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皮肉と魔術のフラジール  作者: 宇後 筍
一章:アリウム・ギガンチウム
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第6話:遺跡探索(3)

 次の朝。と言っても地下の遺跡で朝も何もあったものではない。全員が仮眠を一巡したところで探索を再開する。


「アトミ、これを見て」


 アルビーナが地図をアトミに手渡す。それは古く擦り切れていたが、この施設内の地図だった。アルビーナが製図したものである。


「貴方、魔法で現在地が確認出来るのよね? これを見てあとどれくらいの広さがあるか教えてくれない?」


 正確には、サウラに与えられたインターフェース内の機能であるが、そんなことをわざわざ訂正して得もない。アトミは素直にマップを展開すると見比べ始める。


「この遺跡は本来二階建てだ。俺たちは崩落して埋まってる場所を除いて二階部分全て探索し終わってるから、丁度折り返しだな」


「そう。なら全部回っても帰りまで水や食料は持ちそうね」


「今回で全部回りきるのか? 確かに戦闘は随分と楽だが……」


 ジョゼが苦笑いをしながら口を挟む。本来遺跡や迷宮の探索は回数を重ね慎重に行われる。たった一度で全てを踏破するというのは無茶だ。


 しかし今回のケースで言えば遺跡自体が小さく、しかも崩れて通れない場所もあるために探索範囲が狭まっている。アルビーナの考えでは十分な余裕があるのだった。


「ええ、魔術師がいるのが大分ペースアップに繋がってるわね。アトミ、オドは本当に大丈夫なのね? 貴方が崩れたらパーティが崩壊すると思って言いなさいよ。引き際ってものがあるんだから」


「分かってる。言ったろ、俺はこの心根と同じくらいオドの器が大きいんだよ」


「だから心配してるのよ」


「おいおい、アルビーナ。男には世辞でも『大きい』って言わなくちゃあいけねえんだぜ? なあアトミ?」


「うるせえよ、早撃ちマック」


「男は手数で勝負だぜ」


「はいはい、小さくても早くても役に立つのは分かったから、さっさと探索するわよ」





「またこいつか」


 アトミのナビゲートに従って一階部分へと降りた一行は、またしてもモンスターと出会う。そこは二階部分と打って変わって小部屋は殆どなく広いスペースだったが、朽ち果てたのか何もないただの広間となり元の用途の面影を失くしている。そこが、それの棲家であったらしい。幾つものモンスターや獣の死骸が転がり、腐臭を放っている。


「酷い匂いだな」


「モンスターとの遭遇率が低いと思ったらこいつらのせいだったみたいね」


 羽剥鬼スキニーロブ。冒険者達の中では中位ほどの警戒対象である。その機敏な動きと人ならざる膂力は十分に低位のモンスターを殲滅するに足る。この個体もまた、口元から血を滴らせてアトミ達を睨んでいる。食事を邪魔されて気が立っているらしい。


「まあ、もうこいつは一度見てる(・・・)。手間はかからねえからそこで見てろよ」


 アトミは指揮棒を懐からゆっくりと取り出すと、警戒し威嚇の体勢を取っている羽剥鬼へ向ける。


「『No.8:Bullet(虫喰い)/Mode:Search(診せて) and Destroy(から死ね)』」


 土の魔術で削り出された、三十の擬似的な銃弾が一斉に羽剥鬼の方へその顎を向ける。アトミが現在同時発動出来るの最大数の『No.8:Bullet(虫喰い)』。その内の一発がぱん、と薬局内部の火薬を破裂させ飛んでいく。


 苦もなく躱す羽剥鬼。銃弾の速度程度であればこの怪物は発射してから射線を避けることくらい容易い。反撃をすべく体重を残しておく余裕すらあった。


 もう一発。これもひらりと避ける。間合いを少しずつ羽剥鬼が詰める。次、次、その次、まだ、まだ当たらない。それでもアトミは愚直に撃ち続ける。


「ちょ、ちょっと!! それって前も単発じゃ当たらなかったでしょ? このままじゃ――」


「よせ、アルビーナ。ったく、斥候ならもうちょっとよく見ろ。もうすぐ詰みだ」


 戦闘におけるアトミの最大のアドバンテージは、無制限のオドでも、改造により得たその筋力でもない。


 圧倒的な処理速度。膨大な視覚情報を認識、処理し、余人を寄せ付けぬ早さで問題を解決していく。相手が素早くて当たらないのなら回避先を計算し偏差射撃を。それでも駄目なら発射速度を、角度を、タイミングを改善する。一手前よりも良い状況を作る。


 故に『Mode:Search(診せて) and Destroy(から死ね)』。戦闘中に分析、行動を最適化し必勝パターンを作成する、アトミにしか出来ない戦い方。『壱式魔法ナンバーマジック』の真骨頂。


「薬莢付きなら弾幕張ってすぐ終わらせられるって言ってたくせによ……経験を積むためにあえて嬲り殺すか。魔術師ってのはこれだから怖えよな」


 前回とは違い、アトミの側には余裕があった。一度相対し打倒していることも勿論そうだが、立ち位置や場所があまりにもアトミにとって都合がよすぎた。倒すどころか経験値稼ぎ(レベリング)が出来るほどに。哀れ羽剥鬼は弾速に追い付かなくなり額に風穴を開けた。


「緊張感に欠けるから他のモンスター寄せ手伝ってやってるんだろ? なんなら全部やってやろうか?」


「ナメんなよ、皮被り(ルーキー)


「斧投げられたいのかしらね、このひよっ子は」


 挑発された二人は歯を剥き出しにして攻撃的に笑む。この遺跡探索では二人の活躍というのはあまりなかった故に自尊心が密かに傷ついていたらしい。


「ビ、チヂ、ヂヂジャ!!」


 言うが早いか現れたのは鼠鬼ラットマン。繁殖力の強さと群れる習性から両の手では到底数え切れぬほどの数が一斉にアトミ達のいる広間に雪崩れ込んでくる。そのどれもが敵愾心に満ちた顔でアトミ達を睨んでおり、正体不明の音をさせた警戒対象である彼らを逃がす気はないようだった。


「こちとらむしゃくしゃしてんだよ、付き合ってくれよハゲ」


 先に動いたのはジョゼ。並ぶモンスターの群れへ突っ込むように正面から突撃し、その鮮やかな双剣捌きで幾体かの首をすれ違いざまに斬りつける。霧のように血飛沫が吹き上がり、倒れる。他の鼠鬼が囲もうとした時にはもうそこにジョゼはいない。ヒットアンドアウェイ。時には大型モンスターからの攻撃を凌ぎながら敵対心(ヘイト)を集め、前線を支える技巧派だからこそ可能な熟練した技能。


「楽できたのは事実だけど、ナメられっぱなしも癪だしね」


 そしてアルビーナ。彼女は見た目やこれまでの行動からの印象とは裏腹に、完全なカウンター型である。支援用に持っていた投げ斧は腰に下げたまま、幅の狭い小剣(ショートソード)を手に、バックラーを付けた左手で容易く鼠鬼の攻撃を弾く。固有魔法ギフトである『魔力視』により、オドの揺らめきが感知できる彼女には、目の前の敵がこれから何をしようとしているのか、全て分かる。腕を振り下ろすその前からそこへ盾を構え攻撃を弾き、体勢を崩す。そして追い討ちをかけるタイミングも、箇所も、最もオドの薄い効果的な場所へ行われる。当然、モンスターの中でも低位の鼠鬼が耐えられる威力ではない。


「手出すなよ、アトミ」


「すぐ終わるから」


 そこには、アトミにないもの全てがあった。多数に囲まれても動揺しない冷静な判断力。体に染み付いた経験。そしてそれらに裏打ちされた自信。流石は一流の端くれ。魔法がなければ、アトミに彼らと並ぶことなど当然出来なかっただろう。故に今回の探索ではアトミが前面に出ていた。連携不足の魔術師を連れて、後ろから誤射でもすれば一大事だからだ。


 いくら新人のお守りとはいえ上手く噛み合わないまま戦い続けるのにもストレスが溜まるだろうという思惑から挑発したアトミだったが、彼が想定している以上にジョゼとアルビーナは堪え性がない。結局、目を血走らせた二人に鼠鬼達はあっさりと殲滅され、もとより異臭のする広間は更に血生臭くなるのであった。





 一行が最後に戦闘を行ってから、数時間。取り立てて何もなく順調に探索は進みモンスターから採取した素材や、道中拾った古代の遺物――帰って鑑定士にでも見て貰わなければ値は分からないが小金にはなる――もそれなりの量になって来た頃、仕掛けられているトラップが増えだした。


「これは、何かあるわね。アトミ、三歩先の床踏まないで。落ちるわよ」


 元より慎重に進んでいたところを更にゆっくりと警戒しながら歩く。厳しく注意するもののアルビーナが嬉しそうに告げる。


「そもそもどんな施設でも中枢部にはトラップがあるけど、こういう落とし穴系のトラップは大体実用性のないお宝を飾る宝物庫の近くに多いわ。だってほら、軍事拠点なんかの緊急時に人が大勢動く場所にそんなもの仕掛けたら味方が落ちたりするでしょ?」


「つまり、ここへ焦ってやってくるのは盗人だけだってのを想定してるわけか」


「そう。しかもこの頻度で仕掛けてるくらいだから、あの部屋辺りが怪しいわね」


 そこは他の部屋とは決定的に違うことがあった。扉である。他の場所には扉がなく、部屋と部屋は壁で隔てられてはいるものの、扉で密閉されていることはなかった。しかし、この部屋は扉でしっかりと閉められている。切り出された岩に豪奢な彫りや丹が入っており、色褪せ、風化した今もどことなく荘厳な空気を纏っている。


「……中はそうとうヤバそうね」


 部屋の中を流れる魔力を見たアルビーナが呟く。


「どういう感じだ」


「中にモンスターがいるわ。特有のオドが流れてる。一体だけ。でも……そのオドの量が半端じゃない。迷宮(ダンジョン)階層主(クラスボス)並ね」


 階層主(クラスボス)とは、迷宮の生成する自己防衛機能のことである。地上に比べ、オド濃度の高い空気が流れる迷宮にはモンスターが棲息していることが多いが、それはあくまでもただ棲みついているだけである。迷宮が産みだすのはヒトを誘き寄せる数多の魅力的な鉱石や霊草に聖水、そんな資源と、ヒトを殺すための階層主(クラスボス)のみ。その強さは、地上のモンスターとは比べ物にならない。


「どうする?」


 アトミが尋ねる。闘いたいと思ったわけではないが、昨夜のジョゼの決意を聞けば、彼はこの遺跡のモンスターを打倒した、という名誉を得るべきである気もしたのだ。


「一旦退くわ」


 アルビーナが答える。彼女は自らの目で脅威の度合いを確かめられる。最も冷静であり、故にこのパーティの判断はクランリーダーのジョゼを差し置いて彼女に委ねられている。


「だな。マッピングもしてあるし、目立つようなモンスターは狩ってある。次はもっと人数を連れて来れる」





 そうして、メンバーを追加し、準備を整えた一行が再びこの場を訪れたのは、一週間後のことである。


ジョゼ


聖都タルカのクラン『アリウム・ギガンチウム』のリーダー。元は別の街の孤児であったが、そうした身寄りのない者にも成り上がるチャンスのある冒険者を選び、自分と似た境遇の仲間と過ごす内に気付けばクランのリーダーとなっていた。


今はカミネという死んだ妹との約束のためにクランを一流のものに押し上げようとしている。


得物は双剣で相手を翻弄する闘い方を主とする。

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