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ガイシ ー 夜の展示会からはじまる外資サバイバル  作者: 原崎 令一
第三章:不正発覚 ー いざ魔物の巣窟へ(大阪転勤編)

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8/8

第2話:オーバーナイトの真実

 装置の精度を維持するために22℃に保たれた部屋は快適なはずだが、 6月の淀川沿いを歩いてきた後だと妙に涼しく感じる。


 ――いや、涼しいというか、寒い。


 昨日、小山が言っていた。

 「もともと病院の霊安室だったところ」


 拓は首を振った。

 (――変なこと考えるな)


 幽霊なんかいない。

 いるのは、不具合を起こしているシステムだけだ。


 「それではサンプルをセットして、記録を開始します」


 と言って研究員がスタートボタンを押したのが、5時間前。

 今はまだ二十二時。

 夜はこれからだ……



 ……午前二時五十分


 持ち込みが許された缶コーヒーの最後の一滴を舌の上に落とした。

 たった一人の友人を失ったような、寂しさを感じた。

 だがシステムはそれを嘲笑うかのように、冷徹に動作を繰り返していく。


 「もう三時か……」


 心の声が振動となって発せられた瞬間、


 ――カシュン と言う音とともに、システムが停止した。


 拓は息を呑んだ。


 「……掴んだ」


 心臓が早鐘を打つ。

 5時間待った。缶コーヒー3本空けた。

 そして、ようやく――


  幽霊のしっぽを掴んだ。


 拓はすぐにログファイルを保存した。

 問題が起きた瞬間の記録。

 これを逃してはいけない。



 翌日。

 

 オフィスに戻った拓は、開発者向け資料とにらめっこを続けていた。

 素人ながら何百行ものログファイルを読み解いて、怪しい個所を見つけた。


 大量の画像を転送した直後、インターバルの待ち時間を使い切ってエラーメッセージを発しているのだ。


 「おかしいな、これくらいで転送が遅れるとは考えられない」


 納得がいかない拓はもう一度大学に戻って確認した。


 装置の裏に回って配線を確認していると、データ転送用に使用しているLANケーブルに違和感を感じた。

 分析装置にも外部デザイナーを採用して、デザインにこだわるM社が使用しているケーブルとは違うものだ。

 太さもかなり貧弱だ。


 その場で東京にいるサービスに電話してみると、納品作業をしたエンジニアの嶋田が出た。


 「あ、そうなんですよ。ケーブルが欠品してたので近くの電器屋で買って対応しました」


 東京のサービス担当・嶋田の声は、電話口で悪びれる様子もなかった。


 拓は受話器を握りしめた。

 M社の悪い癖だ。

 工場でも現場でも、手順の確認が足りない。

 だから、こうしたマイナートラブルが絶えない。


 営業所で正規品を確保し、配線をやり直す。

 ログを取りながらテストを繰り返した。

 転送時間が短くなり、待機時間を使い切ることもなくなった。


 ――これで、いける。


 小山と一緒に道木教授室に説明に向かった。



「ご迷惑をおかけしました」


 拓は、深く頭を下げた。


「正直、期待してなかったんだが」


 道木教授は、腕を組んだまま言った。


「解決してくれて助かった。実際に返品するとなると、選定に関わった多くの者がトラブルに巻き込まれるところだった」


 拓は顔を上げた。

 教授が、初めて笑っていた。


「君は、南條とは違うな」


 その言葉の意味を、拓はまだ完全には理解していなかった。


 ただ一つだけ、確かなことがあった。

 ――ここで、認められた。


 教授室の窓から、初夏の陽光が降り注いでいる。

 淀川の向こうに、大阪の街が広がっていた。


 拓は窓の外を見た。


 大阪での戦いは、まだ始まったばかりだ。

 南條の謎。

 一括請求の罠。

 そして、外資という戦場の本当の姿――


 拓の戦いは、これからだ。


 だが、今日という日を、彼は決して忘れないだろう。


 午前三時、たった一人で戦った夜。

 そして、誰かに認められた朝。


 拓は研究室を出た。

 廊下に、明るい光が満ちていた。


(第1部・完)

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 あとがき

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ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


「ガイシ」第1部は、ここで一旦完結とします。


展示会の夜から始まった中原拓の物語。

事業部閉鎖、外資への転職、そして大阪へ──


午前三時、たった一人で戦った夜。

拓の戦いは、ここで終わりません。


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 新シリーズ始動

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『外資サバイバル』第1弾

【午前三時の外資営業 ―― 大阪支社は問題児だらけ】


南條との対決。

一括請求の罠。

そして、外資という戦場の真実──


中原拓の本当の戦いが、始まります。


新シリーズで、またお会いしましょう。


これまで応援してくださった皆さま、

本当にありがとうございました。


次は、もっと熱く、もっと面白い物語を。


――原崎令一


作者マイページ:https://mypage.syosetu.com/2975831/

挿絵(By みてみん)

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