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リトアニア建国記 ~ミンダウガス王の物語~  作者: ほうこうおんち
第3章:新国家リトアニアの苦難
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シャウレイの戦い(前編)

 帯剣騎士団を中心とした十字軍がリヴォニアを出てリトアニアに侵攻開始。

 この情報をミンダウガスたちはいち早く入手した。

 新生リトアニアにとって最初の重大な危機である。

 こういう時、公爵たちは団結する。

 いざという時には、どんな不満があろうがそれを無かった事にして纏まるのだ。


 諸公はヴォルタ城に集結する。

 その中で、ジェマイティアのヴィーキンタスとエルドヴィラスの二人の公爵は、代理人を送って来た。

 帯剣騎士団は、ドイツ騎士団と接続出来るように沿岸部を狙っている。

 ジェマイティアはそちらに近い為、帯剣騎士団の攻撃目標となるだろう。

 だから指揮官である二人の公爵が、領地を離れる訳にはいかないのだ。

 ミンダウガスもそれを理解しているから、公爵が直接来ない事に一々目くじらを立てない。


 リトアニアは、ようやく軽騎兵と機械弓兵が物になりつつある。

 クロスボウの模倣製造を手掛けていた細工師が、その弓が複数の材料を貼り合わせて作った複合弓である事を突き止め、これが騎兵の強化に役立った。

 狩猟用の一枚板の弓と違い、加工をした複合弓は強力である。

 馬上で扱う短弓に適用すれば、軽量ながら長射程で高威力な武器となる。

 現に、モンゴル帝国はそういう弓を使っているのだ。

 こうして形になって来たリトアニア軽騎兵だが、言うまでもなく切り札である。

 この部隊をどのように使うか、それが作戦の要であった。


「十字軍の正面に出して、そのまま攻撃すれば良い!」

 今までの戦い方を踏襲する者は、そう主張した。

 リトアニア軍は騎士団が攻めて来ると、まず正面から迎え討ち、タイミングを見て撤退、相手を森や沼地に誘い込んで倒す。

 だが今回、敵兵力は3千に達する。

 機動力と攻撃力を高める一方、ただでさえ原始的な鎧を廃し、毛皮の服だけとした軽騎兵の防御力は極めて低かった。

 だから、戦法的に敵正面で防衛戦をするものではない。

 敵を遠巻きに包囲したり、追撃を掛けたりして使う。

 もっと数が揃ったなら別だが、今は使い所が限られるのだ。

「散々時間と資金を掛けた割に、役に立ちませんなあ」

 誰かにそんな事を言われ、ミンダウガスはムッとしていた。

 川柳にするなら

「その通り、だから余計に、腹が立ち」

 といったところだろう。


 そんな中、斥候部隊から十字軍の進撃ルートが知らされて来た。

 聞いた一同は呆れ、かつ焦りを感じた。

「皆さん、直ちに領土に戻り、各個に十字軍を打ち払うように。

 会議の必要は無かった。

 今まで通り各々が好きに戦うやり方で良い。

 以上、解散!」


 十字軍はまとまった行動をせず、リトアニアに通じるあらゆる道から、物資が有りそうな村落を襲撃し、略奪をした後は放火をしながら進撃していた。

 折角集合した一大騎士集団だから、中枢のヴォルタ城、もしくは何度も狙われていたジェマイティアに全軍を差し向け、そこで決戦が起こると考えていたミンダウガスたちは肩透かしを喰らう。

 しかし、こんな盗賊団が無秩序に村を荒らしまくるやり方で来られると、自分の支配地が荒廃してしまう。

 この場合、リトアニア軍も兵を集中運用させたら意味が無い。

 牛刀を以って鶏を裂くを、何回も繰り返さないとならないし、その間に手薄な場所から浸透されてしまう。

 公爵たちは手勢を率いて自領に戻り、こちらも分散して戦う事にした。

 今はまだ国境付近の村が焼かれ、略奪しながらだから侵攻はノロノロしたものだから、公爵たちの居城には達していない。

 だからさっさと帰城して迎撃を行う。


 十字軍とリトアニア公爵たちの戦いは、これっぽっちも劇的にはならなかった。

 十字軍は略奪に忙しい。

 リトアニア軍の基本戦術は、有利な地形に呼び込む事である。

 だから、十字軍が物欲にかまけて誘いに乗らなければ戦闘は発生しない。

 リトアニア軍の方から、村を襲っている十字軍に攻撃を仕掛ける事もあるが、この場合は良くて互角、大概は十字軍の騎士が勝った。

 平地戦ではキリスト教騎士の方が強いからだ。

 こうして各地を荒らし、破壊しまくる十字軍とリトアニア軍の戦いが起こらないまま、ダラダラと時間が過ぎていった。

 やがてリトアニア軍は、十字軍と敢えて戦わなくても、先んじて物資を奪ってしまえば何も出来なくなると悟る。

 ある意味焦土作戦だが、村人たちも十字軍の酷さを避難民から伝え聞いていた為、公爵たちの指示に従って、生活物資を馬に積んで森や沼の方に隠れる。

 と同時に、村の男たちはそのまま斧や銛等を持って軍に参加した。

 自分たちの生活を破壊したキリスト教徒許すまじ。

 村に来た十字軍は、そこが既にもぬけの空だと知ると、村人の避難先を探して襲おうとした。

 しかしそこが沼地だったりすると、彼等は途端にやる気を失って後退する。

 帯剣騎士団員はともかく、増援で来たホルシュタインの騎士たちは

「我々の馬を、あんな汚らしい場所に入れたくない」

 と駄々を捏ねていたのだ。


 こうして略奪も出来なくなった十字軍は、次第に士気を低下させていき、いつしか

「一旦リヴォニアに戻って態勢を立て直そう」

 という気持ちになっていた。


(これでは名誉回復にならない)

 焦ったのは帯剣騎士団長フォークウィンである。

 十字軍がやったのは、ただの略奪と放火だけで、リトアニアとはまともに戦っていない。

 略奪も放火も、拉致も虐殺もキリスト教徒が異教徒に行うのは神に許された行為だという、彼等の「常識」からすれば、別に恥ずかしい訳ではない。

 だが、騎士たるものがまともに戦わずに撤退とは、名誉ある行為ではない。

 フォークウィンは全軍に集結命令を出す。

 秩序を回復すると共に、全軍が纏まり、追撃に来るリトアニア軍と一戦しよう。

 もしリトアニア軍が来なくても、全軍揃って堂々とリガに戻ろうではないか。


 十字軍はシャウレイに集結を始めた。

挿絵(By みてみん)




 この頃、ミンダウガスたちは十字軍攻撃の為、戦力を整えていた。

 ミンダウガスの直率になる、国軍ともいえる戦力は3千人に達していた。

 しかし、彼等はそれ以上の大軍を手に入れる。

 副将であるヴェンブタス公が、苦笑いしながら増援とも言える戦力について報告していた。

「セミガリア族が、自分たちを傭兵としろ、と押し掛けて来ています。

 雇い入れ、金を払ってよろしいですな?」


 セミガリア人もリヴォニアの先住民族である。

 リーヴ人、レット人、ラガトリア人同様、帯剣騎士団の過酷な支配に苦しんでいる。

 居住地のゼムガレは、現在のラトビアとリトアニアに跨る辺りで、当時はドイツ騎士団領クールラント、帯剣騎士団領リヴォニア、リトアニア国内ジェマイティアに挟まれていた。

 リトアニアへの進路にあたる彼等の地も、行き掛けの駄賃で十字軍から略奪されていた。

 この蛮行に対して彼等は十字軍に対抗する道を選び、リトアニアまで押し掛けて来たのだ。

 流石に自分たちだけでは騎士団に勝てない。

 だから同じ非キリスト教の有力な国に雇われ、その下で戦うのだ。


「よろしい、彼等の参戦を歓迎する。

 働きに応じて雇い料を支払おう」

 ミンダウガスが許可を出す。

 このセミガリア人傭兵は一千人程である。

 だが、ミンダウガスがセミガリア人を雇った事を聞きつけたのか、様々な者たちが

「自分も雇え!」

 と甲冑及び槍を持ってやって来た。

 傭兵を合計すると四千人程になる。

 十字軍も随分と嫌われたものだ。

 この傭兵たちと、ミンダウガスが集めたリトアニア軍機動兵力三千人と合わせて七千余り、十字軍よりも大軍を用意出来た。

 これは一国の戦争指導者としては十分な働きである。

 あとはいつ、どうやって戦場に投入するか、だ。

 ヴォルタ城に置いていても、ただ飯を食わせるだけになる。

 ミンダウガスは、居城防衛に機械弓部隊と軽騎兵、それと従来のリトアニア兵士を合わせて二千程残し、更にドイツ騎士団や、もしかしたら日和見参戦で国境を犯す可能性があるルーシ諸国対策で千人を予備兵力とすると、残りは全て義兄でもあるヴィーキンタスの元に送ってやった。

 2人のジェマイティア公、3人のシャウレイ公の軍は、全部合わせて千人程度の私兵だった為、この援軍は何よりも助かる。


 かくして十字軍とリトアニア軍は、シャウレイにて激突しようとしていた。




「ミンダウガスの援軍が来よっと。

 また儂は借りを作ってしまっとおよ」

 シャウレイの公爵の一人、ヴィスマンタスが独り言を漏らす。

 もっとも、側には妻が居たので、独り言といえるかどうか。

「ミンダウガス……」

「そうたい、お前を助けて、この儂に預けたあの若造が、今では筆頭公爵ばい」

「……そうですか」

 傍らの妻は、かつて騎士に追われていた所をミンダウガスに助けられた少女・モルタである。

 強引にヴィスマンタス公の妻にされた彼女も、今は26歳になっていた。

「思い出すのか?」

「それはまあ、命の恩人ですから」

「まあ良い、今お前は儂の妻たい。

 浮気でもしたら、お前は居場所を失ってしまう」

「…………」

「まあお前を奪った事で、ルシュカイチャイ家のプリキエネにそこを突かれ、ミンダウガスとは何とも言えない関係ながら支持者になっとう。

 その為に、援軍を貰えるんだから悪くは無いかな」

「ご武運をお祈りします。

 誰の手による戦いでも、私は騎士団にだけは勝って欲しいと思っていますので」

「ふふ、殊勝な事よ。

 勝って帰ったら、お前の妹の嫁ぎ先も考えないとな」

「あなた……」

「なんだ?」

「私を妻にする時の約束をお忘れなく。

 妹を、リリヤを大事にするから私はあなたの傍に居ろという言葉に従ったのです」

「分かっとお!

 ばってん、良か相手を探すちゅうとる」

「覚えていらっしゃるなら結構です」

「ふん、そん気が強い所も良かな」

 そう言うとヴィスマンタス公は妻に下がるよう手を振った。


 夫の元を離れたモルタは、手を胸の前で組んで、こちらも独り言を吐く。

「あの方が……また私たちを助けてくれる。

 夫たちだけでは勝てなかった。

 神よ、どうか皆にご加護を。

 そして神の名の元に暴虐を行って来た者たちに、神罰という鉄槌を」

おまけ:

なんとなく前半戦は、銀英伝の帝国領侵攻作戦みたいな感じです。

戦力分散し過ぎた挙げ句、略奪出来なくなったから帰りたいので

「全軍シャウレイに集結、これは命令である」

ってなった感じ。


銀英伝と違って、十字軍は疲弊も損耗もしてはいませんが。


功績狙いの出兵計画は似たようなものですが、こっちのフォークさんは好き勝手する現場部隊に悩まされていますなあ。

はたして、フォーク「勝利(ウィン)」となるかどうか。

(現場指揮している分、こっちのフォークさんの方がマシ。

 率いているのがリップシュタット貴族連合軍みたいなものだし)

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