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リトアニア建国記 ~ミンダウガス王の物語~  作者: ほうこうおんち
第4章:内戦から新たな形へ
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ヴォルタ城攻防戦

 話はタウトヴィラス、ゲドヴィダス兄弟来襲前に戻る。

 急ぎ帰還したミンダウガスを、舅のビクシュイスが何事かと尋ねた。

 事態を知ったビクシュイスは、直ちに連絡が取れるミンダウガス派の公爵に事を知らせた。

 そんなミンダウガス派の公爵の一人、副将であるヴェンブタスは軽騎兵部隊と共にヴォルタ城のすぐ近くに居た為、駆け付けて今後の事を話し合う。


「しかし、筆頭公爵が戻って来られて良かったです。

 この城は筆頭公爵の居城であると同時に、タウトヴィラス、ゲドヴィダス兄弟が育った城でもあります。

 彼等なら、長所も弱点も知っているから、落とす事が出来たでしょう。

 ですから、城主である筆頭公爵が居ないと守り切れませんでした」

 ヴェンブタスはそう言うと、今後の防衛計画を話す。

 軽騎兵は守りには向かない。

 よって、これらは外に置いて、兄弟の軍を背後から襲うのが良い。

 防御はクロスボウ部隊と、歩兵の弓で行う。

 打って出る事はせず、軽騎兵の襲撃まで耐え抜く。

 この方針に基本ミンダウガスも文句は無い。


 だが、あっちに振れ、こっちに振れとまだダメ人間状態を脱し切れていないミンダウガスが

「だが、軽騎兵で攻撃すると甥っ子どもを殺しかねないなあ。

 酷い事をしてしまったけど、仲直りをしたいのは事実。

 俺が悪かったんだから、許してやりたいんだよねえ」

 と言い出し、ヴェンブタスは頭を抱える。

「それは平時の判断でしょ!

 今は戦時!

 謀反を起こした者に情けを掛けるのは、君主としておかしいです。

 戦う相手なら、例え身内でも容赦してはなりません」

「俺もちょっと前ならそう思った。

 だけど、恩は売っておくものだよ。

 俺も、遠い昔の恩でこうして帰還し、戦う準備が出来ているんだから」

 ちょっとだらしがない表情のミンダウガスを見て、ヴェンブタスとビクシュイスは顔を見合わせる。

「そう言えば聞いていませんでした。

 ミンダウガス殿はどうやって、この危機を知ったのですか?」

「いや……昔懐かしい人から知らされてねえ。

 その人はええと……亡きルアーナの父であるビクシュイス殿には何と言ったら良いか……」

 妙にもじもじした態度に

(女絡みか!)

(女絡みだな!)

 付き合いが長く、ミンダウガスより年長の二人はあっという間に理解した。

「婿殿。

 私は以前から、貴方が後添えを迎えても、変わらず忠誠を誓うと申しております。

 貴方が、忌み嫌われていた娘を死ぬまで大事にしてくれた事、それこそ恩と思っております。

 貴方の女性関係について、文句を言う事はありません。

 だからどうか気にせずに、お話し下さい。

 どちらの女性が知らせてくれたのですか?」

 ビクシュイスは、自分の婿がやっと娘の死を乗り越えたような気がして、ちょっとだけ寂しく、しかし全体的には嬉しかった。

 余りに強過ぎる愛情は、死後の魂すら縛ってしまう。

 輪廻転生も信じるバルトの宗教。

 ミンダウガスには悪いが、娘には早く、健全な夫婦の間に出来た幸せな子として生まれ変わって欲しい。

 だから、ミンダウガスが吹っ切れたなら、それは娘の魂を縛って生まれ変わりを妨げる重い想いが無くなるだろう。

 そんな舅の気持ちに、ミンダウガスは気づかない。


「あ、女性と言ったっけ?

 まあ、そんなんだけど……」

 態度からバレバレだったが、構わず説明を始める。

 ミンダウガスは、反乱の参加者であるシャウレイのヴィスマンタス公の妻・モルタが情報を漏らしてくれた事を話した。

 そして、モルタとは昔、リヴォニアから逃げ出した所を保護した女性である事。

 自分の判断ミスでヴィスマンタスの妻にされてしまった事。

 そのヴィスマンタスが酔って暗殺計画を漏らした事。

 モルタが今でも自分の事を忘れてなく、自分を助けてくれた事。

 幼く可愛かった少女が、今も面影を残しつつも美人に成長した事。

 その香り、肌の光沢、唇の艶やかさ……。

 前半3割、後半7割で熱く語るミンダウガスに、二人は呆れていたが、とりあえずは真面目な表情で最後まで語らせた。


「分かりました。

 甥を助けたいというのが筆頭公爵の意思ならば、それに従います」

「頼む」

 流石にこの辺では、にやけた顔のミンダウガスは居なく、真面目な表情に戻っている。

「であれば、一つ提案があります」

 ヴェンブタスが策を出す。

「軽騎兵を城外で待機させただけでは、折角の部隊を遊ばせておくだけです。

 かと言って、さっきも言った通り、軽騎兵は守りには向きません。

 そこで、タウトヴィラス殿たちがこの城に攻め寄せると時を合わせて、反乱の首謀者たるシャウレイのブリオニス家を討ちましょう。

 筆頭公爵の話では、彼等は『ジェマイティアに向かった筆頭公爵』を挟み撃ちにするべく、城を出ている筈です。

 そこを電撃的に襲いましょう。

 反乱勢力に打撃を与えられますし、何より軽騎兵の使い方はこれが一番です」

「おお、なるほど。

 甥っ子どもも、頼りにしているブリオニス家が敗北したとなれば、戦意を失う事もあるでしょう。

 良い策ではないでしょうか? ミンダウガス殿」

「ヴェンブタス公の策を採用する。

 甥たちはこちらで何とかするから、奴等に味方する者どもを討って来てくれ」

「了解しました!」


 かくして城の事をよく知るミンダウガスが防御、軽騎兵を率いるヴェンブタスが攻撃を担当し、反乱軍の第一撃に対処すると決まった。




 タウトヴィラス、ゲドヴィダス兄弟の攻撃は、ルーシ兵のクロスボウ一斉攻撃によって始まった。

 リトアニアの城は、石造りではなく、木の柵で囲われたものである。

 こういった部分で、リトアニアは十字軍国家に相当劣っていた。

 だがそれでも、投石機を使わない甥たちの攻撃では、地中深く打ち込んだ杭を連ねて防壁としている城に歯が立たない。

 撃ち返すヴォルタ城守備隊。

 甥たちには計算違いだったようだ。

 奇襲に驚かない城兵の整然とした反撃、城門は閉じたままで乱れが無い。

 兵たちの前にタウトヴィラスが馬を出し

「我はこの城の正当な城主ダウスプルンガスの長子・タウトヴィラスである!

 今の攻撃は単なる挨拶だ!

 筆頭公爵を名乗り、この国を己の欲しいがままにせん暴君ミンダウガスは死んだ!

 正当な城主の帰還である。

 門を開けろ!」

 と怒鳴った。


 ミンダウガスが櫓の上に立ち、皆に姿を見せる。

「誰が死んだって?」

 その大声に、味方は歓声、敵からはざわめきが聞こえて来た。

「ミンダウガス!

 なんでお前がここに居る?」

「俺の城に俺が居て、何がおかしい?」

「そこは俺たちの城だ!」

「うん、確かにそうだな。

 だから仲直りの使者を送ったが、お前たちは無視した。

 そして、最初から開城を迫るでもなく、ルーシ兵を使って先制攻撃をした。

 悪手だったな、タウトヴィラス」


 確かに、最初に名乗っていれば、そのまま城門を通れたかもしれない。

 しかし、シャウレイのヴィスマンタス公からの連絡によれば、ミンダウガスは少数の供とジェマイティアに向かったという。

 城内には多数のミンダウガス派の兵が残っている。

 だから、まず彼等に先制攻撃を掛けて親ミンダウガス派の戦意を奪い、然る後に家長奪還を宣言しようと思ったのだ。

 ミンダウガスが不在なら、それでも良かった。

 目の前に居て、正当性の主張し合いになるなら、先制攻撃は拙かった。


 こうして奇襲に失敗したタウトヴィラスたちは、城を囲んでの長期戦を選ばず、一旦城の近くから退いて、距離を置いて布陣してからの強襲に切り替える。

「軽騎兵はきっと外に居る。

 奴等が襲って来る前に、城を落とす。

 我が軍の軽騎兵は、敵の襲撃を見つけたら、直ちに報告せよ!」


 タウトヴィラスは、ミンダウガスが手塩に掛けて育てた軽騎兵を恐れていた。

 それこそ、間近で見て来ただけに、その強さは知っている。

 自分たちのスモレンスク遠征でも軽騎兵は附けられたが、基本偵察部隊であり、数も少ない。

 ミンダウガスの軽騎兵とヴォルタ城との挟み撃ちになる前に、城の方を落としてしまおう。

 勝手知ったる我が家であり、攻め口は承知している。


 だが、兄弟だけが地の利を得ている訳ではない。

 現城主も、そこは抜かりない。

「お前たちが攻め方を知っているように、俺も守るべき場所は分かっているんだよ」

 ミンダウガスは、地形的に防御が弱く、補修工事もしづらい場所からの攻撃は予想していた。

 そこに重点的にクロスボウ部隊を配置している。

 城壁を破壊しようと取りついたが、そこには鎧を貫通する強力な矢が飛んで来た。


「そして、こっちに目を向けておいて、本命は正面から来る。

 陽動作戦、それも想定済み。

 お前たちに兵の動かし方を教えたのは誰だと思っているんだ?」

 正門に、丸太をぶつけて突破しようとした騎馬隊を、冷静に櫓から射殺していく。


「ミンダウガス、出て来い!

 リトアニアの戦士らしく、槍や斧で勝負をつけようぞ!」

 計算が狂ったタウトヴィラスが、苦し紛れにそう叫ぶ。

「そうだ、俺とも戦え!」

 弟のゲドヴィダスもそれに追従した。

「苦し紛れの挑発か。

 見事なまでに予想通りだな。

 全く意外性が無い。

 おい、タウトヴィラス。

 ところでヴィーキンタスはどこに行った?

 あの戦上手なら、俺にここまで手の内を読まれる事も無いだろ?」

「知らん!

 教えるわけないだろう!」


 それだけでミンダウガスは、大体は分かった。

 奇襲で城を落とせると見た甥たちは、ヴィーキンタスを伴っていない。

 ヴィーキンタスは恐らく、自分の兵力を糾合する為にジェマイティアの居城に向かい、子のトレニオタと会っているだろう。

 今この場に恐ろしい敵が居ないなら、後は甥っ子たちをあしらいながら待ちの一手だ。


「ミンダウガス、出て来い!」

 そんな遠吠えを聞きながら、ミンダウガスは冷静に城内で指揮を執り続けている。


 そして籠城戦は唐突に終わる。

 ヴェンブタス公率いる軽騎兵が、ミンダウガスが居ない事が分かって戻る途中のヴィスマンタス、ゲドヴィラスそしてスプルデイキスというシャウレイの3兄弟の軍を発見、これを急襲して打ち破ったという報告が、敵味方にもたらされたのだ。

 タウトヴィラスたちは慌てて兵を引いた。

 グズグズしていたら、今度は彼等が軽騎兵の襲撃を受けてしまう。


 こうして交通の要衝シャウレイを占拠、本拠地ヴォルタ城も解囲されたのだが、実は状況はそれ程良いものではなかった。

 タウトヴィラス兄弟はまだ兵力を温存したまま去ったのだし、戦上手なヴィーキンタスがジェマイティアで復活する。

 その上、外国にもリトアニアの属国攻撃の動きが見られた。

 この内乱は、まだまだミンダウガスにとって厳しいままである。 

おまけ:

中世リトアニアの木造城塞の防衛機構とか、知らないので知ってる人いたら、教えて下さい!!!!

……まあ、日本でも近い時代の源平合戦で、衣笠城とか一ノ谷城塞とか阿津賀志山防塁とかありますが、ここも戦国時代の城に比べて余り詳しくは分かってないので、古い時代の木造建築物は分からないのかもしれません。

なので、一般的な丸太の城壁に物見櫓、城の外には妨害用の木柵、その周囲を掘り下げている構造を想定しました。

地形を変えず、盛り土や一部石積みの塁も造ったかな。

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