(四)一族と仲間
◆ 一族
次に、一族。
かつて魔王軍は、勇者血族を監視対象にした。
歴代勇者は、東の古英雄の系譜と関わっていた。
王族。
騎士。
古い聖職者。
神託を受けた家。
その記録は、血筋の重要性を示しているように見えた。
だから血筋は、勇者の条件とされた。
だが、ロアンの家系からは何も見つからなかった。
王族でもない。
聖職者の末裔でもない。
東の勇者血族でもない。
畑。
家畜。
薪割り。
家事手伝い。
小鬼の書庫番が資料を読む。
「うちは普通の家です。畑と家畜と薪割りなら」
竜将は額に手を当てた。
「それを後世は、勇者の一族と呼ぶのか」
吸血侯が答える。
「すでに呼んでいます」
「畑と家畜と薪割りを」
「はい」
「勇者の一族と」
「はい」
竜将は深く息を吐いた。
死霊宰相が言う。
「血がロアンを勇者にしたのではない。ロアンが魔王を討ったために、血筋が後から意味を持った」
「では、血筋を封じても、足りぬ」
竜将が苦々しく言った。
「はい」
ロアンの家族は、彼を勇者として送り出したわけではない。
神聖な使命を託したわけでもない。
家の仕事を手伝わせ、怪我を心配し、帰りを待っていた。
帰る場所だった。
それは、勇者の条件としては地味すぎる。
だが、旅をする者には必要だった。
死霊宰相は新しい札を置く。
帰る場所だった家族。
「勇者の一族だったから勇者が出たのではない。ロアンが魔王を討ったため、家族が後に勇者の一族と呼ばれた」
吸血侯が静かに言う。
「人間は、血筋にも物語を求める」
竜将は言った。
「魔族もだ」
吸血侯は少し笑った。
「否定はしません」
◆ 仲間
最後に、仲間。
かつて魔王は、勇者を一人の剣士としてだけでは見なかった。
それは正しかった。
回復役。
魔術師。
前衛。
索敵役。
地形突破役。
補給。
情報。
それらが揃って初めて、勇者は魔王の前に立つ。
これは非常に鋭い分析だった。
実際、ロアンたちは一人では魔王に届かなかった。
ミルカが術式をずらした。
エナが危険を見た。
ガルドが魔王に傷を入れた。
ロアンが中心になった。
だが、彼らは最初から賢者、聖女、剣聖として揃っていたわけではない。
ミルカは、普通の火の魔法を異常な精度で使った魔法使いだった。
エナは、地方神殿の見習い神官だった。
ガルドは、田舎道場で剣を振り、必要なら崖を上って薬草を取っていた剣士だった。
吸血侯が言う。
「我らは、称号を探しました」
死霊宰相が続ける。
「彼らは、役割を果たした」
竜将は魔王戦を思い出す。
ロアンが動くと、全員が動いた。
ミルカが魔法陣の要を焼き、エナが一拍を読ませ、ガルドが踏み込み、ロアンが穴を埋めた。
勇者一人が、従者を従えていたのではない。
一人が欠ければ崩れる四人だった。
竜将は小さく言う。
「勇者一人と従者ではなかった」
吸血侯がうなずく。
「四人で一つの戦力でした」
小鬼の書庫番が、小さく言う。
「本人たちは、それを一番よく知っていたようです」
死霊宰相は新しい札を置く。
足りないものを補った者たち。
「伝説の仲間が揃っていたから勇者が来たのではない。互いに足りないものを補った者たちが、後に伝説の仲間と呼ばれた」
竜将は、古い仲間の札を見た。
そして、新しい札を見る。
伝説の仲間。
足りないものを補った者たち。
それもまた、似ている。
だが、同じではなかった。
※第40話「勇者の条件」は全七回です。
続きます。
作者個人サイトでは、人物相関図・各話アイキャッチ・用語メモなどの補足資料を公開しています。
※ネタバレ範囲にご注意ください。
https://www.simulationroom999.com/blog/yuusha-no-jouken-top/




