第15話 「調査」
秋葉と三鷹の打ち合わせも最終段階に入っていた。
秋葉が今回の話を聞いた時、疑問に思ったのは、
1.なぜ柚木誠司はこんなことを言い出したのか?
2.なぜのぞみ銀行が二晴を通じて30億円を融資すると言って来てたのか?
の二点だった。通常、どう考えても二晴も三鷹にも30億円を調達してくることは不可能である。YUZUNOKIを売るつもりなら可能だが、そんなことは誠司が許す筈がない。で、あれば最初から結果は決まっている。そうすると今回の話は、相続争いと財産分割をなるべく避ける為の儀式という点が有力…というのが秋葉の想定だった。三鷹にそのことを伝えると、
「基本的にはワンマン経営だからな。一言、一誠に全部継がせると言えば済むと思う。こんなことをする必要があるのかな?だいいちもともと一誠兄が継ぐことは決まっていたことだ」
とのことだった。
「そうすると別の思惑がありそうですね」
「ただ単に面白がってやってるだけかもな。もしくは俺への当てつけとか」
「仮にそうだとすると、二晴さんの融資の話には慌ててるでしょうね」
「それはそうかも。ただ二晴にしても俺にしても30億調達したからと言って、それをすんなり通す親父……でもないかな?」
「そうしたとしたら三鷹さんはともかくとして、二晴さんはおさまりがつかないでしょう」
「と言って二晴に何かできるわけでもないしな」
「それともう一つ。いま伝手を使って調べてますが、のぞみ銀行が融資の話に乗ってきたことです」
「あぁ、それは今回の話を方々に広めまわったバカ(二晴)がいたらしい。地元の経営者、みんな知ってたよ。で、のぞみ銀行の担当者にたまたま当たったみたい」
そう聞いても秋葉は釈然としなかった。仮にそれでのぞみ銀行が話に乗ってきたとしても、まずは社長の誠司のところへ行って確認を取るのではないか。いや、それよりもこんな相続争いの話を聞いたら眉をひそめるのも多いだろう。眉をひそめるだけならまだいい。地場の大手であるYUZUNOKIが相続争いで揺れている、これから揺れ始める、と競合他社が知ったらどうするか。
秋葉が競合他社から依頼があったとしたら、営業攻勢を仕掛けるか、M&Aを仕掛けるか、何かしら手を打とうと考える。現に秋葉自身、相続問題で創業社長からM&A先を探して来て欲しいと頼まれたことが何度かある。相続問題で企業を売却することは多々あるのだ。
顎に手を置いてそんなことを考えこんでいる秋葉を見て、三鷹はあきれながら言った。
「今さらのぞみ銀行のことなんて考えても関係ないだろ。今回の案で蹴散らしてやればいい。そもそもその銀行を一蹴する案を考えたのは秋葉さんだろ」
「そう、ですね。で、あればあとは最終的にお父さんに有無を言わせず決めさせる何かもう1つ欲しいですね」
「それは俺がやる。有無を言わせる気はないし、何より30億円が要らない話を蹴るほど親父は馬鹿じゃないだろ」
三鷹はそう答えながらも、
(この男はまだ念には念を入れることを考えているのか)
と心の中であきれていた。
調査を頼んだ伝手、つまり元経営コンサルティング会社の同僚から秋葉に電話が入ったのは、打ち合わせを終え、帰ろうとする間際だった。




