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カボチャのジャック  作者: 北峰


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第四話 前夜祭

 ボールのように転がるカボチャが、ようやく動きを止めたのは、坂を下りきったところだった。

 魔女の仮装のせいで動作がいつもより鈍くなり、リサはそこへたどり着いた時には、肩で大きく息をしていた。


「あー……疲れた……」

「いや、それはオレの台詞だし」


 こんな時でも、ジャックは細かく突っ込むことを忘れない。

 しかし、リサの注意を引きつけたのは、皮が傷だらけになった哀れなカボチャより、目の前の大きな光だった。


「教会に明かりがついてる……」


 皓々(こうこう)とまばゆい光がステンドグラスをすり抜けて、色鮮やかにジャックを照らし出している。

 村人たちはみな寝静まっているのに、この教会だけは夜更けにもまだ明かりを灯しているようだった。


「今夜はハロウィンだからな」


 どこか投げやりなジャックの言葉に、リサは小さくうなずいた。

 確かに、今年はハロウィンの祭り自体は取りやめになってしまったが、明日が万聖節であることに変わりはない。


 万聖節――死せるすべての聖人たちへの祝い日。それならば、前夜に教会だけが明かりを灯し、夜通し祈りを捧げていても不思議ではない。


「そうだわ、ちょっと疲れちゃったし……ここで一休みしようかしら」


 まるでカボチャの収穫のように、無造作にジャックを拾い上げると、リサはずんずんと教会に向かって歩き出した。




 ギィ……と、重くきしむ音を立てて、中央扉がゆっくりと開く。何百年も前に建てられ、戦火もくぐり抜けたと伝えられる石造りの教会は、屋内でも空気が冷たく感じられた。


 一歩足を踏み入れて、リサは思わず目を見張った。

 中央の礼拝室を囲むように、教会内には数え切れないほどのジャック・オ・ランタンが飾られていたのだ。


 カボチャの照らすオレンジの光がステンドグラスに反射して、色とりどりの影を生む。炎が揺れるたび、影もまたざわめいて、ジャックを抱きしめるリサの手も思わず力がこもってしまった。


 ハロウィンの夜は、死者の霊が訪れる――

 となれば、この無数のランタンは、魂を呼ぶ篝火(かがりび)だろうか。


「――こんな遅くに現れるなんて、悪い魔女ですね」


 背後から不意に声をかけられて、リサは思わず飛び上がりそうになった。慌てて振り返り、彼女はその声の主を見上げた。


「あ……し、神父様……!」


 教会に神父がいるのは当然のことだが、この異様な空気の中で、突然の出現はリサを大いに驚かせた。

 初老の神父は、銀縁の眼鏡の奥に、困惑した表情を浮かべた。


「一人でこんな時間にどうしたんですか? 他の子たちは、夕方にお菓子をもらって帰っていったのに」

「え? お菓子?」


 今度ばかりは、掛け値なしに驚いた。神父は今、何と言ったのだ?


「そうですよ。今年は夜のお祭りが取りやめになってしまったので、その代わりに夕方、皆さんここでランタンを作ったんです。来た子たちにはお菓子を配りましたけど、もしかしてもらいそこねたんですか?」


 ――そうだったのか。


 リサはまったく知らなかったが、他の子供たちはそんなことをしていたのか。確かに、ここにあるランタンは、神父一人で作るには多すぎる。理由を知って合点はいったが、逆に別の点で納得できなかった。


 ――自分もまた、のけ者にされていたなんて。


 去年、自分がカレンを無視したように、今年は自分がはじかれたのだ。誰も、教会でそんなイベントがあるなんて、一度も教えてくれなかった。


 だからこそ、なけなしの小遣いをはたいてカボチャを買ってまで、一人でランタンを作ろうとしていたのに……。


 急に悔しさと悲しさがこみ上げてきて、リサはうつむいたまま下唇を強く噛みしめた。

 でも、ここで弱音を吐きたくない。そんな思いが、彼女の唇を開かせた。


「あの……あたしは、ここへ祈りに来たんです」

「祈り?」


 神父は眼鏡ごしに、驚いた目で少女を見つめる。リサは一度息をつくと、再び口を開いた。


「カレンが……見つかりますようにって。今日でちょうど一年になるから……」


 去年のハロウィンに行方不明になった、一人の少女。村でたった一つの教会では、洗礼も皆ここで受ける。当然、長年ここで勤める神父もカレンのことを知らないはずがなかった。


「そうですか……。あなたは心の美しい人ですね。さぞ主もお喜びでしょう」


 そう口にすると、神父は唇の端にかすかな笑みをのせた。


「あなたの思いが届くよう、私もともに祈りを捧げましょう」


 神父はリサの肩に手を置くと、ランタンに包まれた礼拝室を歩き始めた。

 その最も奥には、十字に架けられた聖なる人の像がある。


 茨の冠をかぶり、両手足を打ち付けられ、十字架に張りつけられた、痛ましい主の姿。幾度となく説教で、これが救いの主だと聞かされても、その哀れな様はいつ見ても胸に詰まる。


 リサは、無残な姿の像の前で立ち止まると、ひざまずいて祈りを捧げようとした。

 しかし、その彼女の動きを、なぜか神父は手で制した。


「今夜はハロウィンですから、特別な祭壇で祈りましょう」


 確かに、蝋燭の炎がランタンの灯に変わるくらいなのだから、今夜はハロウィンらしい手順を踏んだほうが良いだろう。

 一つうなずき、神父に案内される通り、リサは奥の部屋へと向かっていった。

こちらのハロウィン向け小説、明日20時過ぎ、2話更新で完結となります!

よろしくお願いします!!

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― 新着の感想 ―
なんだか今度は、リサが孤立してしまったような雰囲気になっていますね。 去年のカレンと立場が逆転したような……。大丈夫かな? それに、いつも口うるさいジャックが途中から妙に静かですし、何かありそうな予…
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