元究極生命体デスティ・ルークシオン 10
ゲートを抜け、ファーストワールドへやってきた私は、ゲートの前で座り込んでしまっていた。
一刻も早くカトラを助けに向かわなければいけないことは分かっているのだが、どうにも足が動かない。
なぜなら、前に来た時とは比べ物にならないほどに、世界が黒い魔力で満たされていたからだ。
魔力を見ようとすると、一歩先すら見えないその状況に、私の中でなるべく考えないようにしていた一つの推測が、正しかったのだという確信に変わった。
私がオーネの宮殿からビーストピアへ移動したときの空間。
あの空間を通り過ぎる間に、おそらく外の世界では数年の時が過ぎてしまっていた。
成長した体に、数年前には始まっていなかったはずのファーストワールドの戦争などに加え、ここまで天使の魔力が広がってしまっているのを見ると、そうとしか思えない。
そうすると、数年前は生きていたカトラももしかしたら…と嫌な思考が頭をよぎるが、絶対にそんなことはないと自分に無理やり信じ込ませる。
とりあえず進まなければ何も変わらないと、魔力を見ることをやめ、目の力をなるべく使わないように目を開ける。
すると、ここは山道の途中であることがわかった上に、見下ろすとオーリエン王国の王都が見えた。
どうやら遠く離れた国ではなかったようで、安堵した。
とりあえず移動しようと、私は山道を降りるため歩き出そうとした。
ところが振り返ると、先ほどまではいなかった人物がそこにはいた。
忘れもしない、前に王都を訪れたときに私の前に現れた人物。
あの奇妙な魔力の持ち主、オーネがカナデと呼んでいた人物がそこにいた。
カナデは徐々に近づいてくるが、私は動くことができない。
あの時のことを思い出してしまい足が震えて動かないのだ。
カナデは私の目の前まで来て耳元で囁いた。
「眠って」
その言葉の通りに、私は一瞬にして眠りに落ちた。
―――
目が覚めると、そこは見知らぬ天井。
小さな部屋の中で私はベッドに寝かされていた。
カナデに眠らされたことを思い出し、自分の体を確認するが、特に何かされた様子もない。
魔力にも変化はなさそうだし、それにこの部屋には他に誰にもいない。
牢屋というわけでもなさそうだし、少し魔力を使えばすぐに出られてしまいそうだ。
今のうちに抜け出して、一刻も早くカトラを探しに行こうとしたその時、部屋の入り口の扉が開かれた。
部屋に入ってきたカナデは私を見ると笑みを浮かべ、勢いを考えず、突っ込んできた。
「おっはよー!いやー、あまりにも効きすぎて、起きないんじゃないかと心配しちゃったよ。あ、私はカナデ・ネオワール。気軽にカナデさんとでも呼んでね」
私は、以前見た時との様子の違いに唖然としてしまった。
あの時のカナデはただ自分の仕事を全うすることだけを考える、冷たい人のような印象だった。
そういえば以前感じた異様な魔力も、今はそれほど感じなくなっている。
「あ、ごめんね!突然のことで何もわからないよね。まずは何から説明しようか…」
勢いのままカナデは話し続ける。
私は少し遅れてカナデの話している内容を理解すると、今ならば聞けるのではと思い切って聞いてみた。
「…あの、カナデさんはカトラって人がどこにいるか知ってますか。私はその人を助けるために来たんです」
そこまで言ってはっとした。
勢いと雰囲気に流されてしまったが、以前は明らかに敵対した立場だった人間に何をいっているのだろう。
もし相手がカトラを捕らえている側の人間なら、教えるはずもないし、なんなら助けに来たと言う私のことも放っておかないだろう。
だが、その心配は杞憂に終わった。
「もちろん知ってる。だって私は彼女の頼みであなたをここへ連れてきたんだから。けど場所は教えないように言われてるし…まあ、無事だから安心して。他に何か聞きたいことはある?」
その一言で私はひとまず安堵した。
だがまだ数々の疑問が残っている。
「…じゃあ、ここはどこなのか教えてもらってもいいですか」
「もちろん。ここは、私が創った異生命体のための学校。みんなが力を安全に扱えるようにするためのね。そうだ、あなたも異生命体なんでしょう?一緒に授業受けてみる?」
そう言われて思い出した。
私の力は失われていくと言われてから、おそらく数年の時が経過している。
おそらくもうとっくに力のほとんどは失われているはずだ。
そもそもの力がどういった物なのかしっかり把握していないため試すことはできないが、以前はうっすらとあった、魔力に対するなんでもできるという感覚が、今は少しも感じられない。
「…いえ、多分私もう異生命体じゃないので…じゃあ最後に、何故カトラは私をここに連れてこいと言ったのか、教えてもらえますか」
何故、直接会ってくれないのか。
何か会えない事情があるのか。
「それは、わかんないな。私も言われたことをしただけだし……」
カナデはそう言った。
誤魔化している感じもなく、本当に知らないような様子なので、これ以上聞いても仕方ないとひとまず置いておくことにした。
「あ、そうだ!目が覚めたら王城に連れてこいって言われてるんだった。準備は……しなくてよさそうね。じゃあいきましょうか、デスティちゃん」
「…ちゃんはやめてください」
何故名前を知っているのか気になったが、カトラに聞いたのだろうか。
考える間もなくカナデは私の手を引っ張り、私たちは王城へと向かった。




