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ガイシ ー 夜の展示会からはじまる外資サバイバル  作者: 原崎 令一
第三章:不正発覚 ー いざ魔物の巣窟へ(大阪転勤編)

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第1話 大阪の歓迎、通じないロジック

 「お前、俺をクビにするために来たんか」


 いや、そんなこと聞かれても困る。


 僕、今日からなんですけど。

 乾杯したばっかりなんですけど。

 泡もまだ残ってるんですけど。


 南條さんは真顔だった。


 「誰派や。藤堂か?本社か?」


 派とか知らない。まだメールの署名も覚えてない。


 「俺はまだ辞めへんど」


 はい。僕もまだ始まってませんど。

 ――歓迎会って、もっと楽しいもんじゃなかったっけ。


 *


 翌日。


 まだ気まずい気持ちで営業車を運転する拓のとなりで、南條は寝ていた。


 「ほな、行こか」


 昨日のことなど何も覚えていないかのような今朝の一言に、むしろ清々しさを感じた。


 ――この人、本当に覚えてないのか? それとも、覚えてないフリなのか?

 どちらにせよ、拓は黙って南條の客先へ車を走らせた。


 「南條さん、いい加減にしてください。こんな使えない機械、もう返しますよ」


 今年製薬メーカーから研究室ごと移動してきた道木教授の声は、真新しい白い壁に鋭く突き刺さった。


 空調の音まで止まったように、誰も動かない。

 代理店の若い営業が息を呑む。

 沈黙の中に、立場の力学だけが露わになった。


 *


 帰りの車で南條が言った。


 「中原。大阪では、怒らせたもん勝ちや」


 その言葉の意味を、拓はまだ理解していなかった。


 ただ一つだけ確かだったのは――

 この男が、外資のロジックの外で動く人間だということだ。


 *


 小山という、その若い営業から電話があったのは、オフィスで帰り支度をしていた時だった。


 「中原さん、もう困ってますねん」


 *


 翌日、大学近くの喫茶店で小山の話を聞いた。


 「道木先生に納めた装置なんですが……」


 大手製薬メーカーで順風満帆だった道木教授が、大学から強いラブコールに答えて、新しい研究室を立ち上げたのが4月。


 M社の装置はその中でも、生きた細胞内での薬効を24時間観察できる、目玉装置として学長決裁で採用されたものだった。


 しかし、4月に納品されてからオーバーナイトでの実験記録に、一度も成功していないという。


 「正直言うて、装置に詳しい人が誰も大阪におられへんのです」


 小山は続けた。


 「東京から来はる人も二時間くらい動かして、『問題ない』って言うて帰らはるんですけど、

 結局同じなんですわ。

 このままやと、装置を納めたうちの会社が出入り禁止になってまうんです」


 大学の調達ルールは非常に厳格だ。

 メーカー責任の故障でも、直接契約した代理店にペナルティが出る。


 「分かりました、一回実験に立ち会わせてもらってもいいですか?

 オーバーナイトで観察するサンプルが出たところで」


 小山の表情が、少しだけ明るくなった。


 「ほんまですか?

 明日の夕方にはサンプルが出るそうです」


 *


 喫茶店を出ると、夕暮れの淀川が赤く染まっていた。


 「あ、そうや。言い忘れてましたけど……」


 小山が振り返った。


 「この研究棟、もともと病院の霊安室だったところに作られてますので」


 拓は足を止めた。


 「ちゃんと準備して臨まはった方がよろしいと思いますよ」


 小山は真顔だった。


 ――なんの準備がいるんですか。


 缶コーヒー、多めに買っていこう。

 それだけは確かだ。


この第三章のテーマは、「対決」です。


問題を発見した拓は、それとどう向き合うのか?


「ガイシ」は毎週金曜日20:00頃に更新します。


感想やブックマークで応援いただけると、とても励みになります。

引き続きよろしくお願いします。


*本作はフィクションですが、登場する企業文化や会話の多くは、現実の外資系ビジネス環境を取材・体験した上で構成しています。

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