来訪の理由
「あーーーー!あの時のこと思い出しただけでまたイライラしてきた!やっぱりもう一回…!」
今度は半年くらいここに来られないように、思い切り魔法を放とうと魔力の塊を手の上に作り出す。
今にも放とうかというその時、私の腕を白く小さな手がつかんだ。
「アルト、そこまでよ」
そこには黒を基調とした給仕服に身を包むダイアナの姿があった。
「でもダイアナ!こいつダイアナのことを──」
私がレワルドを指差し、ひと月前の彼の悪行を改めて説明しようとしたところで、ダイアナによって口が塞がれる。
「落ち着いて、アルト。誰になんて言われても、私はアルトとずっと一緒って、いつもいってるでしょ」
「で、でも…」
「それとも私の言葉、信用できない?」
それを言われたらおしまいだ。
私がダイアナのことを信じないわけがない。
私が放とうとしていた魔力を消すと、ダイアナはよしよしと私の背中を撫でる。
「ディーケイ、アルトが落ち着いているうちに自室まで連れていくわね」
ダイアナが私の手を引き、部屋を出ようとする。
「ああダイアナ。それはちょっと待ってくれないか」
「なあに?アルトの仕事、まだ残ってたかしら」
いや、確か言われていたことは全部やったはずだ…
もしかして、さっきのことでお説教だろうか。
「ディーケイ、さ、さっきのことは…」
「それも言いたいことは山ほどあるが、違うんだ」
違ったらしい。しかし、もう心当たりなどないので首を傾げるしかない。
そうやっているうちに、ディーケイが話し始めた。
「私はレワルドに、とある調査を依頼していた。君たち2人に関わる、とても重要な調査だ」
私たち2人に関わる…?一体なんだろうか。
その疑問には、レワルドがすぐに答えた。
「俺はディーケイから、龍の里の調査を頼まれてたのさ」
「龍の里…?それと私たちに何の関係があるの?」
龍の里という単語には全く聞き覚えがない。
一体どう関係してくるのだろうか。
考えているうちにディーケイが再び口を開く。
「アルト、今の君の生きる目的は何だ」
「え…どうしたの、突然……えと、ダイアナを守れるくらい、強くなること…かな…」
その答えにディーケイはふっと笑う。
「随分と恥ずかしがっているじゃないか。まあいいか。そう、そのダイアナを守るという部分だ。それに関して極めて重要なことなんだ」
「ど、どういうこと…?」
「ファーストワールドが崩壊したあの日から、このビーストピアで妙な事件が相次いだんだ。強力な力を持つ人々が、次々に力を奪われるという、ね」
聞き覚えのある事件だ。
私の知っている人物も、"それ"をやっていた。
「その事件を聞いたデスティ・ルークシオンが言っていたんだ。犯人に心当たりがあると」
「まさか、ピーター先生が……?」
ディーケイは頷いた。
ピーター・クリップ。ダイアナを操り、悪事に加担させていた外道だ。
ファーストワールドの崩壊に乗じて逃げられてしまったが、まだ何かするつもりなのだろうか。
「私は考えた。複数の強大な異生命体の力を得たピーターは、この世界でなにを欲するのかを。そうして考えついたのが、龍人の力だ」
「龍人…」
「力を手に入れたならば、次に欲するのは時間。すなわち不老の力だろう。そうなると、その力を持っている龍人の集落である、龍の里を目指すのではないかと考えたのだ」
ディーケイが話し合えると、今度はレワルドが口を開いた。
「それで歴史上初めてこの世界を統一した王であるこの俺に、ディーケイは依頼をしてきたというわけだな」
自慢げに語るその姿はひどくイラつくものだったが、堪えて話を続ける。
「それで、龍の里っていうのはそんなに行くのが難しいところなの?」
「ああ、かなりな。実際俺も今回は途中経過を報告に来ただけでまだ完全にわかっちゃいねえんだ」
「だが、手がかりは掴んだのだろう?大したものだ、この地ではるかに長い時を生きてきた私ですら、訪れることができていないんだから」
原初の生命体であるディーケイはおそらく、この世界が生まれてまだ間もない頃からこの世界に住んでいるはずだ。
そのディーケイが訪れたことがないとは、一体どんなところにあるというんだろう。
「どうやら龍の里ってのはこの第二世界と、第三世界の間にある狭間にあるらしい。そんで、そこにいくための入り口がごく稀に開くらしいんだが、その時間と場所がまだ正確に掴めていなくてな。なんでも、1年に1回、7日間だけこの世界のどこかに開くらしいんだが…」
「いや、そこまでわかったなら十分だ。これでこちらも調査を進められる。感謝する」
ディーケイが頭を下げる。
「いいってことよ、じゃあ俺はこの辺りで帰らせてもらうぜ。ここにいたらそのうちまたアルトに吹っ飛ばされそうだ」
レワルドはそう言って立ち上がると、「またな」と言って去っていった。
隙があれば一発くらい魔法を打ち込んでやりたかったが、残念ながらその"隙"は生まれなかった。
まあ、早くいなくなってくれたならそれでいいか。
それよりも、今日ディーケイに任されていたことはこれで終わりだ。
この後は"何故か"出し忘れてしまった茶菓子を、自室でダイアナと一緒に食べるとしよう。
「ねえ、ダイアナ……!?」
ダイアナを誘おうとした私を、突然背筋が凍るような寒気が襲った。
殺気にも似たこの感じ…"怒り"だ。
私は恐る恐る振り返り、その怒りの発生元を見る。
ディーケイは優しげな微笑みを浮かべてそこにいた。しかし──
「アルト、君には一度じっくりと話をしなければならないようだね」
その声からはかけらほどの優しさも感じないのであった。




