20140426『クラスメイト:壱』
……
新学期、新生活が始まってから、およそ1ヶ月。
私もクラス内での、自分の立ち位置と言う物を確立しつつあった。
……もっとも、基本的に『相互不可侵』というだけの、体の良い無視に近い代物ではあった。
とは言え、実際の所下手に関わって来られても鬱陶しいだけだし、逆に邪険にされて排除される事に比べれば、ちょうどいい状態だとも言える訳だが。
そんな中でも、数人のクラスメイトとは比較的親しくなれている事も、自分の心を保つ上で重要な事だったと思われる。
目下の所、一番関心が高い『ユーリ』。
その要らない付属物『サトシ』と『エッコ』。
加えて、同年代の『ウシロダ』くん。
知識が豊富で頼りになる『モトフジ』さん。
入り婿で家から2時間掛けて通学している『ヤマタカ』さん。
そして、『ユーリ』のとある一言から、親しくなる切っ掛けが生まれた相手が一人居た。
私が取得を目指している『鍼灸師』の専門学校には、大体において併設されているもう一つの学科がある。
『柔道整復師』学科だ。
一般の人にとって見れば、どっちも良く分からない代物だとは思うが、社会的に認知されているのはおそらくこちらだろう。
街中によく存在している『整骨院』『接骨院』というのは、ほぼ、この『柔道整復師』の資格を持っている人間が開いているからだ。
もっとも、近頃では乱立し過ぎて『鍼灸整骨院』としてダブルの資格持ちか、グループ化して経営の方策を練った物か、スポーツクラブに同行して専門になるか、といった生存戦略を練らなければロクに存続も出来ないようだが。
……少し話が逸れた。
その学科の関係か。 なんと我が校には、『フットサル場』が併設されている。
3階建ての広いスペースを持ち、1階と3階がフットサルコートと言う、かなり規模の大きな物だ。
そして2階には、1階のコートを見下ろせる『観客席』と……もう一つ。
私が主に世話になった、『トレーニングルーム』が存在している───
□
フッ、フッ、フッ、フッ……
31,32,33,34……
「───あれ? えっと……『チバ』、さんも『トレーニング』ッスか?」
「ん? ……ああ、『タモリ』くん……だっけ?」
「そ、そッス。 授業の時以外でお会いするのは、たぶん初めて……じゃないッスかね?」
「あー、そうかもしれないね」
「……そこ、隣の『スペース』、いいッスか?」
「ん、ああ。 気にせず使ってよ。 今は他に誰も居ないし」
□
30畳程のスペースに『マシン』が乱立する、トレーニングルームで。
一人寂しく滑り止めのマットに寝転がり、腹筋を繰り返していた私に声を掛けてきたのは、年若い小柄な男性であり。
私も顔を知る、クラスメイトだった。
『タモリ ケンジ』。 年はこの時、20歳。
よく日焼けした、見るからにアウトドアといった雰囲気を持つ彼は、遠慮がちながらも無視する事なく声を掛けてきてくれた。
話を聞けば、クラスでもこのトレーニングルームを利用しているのは、彼と『ウシロダ』くん位のものだそうだ。 ……道理で、『ウシロダ』くんの体つきが凄い訳だ。
私は妙な納得をしつつも、トレーニングをしながら『タモリ』くんの話を聞いていった。
□
それまでの腹筋運動を一度止め、休憩している俺に。
入ってきたばかりで体力が有り余っているのか、勢いよく腹筋や腕立て伏せを交互に行いながら『タモリ』くんが話しかけてくる。
「実は自分、もともと『ラグビー』をやってたんスけど……」
「へぇ、凄いね! フルコンタクトスポーツとか、めっちゃハードじゃないか」
「でも、ガタイが大きくなくて、基本的には補欠だったんスよ」
「あー……まぁ、大柄では無いよね」
俺も最近の成人男性としては、比較的小柄な部類に入る『168cm』の中肉中背といった所だが、彼はそんな俺とほぼ同じか少し低い身長で、その上俺よりも細く見える体つきだった。
ついでに言うと、顔つきもどちらかと言えば童顔の部類だから、どちらかと言えば『カッコイイ』と頼られるタイプと言うよりも、『カワイイ』と可愛がられるタイプなんじゃないか、と俺は思った。
そんな俺の感想も知らず、『タモリ』くんは言葉を続けていく。
「それでも、昔からトレーニングしてたッスから、今でもたまに鍛えないと落ち着かないんスよ」
「なるほどねぇ……」
「もっとも、元自衛隊の『チバ』さんから見たら大した事無いッスよね」
「いやいやいや、そんな事無いよ!」
俺が現役だったのは、かれこれ5年近く前の事だ。 当時でも大した事は無かったのに……正直な所、今ではそのカケラすら残っては居ない。
そんな俺に比べて彼は、確かにパッと見の外見では小柄ではあるが、よくよく力が入る時の体を見てみれば、皮膚の下には結構な引き締まった筋肉がある事が見て取れた。
簡単に言えば、細マッチョと言うヤツだろうか。
カワイイ系の童顔と言う事もあるし、これで身長があれば、場合によっては女子にモテモテの部類だったかもしれない。
そんな事を考えていたせいで、俺は思わずこんな『一言』を続けてしまった。
「いやぁ……道理で、引き締まった良い身体をしているよねぇ……」
俺が休憩の姿勢のまま、腕立て伏せを続ける『タモリ』くんの浮き出る『上腕三頭筋』を、感心しつつ眺めていると。 何故か、急に『タモリ』くんが動きを止めた。
不思議に思って目線を上げると、何故か顔色を悪くしてこちらを見ている。
気分でも悪くなったのかと、俺が声を掛けようとしたのだが───
「───スンマセンッ! 自分、『ノーマル』なんス!」
「…………は?」
唐突に自分を抱き締めるようにしながら、声を張り上げる『タモリ』くん。
『ノーマル』? 何が?
一瞬意味が分からず、俺は聞き返す為に近付こうとしたのだが───
「ひぃぃッ!? こ、来ないで下さいッス!!!」
慌てて後ずさる『タモリ』くんを見て、ようやく俺は思い当たった。
そういえば……自衛官には『ホモ』や『ゲイ』が多いと言う偏見があったな……って、おい!?
「……いや、待てッ!? 俺も、『どノーマル』だって!!」
「じ、自分のカラダ見て『イイカラダだ』何て言う人、信じられないッスぅぅッ!!」
「なんでだよッ!?」
……訂正だ訂正。
こんなヘタレ、例えタッパがあってもモテやしねぇわ。
□
……誤解を解いて、私がそんな感慨を抱くまでに。
5,6分掛かった事は、一応併記しておこう。
□
「───だからな。 俺は『ユーリ』の希望を叶えてやろうと思って、もっかいトレーニングし始めたんだよ」
「はぁ……そうだったんスね。 スンマセン、自分勘違いしてたッス」
「わかりゃあ良いよ……」
何が悲しくて、まともに話して間もない相手に、自分が好きな相手を大声で告白せにゃならんのか。
ポケーっとした間抜け面を晒している『タモリ』くんに、多少イラッとしながらも。
俺は、自分がトレーニングを始めた『理由』の事を思い返していた。
…………叶えたい




