……使うかもしれない、畜生、これを見越してのことだったのか!


 この冬は終わらない。

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